本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.25

ここは…と思ったのは一瞬の事で、見覚えのある間仕切りのカーテンと独特の匂いでここが病室だということをすぐに理解した。
ぼうっとする頭で記憶の糸を手繰り寄せると、私は先生と喋っていたんだっけ…という記憶と共にまたあの感情を思い出す。
再び押し寄せてきたあの嫌な感情が私の心臓から滲み出してきたその時、カーテンの開く乾いた音が私の意識を"それ"から逸らさせた。

『あら、目を覚まされたんですね』

そう言ってカーテンの向こう側から目の前に現れた看護師のおばさんは、手に持ったクリップボードに目をやったまま突然に私の手首を握った。

『あっ失礼しますね』

おばさんは思い出したかのようにそう付け加えると、クリップボードに挟んだ紙へと何かを書きつつ私へ体温計を手渡してきた。
私はいい歳であろう目の前の婦人のモラルに欠ける行動に眉を顰めながらも体温計を脇に挟んだ。
ヒンヤリとした感触が私の肩をぴくんと縮ませる。
しかし、その感覚は一瞬のもので、それよりもギュっと力を入れた自分の身体の体温がいつもと違うことに気づく。
あれ?なんか私、熱いかも。
そう思った瞬間、私は次第に倦怠感や頭痛までを感じ始める。
こういうの、なんて言ったっけ…逆プラシーボ効果?前にもテレビでやってたやつだ。
あぁ…ダメだ。なんか、体調悪く思えてきちゃった…
そこで体温計の電子音が耳に響いた。
私が体温を確認しようと体温計を抜き取ると、突然伸びてきた手が私の手からそれを抜き取った。

『結構熱ありますねぇ、えっと…この患者さんは田中先生か…はい、じゃぁ失礼します』

そう言って一方的にピシャリと閉められたカーテンに向かって"なによっ"と小声を投げつけると、ふぅと大きく溜息を吐いて天井を見つめた。
…静かすぎる部屋のせいなのか、やはり私は体調が悪いのか、たった今悪印象を持ったばかりのあの人でも構わないから今は側に誰か居てほしいなんて思いが浮かんだ。
…みんな私のことなんて興味無いんだよね。
って何弱気になってんだよワタシ…
風見鶏みたいにコロコロと変わる自分の感情に嫌気がさす。そんな感情が何なのかすらよく分からない今の状況が…キライだ。





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