本日は性転ナリ。

漆湯講義

184.凌霄花のように

レイちゃんはお花見以降驚くほどに元気を取り戻し、病院に来る以前のように天真爛漫な笑顔で楽しそうに色々な話をした。
まるでこの瞬間に思いつく全ての事を話すかのように。
そんな中、アヤちゃんが持ってきてくれた桜の枝についた小さな花を鼻に近づけては"あぁ、幸せ♪"なんて呟いていた。
そして、1年を凝縮したかのように充実した時間を過ごし、満足気に眠りに就いたレイちゃんの寝顔を眺め、安心した私たちもレイちゃんを囲むようにして眠りに就いたのだった。


…眩しい朝陽が私の顔を照らす。
小鳥の囀りが清々しい空に広がっていく。

レイちゃんは寝ながらも微笑んで…
手には枕元にあった筈の桜の枝が握られていた。

…可愛いな。いい夢でも見てるのかな。

部屋の中は静寂が包み、レイちゃんと私たちだけの世界に居るみたいだ。

"バンッ!!"

その時、勢いよく病室のドアが開いた。

『大丈夫ですかッッ!!』

時が止まった水面に岩石を放り込むように騒々しく駆け込んできた先生たちの声に私たちは身体を飛び起こした。

現状が飲み込めずに目の前の光景をただ眺める。

先生はレイちゃんの胸を両手で何度も押しては離しを繰り返す。
それを何度も繰り返した後、寝ているレイちゃんの首元に指を当てたり、急に上着のボタンを外したかと思うと聴診器を当て、瞼を持ち上げてライトを左右に振ったり…

突如目の前で行われる奇怪な行動に言葉も出ず、頭の中は混乱し正常な判断すらし兼ねている。

『ちょっと、何してるんですかっ!!嶺まだ寝てるんですよ!!』
稚華さんが先生の腕を握り怪訝な声をあげた。

しかし先生は稚華さんの言葉に耳を貸すこともなく低い声で言った。『7月14日、7時57分。本当に…よく…頑張りました…』

先生の口にした言葉と今目の前で行われていた奇怪な行動とが結びついたその瞬間"すぅーっ"と周囲から音が消えていき、無音の世界にぼんやりとレイちゃんの姿だけが残った。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品