本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.19

その日、薬を飲んだおかげで暫くは喉の痛みが引いていたけど、陽が沈む頃には、また喉の痛みに加えて微熱が出てきてしまった。
そして私は"看病をするよ"と言ってくれた莉結に"大丈夫だから気にしないで"と答え、一人家へと戻ってきたのだった。
鞄を放り投げ、ベッドに身体を投げ込むと、腕に額の熱を感じながら薄暗く月明かりに照らされた天井を見つめた。
私、どうすればいいんだろう…
答えの見つかる筈もないその問いに、小川に落ちた花びらのように、ただただ時間だけが流れていく。
私はふと携帯を手に取ると、連絡先から"天堂彩"の名前を探した。

「あ、もしもし?うん、久しぶり。今ちょっといいかな?」

彩ちゃんは、いつもと違う私の雰囲気に気付いたのか、私の声を聞くなりすぐに"で、何かあったの?"と心配そうな声で言った。私は思わぬ返答に驚いて"えっと…"と言葉を選んでいると"どんな事でもちゃんと聞くからゆっくり喋って頂戴"と優しげな言葉が耳に届く。
優しいな…私、何にも言ってないのに。なんか、これだけで気持ちが軽くなった気がする。
私は丸くなって横向きになると、"突然なんだけどさぁ…"と口火を切った。

「彩ちゃんは、その…稚華さんとの将来とか、どう考えてるのかなぁって。あっ、別にその何となくって言うかちょっと気になっただけなんだけどさ」

"どうしたの?そんな事聞いて。喧嘩でもしたの?"

「いや、そういう訳じゃ無いんだけどさ。ただ、ちょっと気になって」

"…ならいいけど。それで、私と稚華の将来?なぜ?そんなもの分からないわ"

「えっ、そうなの?なんで?」

すると少し間を置いて、先程より少し低い声で彩ちゃんが答える。

"なんでって…私の行き着く先は同じだもの…いや、分かっているのかも知れない…だけどそれを分かりたくない。分からないままでいたいの"

私は彩ちゃんの言っていることが少しだけ分かる気がした。そう、答えは決まってるんだ。だけど私はその答えを受け入れたくない。ワガママって分かってても絶対に嫌なんだ。
すると彩ちゃんは小さく呟くように言った。
"でも衣瑠は何処へでも行けるのだから…"

私が「えっ?」と聞き返すと、彩ちゃんは"何でもないわっ、えっと、聞きたい事はそれだけ?"と少し早口に言う。
もっと聞きたい事があったけど、なんだか聞き辛くなって、私は「ううん、それだけ。突然ごめんね」と電話を切った。

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