本日は性転ナリ。

漆湯講義

166.ヨリドコロ

レイちゃんが輝きを失ってしまったら稚華さんもきっとあの雲のように…
なんて考えるのはやめた。
もしも…なんて事あっちゃいけないから。

私がレイちゃんにしてあげられる事は、レイちゃんの"望みを叶える事"じゃない。
快復を信じて"いつも通り過ごす事"なんだ。

『それじゃぁまた明日。』

「うん。また。」

家に帰ると机の上の1枚の便箋に目にとまった。

"瑠衣へ 仕事へ行ってきます。冷蔵庫開けてください。"

なんだろう?と冷蔵庫開けた。

そこには薄暗いオレンジの光に照らされたティッシュ箱を2つ重ねたくらいの白い箱があった。

ひんやりとした箱を取り出して机の上に置き開いた。

母さん…

そこにはカットケーキが4つ。その1つにはホワイトチョコの板に"瑠衣ちゃんがんばれ"の文字。

私は携帯を取り出し写真を撮ると板の乗ったケーキを取り出し、目頭に熱いモノを感じつつ口へと運んだ。

"母さんがケーキ買ってくれたんだけど今から持ってっていい?"
莉結にこう送信すると"せっかくだしいただきます♪"とすぐに返信がきた。


『わぁ♪美味しそうだねッ!!あとの2つは…』

「多分、稚華さんとレイちゃんの。だけど病院にケーキはダメだよね…」

4人で食べるはずだったケーキを見て急に切ない気持ちが舞い戻ってきた。

その様子に気づいてか、莉結も『消費期限今日中だししょーがないって♪』と気持ちを押し殺し笑顔で言った。

私たちはケーキを食べ終えベッドにもたれ何を言うこともなく天井を見つめる。

不意に莉結の肩が触れた。その一瞬の出来事も漆黒の闇に浮かぶ光のように温かく感じる。

「ねぇ莉結。今日…泊まっていい?」

『…うん。私もそう言おうとしてたトコ。』

人は1人じゃ生きてはいけない。それはこういう時にお互いに心の拠り所となってくれるヒトが必要だからなのかもしれない。





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