本日は性転ナリ。

漆湯講義

188.ヤクソク

…例年以上の猛暑に見舞われた夏が過ぎ、山々が色づいていく。真紅に染まった葉が地面を染め上げていき、茶褐色の山々は次第に純白のスカーフを身に纏う。
そしてまた新緑が広がる春がやってきた。

「もうすぐあれから1年…かぁ。」

私は頭上に咲き乱れる桜並木の下を莉結の手を取りゆっくりと歩く。

『早いもんだよね。ほんとに。』

「あっ、居た居た♪」

『おーいっ♪こっちこっち♪』
そう言って稚華さんが大きく手を振っている。
私たちは小走りに近づくと、広げられたシートの上に荷物を降ろした。

『さーて…じゃぁ始めよっか♪』

大量のお菓子を大きな器へと山盛りにしてコップへとジュースを注ぐ。

『彩これ食べなよっ♪はいっ、アーン♪』

『もぅ、稚華ったら…』

『いいじゃぁーん!ねッ♪』


「ふふっ、ホントに2人あれから仲良いよねっ♪じゃぁ私たちも♪はいっ、あーん。」

『ちょっ、何やってんのっ…ん…あーん。』

あの日以降不思議と仲の良くなった2人を見て私たちは顔を見合わせ微笑んだ。

「レイちゃんは何がいいかな?」
私はお菓子が盛られた器を手に稚華さんの隣にちょこんと置かれたベイちゃんの前へと移動する。
『嶺はなんでも喜ぶよっ、嶺…きっと喜んでるよね…』
そう言って稚華さんは春の陽射しに咲き乱れる桜を寂しげに仰ぎ見た。

もしここにレイちゃんが居たのなら、彼女はなんと言っただろう…

ベイちゃんに視線を落とすが、勿論その答えを教えてはくれない。

私はあと何回見ることができるだろうこの美しい情景をしっかりと胸へと焼き付け、息を大きく吸い込んだ。

「レイちゃーーーんッ!!!見えるーーッ??」

突如声を上げた私に一拍置いて稚華さん、莉結が声を上げた。
『嶺ーッ!!』
『レイちゃーんッ!!』

周囲の花見客の視線が一斉に私たちへと向けられる。
だが、それも浮かれた若者の奇行として宴会のツマミとなっただけだ。

私たちは顔を見合わせ声を上げて笑った。

『嶺ゼッタイ恥ずかしがってるよ!!』

「だねっ、稚華さん怒られるパターンだよきっと。」

そんな時、1枚の花びらがひらひらと稚華さんの鼻に舞い落ちた。







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