本日は性転ナリ。

漆湯講義

133.この母にしてこの娘あり

『ところで社長。梶島建設ですが、談合が露見したようです。近々報道されるようですよ。こちらがその資料です。私たちの所にも何かしらの調査が入る可能性を踏まえて早急な対策をしておいては?』

『なんだと…あの馬鹿…こんな時に…』

「あの…それって…どういう…」

『あなたたち…運が良かったわね。』

どういう事?…あなたたち?

今の状況が飲み込めずただ呆然と立ち尽くしていると、急に彩ちゃんのお父さんが音を立てて椅子から立ち上がる。

『お前….まさか!!』

ドアの方向に向かって歩き始めた足を止め、振り向く事なく"この人"は答える。

『取引先の調査は基本中の基本では?ましてや身内となる企業となれば尚更。』

『なんて事してくれるんだ!!!コイツらの事を聞いたからか?お前の過去の過ちを繰り返させるのか!!』

"カコノアヤマチ"この一言に、感情を表すことのなかった顔に始めて感情が露わになった…"怒り"だ。


『あの日から…あの日から今日までの日々が私の過ちですッ!!!!』

抑えきれない怒りの感情が、空になった封筒を"グシャリ"と潰した。

それから"すぅーっ"と息を吐くと、怒りに満ちた表情が"淡い少女"のように変わっていた。

『彩…貴女は自分の道を歩みなさい。』

ふわりと舞い落ちた花びらのような一言を残し、"淡い少女"は部屋を出ていった。


『父さん…私は…』

『今聞いていただろ。結婚は中止だ…あくまでも"中止"だからな……"この親にしてこの子あり"…か。』

それ以上は何も言わなかった。あの人の一言がよほど聞いたのであろう。
私たちもそれ以上は何も言わず部屋を後にした。

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