本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.17

そこで私は、アルバムにぽつりと落ちた雫が白と黒の上をゆっくりと流れていくのを見て自分が泣いていることに気付く。
アルバムをゆっくりと閉じ指先で頬の水跡をなぞると、突然、莉結が"うーん…"と薄く開いた瞳を私へと向けた。
私は咄嗟に顔を背けると「起こしちゃった?ごめん。もう今日は寝よっか。電気…消すね」と言いつつ立ち上がる。

『あ、ごめん…私寝てた?うん、お願い』

背後で莉結の寝ぼけた声がすると、柔らかな欠伸と共にベッドが軋んだ。
私は天井から吊るされたお洒落な提灯みたいな照明の紐を引くと、かちかちと音がして、灯りが切り替わる。
そして常夜灯のオレンジ色に包まれた暗闇の中を莉結の隣、太陽の優しい匂いの残る布団の中へと入り込むと、ぐっと懐かしい雰囲気に包まれた。

『なんか今日は昔に戻ったみたいで楽しかったよ』

莉結は囁きとも小声とも分けつかないような声でそう言うと私の胸元へと潜り込んできた。そしてその顔が再び微かに届く薄暗いオレンジ色に照らされると『ずっと一緒だからね』と再びその顔が私へと沈んだ。
その言葉に私の頬が緩む。
私はあの頃のようにぼーっとオレンジ色の光の球を見つめた。
あの頃には無かった胸に伝わる温もりを感じて。
私は莉結の髪を指に絡めながら、何かを一つ一つ確かめるように薄暗い部屋の天井を見回した。
…何も変わってない。昔のままの天井。
あの時の"俺"が見た風景。
そして夜空に"ぼうっと"光り輝く星のように突然に浮かび上がった気持ちが、私の胸を締め付けるのだった。
瞼を閉じ、頭の中で答えを導き出そうとする度にぐるぐると渦巻いて何処かへと消えていってしまうその言葉は、いつのまにか眠りについた私の中を浮いては消えを繰り返した。



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