本日は性転ナリ。

漆湯講義

134.母の過去

"バタン"ドアが閉まると同時に身体中に張り詰めていたモノが抜け落ちていく。

そのまま2人してその場にペタリと崩れ落ちた。

「よかったぁ…とりあえずは一件落着だよね?」

『ぅん…ありがとう。』

天井を見上げ暫くの沈黙が続く。

そこで1つの疑問が浮かんだ。

「彩ちゃんのお母さんがあんなことしてくれたのは"会社の為"なのかな…」

『そうね。私の知っている母さんならそれ以外は考えられない…かな。けど…』

「けど?」

『心当たりがある…かな。』

「心当たり?」

『ここじゃアレだから…』

そう言って力の入らない身体を無理やり持ち上げて彩ちゃんの部屋へと移動した。

そのまま2人でベットへと倒れこむ。

やわらかな布団の感触と共に良い香りが私たちを包み込む。

『あのね、1度だけ、父さんが酔って母さんと激しい口論をしてたのを聞いちゃった時があって、その原因が父が口にした"ある人の名前"だったの。』

「ある人?」

『うん。その人の名前は"ユリ"。』

「女の人?その人がどうかしたの?…あ、モチロン言える範囲で構わないよ。」

『衣瑠ならいいよ。…ううん。聞いてもらうべきだと思うの。』

細く柔らかな指が私の指先に触れる。

はっと彩ちゃんに顔を向けるが、彩ちゃんの視線は天井を見上げたままだ。

『私の父は…結ばれる筈の2人…そう、ユリさんから母さんを無理やり奪ったのよ。』

「それって…」

『そうね。だから母さんはあんな事をしたのかもしれない。母さんの両親、私の祖父母もそこそこ大きな会社を経営してたみたいだから…』

私の指先から離れた手が天井へと高く伸ばされる。

『どこにでもある"政略結婚"ってやつよ。』


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