本日は性転ナリ。
190.本日は晴天ナリ。
『はぁ、はぁ、私のっ、勝ちぃー♪』
「ったく、いきなり…ズルいじゃんっ。」
『たまには、いいんじゃないッ??』
息を切らしつつ私たちは堤防の土手へゆっくりと腰を下ろした。
莉結の頬に輝く汗が空の紅を映している。
私はその横顔をただただ見つめる。
『今年も綺麗だねっ♪』
向こう岸の桜を眺めつつ優しい笑顔で莉結が言う。
「そうだねッ、去年は桜どころじゃなかったケドさっ♪」
すると莉結が頬を赤らめて私をジッと見つめた。
「…私アレからずっと色々と考えててさぁ。」
きょとんとした表情で莉結が首を傾げる。
『何がぁ??』
私はそっと莉結の肩へと腕を回し、その小さな身体をグッと引き寄せた。
『えっ…』
一瞬硬直した莉結の身体を更に引き寄せ、肩から頭へと手を滑らせる。そして長い髪を指に絡ませながら莉結の潤った唇に…そっと私の唇を重ねた。
「これが私の答え。私、如月衣瑠は高梨莉結がダイスキです。」
唇を震わせ私の目を見つめ続ける莉結に私は続ける。
「この先どんな人生になろうと莉結が側に居る。それだけで私は頑張れるから♪」
そう言って微笑むと、突然莉結が私の身体をグッと春の草花へと押し倒した。と同時に心地の良い香りと艶やかな長い髪のカーテンに紅の陽射しが遮られた。
…唇に柔らかな感触が伝わる。
"チュッ"
春の訪れに似たその音と共にゆっくりとその感触が離れていく。するとまた紅の陽射しがぼんやりと私を照らした。
『これが私の答え。私も衣瑠がダイスキっ…ずっと前から。ずっとこの先も。』
…小川の上を吹き抜けた風に桜の花びらがきらきらと舞っていく。
無数に咲き誇る桜の花たちはまるでこの世界に生きる私たちのようで…
いつかは散ってしまうその花も、限られた時間の中で精一杯に腕を伸ばし陽の光、雨、風をそのからだで受け止める。そのひとつひとつの花はどれも微かに違っていてただ一つとして同じモノは無い。
たとえ花びらが3枚だろうと4枚だろうと、それは"桜"である事に変わりはないのだ。
私たちは、その桜の花をひとつひとつ見て僅かな違いを比べてしまいがちだ。
しかし少しだけ離れてみて欲しい。
それは小さなひとつひとつの花たちが作りあげる1本の"桜"というとても素晴らしいモノへと変わる筈だ。
散っていく花びらも、少し違った形の桜の花も、ひとつひとつがとても綺麗な"桜"の一部なのだ。
…私は今日も玄関のドアを開ける。
そこにはいつも変わらない私を待つ莉結の姿。
『衣瑠っ、おっはよっ♪』
「莉結おはよっ♪じゃぁ行こっか♪」
ウーンッ…
両手をぐんと上へと伸ばす。
すっきりとした青い空と暖かい春の陽気に心が弾む。
そして私は歩き出す。ギュッと握った莉結の手を、絶対に離してしまわぬようしっかりと絡ませて。
…空は快晴っ!
気分も良好っ!
私の心は"本日も晴天ナリっ♪"
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