本日は性転ナリ。

漆湯講義

After story...Dear Rei .7

『…まないと思ってる。父さんも最近知ったんだ。本当にすまない…』

私たちは稚華さんから少し離れた所で足を止めた。

父さん…って事はこの人が稚華さんのお父さん…?
私は、前に嶺ちゃんから少しだけ話を聞いたことがある。"父親"は、まだ嶺ちゃんが小さい時にお金を持って何処かへ消えてしまったと、それがこの人なんだ。
それから稚華さんとの会話で"父親"の話が出てきた事は一度もない。
ただ、離婚は成立していて家族はお母さんと嶺ちゃんだけなのだという事を言っていたから稚華さんからすれば、"この人"は血が繋がっている"他人"の様なモノなのだろう…

『そんな事どうだっていい!!オマエは父親なんかじゃないんだよッ!!どのツラ下げて嶺に会いに来てんだッ!!』

"父親"は何も言わず俯いたままだ。

『どっか…行けよ…顔も見たくないんだよッッ!!』

稚華さんの拳が父親の胸に"ドスン"と打ち込まれた。すると父親がその腕を握り俯いた顔を上げた。

『…此処で会ったのも何かの縁だ。お前は俺の大切な娘なんだ。母さんも居なくなってしまって1人で大変だろう?父さんと一緒に住まないか?』

その言葉に稚華さんの身体が"ピクン"と反応する。
そして肩から"スゥー"と力が抜けて、父親に握られた手から腕がだらりと抜け落ちた。

次の瞬間、『ふざけんなッッッ!!』

稚華さんは、急に何かのスイッチが入ったように物凄い勢いで父親の胸元を掴むと、そのまま断崖に立つフェンスへと父親の大きな身体を押し付けた。
その衝撃で老朽化したフェンスが軋んで小石がハラハラと崖下へと落ちていく。
私たちは慌てて稚華さんに駆け寄り、力強く父親を突き落とさんとする腕を掴んだ。

『何が縁だ…何が大切な娘だ…何が1人で大変だ…誰のせいで私たちが苦しんだと思ってんだよッッッ!!』

稚華さんは更にその力を強め、それに比例してフェンスが崖の方へと傾く。雨に侵食されたせいで崖ギリギリにようやく立っていたフェンスは、根元のコンクリートが動き、地面に亀裂を作り出していた。








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