本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.16

これからだってきっと大丈夫、私には莉結が居てくれる。
昔は自分の中で莉結の存在がこんなにも大きいなんて気付きもしなかったなぁ…
私はそんな事を考えながら過去の記憶を遡っていた。

「そういえばさぁ、小さい頃に莉結が私の事泣かせた事あったよねっ」

『………』

私が「莉結?」と耳元で呟くも、返事の代わりに聞こえてきたのはすぅすぅと微かに届く莉結の寝息であった。
私は髪の掛かった莉結の頬を指でなぞると、静かに唇を寄せた。
こういうのってなんだかドキドキするな…
頬の火照りを感じつつ、私は莉結を起こしてしまわぬようにそっと姿勢を整えると、膝に置いたアルバムを手にとって静かに開いた。
パラパラとページをめくりながら、指先があるページで止まる。
そこには今と何も変わってないような、全てが変わってしまったような、あどけなさの残る莉結の姿があった。
その輪郭を指でなぞると、莉結の髪を頬に感じながら、少しだけ莉結に体重を預ける。
過去を見直すのも悪くないのかもなぁ、なんて思いつつページをめくっていくと、白さが際立つページで指が止まった。
それは、よく卒業の寄せ書きを書くような真っ白なページで、勿論、友達の多い莉結は、そのページが黒く埋まってしまう程の寄せ書きがびっしりと詰まっていたのだが、私の視線が止まっていたのはその寄せ書きの前のページだった。
あぁ…そういえばこんなの書けって言われた気がする。私は何を書いたんだろう?いや、確か何にも書かなかったっけ。
今となってはその時どんな夢があったのかとか、将来の事をどう考えていたかなんて思い出せないけど、私はそのページを見て思わず口元が緩んでしまった。
"将来の夢〜未来のワタシへ〜"と上部に印刷されたそのページには、いくつか箇条書きで文字が書かれており、一番初めに書かれていたのは、なんとも莉結らしい"痩せるッ!!w"の文字だった。
すぐに叶ってしまうようなそんな夢が微笑ましくなって、私は上から順にその"将来の夢"を読んでいったのだった。

"県大会に出場する!!"
これはすぐに叶えちゃってたなぁ。

"お婆ちゃん孝行をする"
これも…もうできてるんじゃないかなっ♪

"大人になってもずっとみんなと友達でいたい♪"
これも大丈夫だよ、きっと。

"お菓子の家に住みたい♪"
えっ?これ中学の卒業アルバムだよね…

あ…

そして最後の一つを目にした時だった。
私は思わず息を飲み、目を強く閉じた。
心臓に真っ黒なドロドロとした液体が注ぎ込まれるようにギュッと心臓が締め付けられる…

行間を大きく空け、少しだけ大きなフォントで力強く書かれたその"夢"は、私の過去の決断を後悔させるものだった。


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