本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.7

『その話が嘘でも、その人が二人にそんな話をしてまでやりかった事がある筈なんだ。もしそれが悪い事なら、婆ちゃんが命を懸けてでもその人を成敗するし、それがその人の目的を果たす為に仕方なくした事であれば、その人を手伝ってあげなさい』

そう言われても…私には納得ができなそうだ。だって、もしそんな嘘をつくような人なら私は手伝うことなんてできないもん。
これだけは私も頷くことができずに「お婆ちゃん、それはムリっ」と正直な気持ちを伝えた。
莉結も私に続き『うん、私もそこまで良い人になれそうにないや…』と苦笑いを浮かべる。
しかし、お婆ちゃんは私たちがそう言うと分かっていたように優しい表情を変えずに
"ふふ"と笑ったのだった。

『まあそうだいね、普通はそうだ。二人とも正直に育ってくれてこんな嬉しい事はないね』

不思議そうに見つめ合った私たちを見てまた"ふっ"と微笑んだお婆ちゃんは『それでも莉結と瑠衣ちゃんはその人を助けると思うんだあ』とお茶を啜ったのだった。

「莉結は助けるの?」

『いや…多分助けないんじゃない?』

そう言ってもお婆ちゃんは『助けるさあ、きっと』と微笑むだけだった。


テレビから時代劇のエンディングが流れているなか、『瑠衣ちゃん』と先程とは少し声色の違うお婆ちゃんの声が響いた。

私がふと正面に座るお婆ちゃんの方を見ると、年季の入った優しく柔らかな手がテーブルの上に伸びた私の手のひらを包み込んだ。

『うちの莉結を頼んだでねえ』

「へぇっ?!」

突然のその言葉に、驚いたまま欠伸をしたような声が出てしまった。

「うちの莉結を頼んだって…どうしたの突然?」

勿論お婆ちゃんには私たちの関係は伝えていない。
そんな隠すような事をしているつもりは無いんだけど…小さな頃からずっと、かああこた私たちの事を知っているお婆ちゃんには言いにくかったのだ。

『行くんだろう?その人の所。ウチの莉結と』

私の心臓が"トクン"と音を立てる。

「えっ、それって…」

そう言って笑顔を浮かべようとするも、頬が強張ってうまく笑顔が作れていないことが自分にも分かる。

『ちょっとお婆ちゃん、その手紙には…』

するとお婆ちゃんの視線が莉結の言葉を止めた。
その瞳はとても優しくて、温かくて…そこに言葉が無くたって全てを包み込んでくれる確かな愛…なんて恥ずかしいけど、そう、愛情に溢れたその瞳は莉結に"その先の言葉は要らないよ"そう伝えたのだった。







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