本日は性転ナリ。

漆湯講義

121.ハルカゼ

『あー♪ほのぼのしてて気持ちぃねぇ♪』

澄み渡る青空に両腕をぐぅーっっと伸ばして莉結が言う。

土手沿いに咲いた桜が、ひらひらと輝く花びらを送り出している。

それはまるで桜の木から巣立つ妖精のようだった。


『あの…さぁ。率直に聞くケド…』

「えっ?なに?」

莉結の頬が土手の桜のように染まっていることに気づく。

『アレって夢じゃないよね?』

アレ?…って、どれ?!

"アレ"の答えを頭の記憶から探していると、莉結に肩を"パンッ"と叩かれてしまった。

『キス…したでしょ!!』

『・・・あ…私の記憶違いだったらホントにごめんっ!…ってかよく考えたらそんな事ないよね!あははは、私なに言ってんだろぉー!!ごめん忘れてぇ♪』


「忘れ…られないよ。」

何かが吹っ切れた気がした。 

「あんなことして…本当にごめん…サイテーだよね。気持ち悪い…よね…」

大粒の涙が止まらない。
この場から消えて無くなりたい…そう思った。
…私は泣き虫だ。いつからだろう…

前は、"瑠衣"だった頃は…自分の身体から涙なんて無くなってしまったかと思っていたのに。

これが…本当のワタシなのかな。

すると背中に柔らかな感触が伝わってきた。

同時に香るいい匂い…

『そっか、なら良かった…』

「えっ…?」

思い掛けない言葉に後ろに顔を向けようとする。

"chu!!"

頬に何か柔らかなモノが当たった。

『ありがとっ♪その気持ち大事にもらっとく♪それじゃぁまた明日っ♪』

そう言うと莉結は、ひとり足早に立ち去ってしまう。

え…?

エェーーーーッ?!?!

「なにソレ?!どう言う事ーッ???ねぇー!!莉結ぅー!!!教えてよーッ!!」

『"死んでもいいわ"って事ぉーっ♪』

「余計分かんないよーッ!!!!」

桜がだんだんと散り始める頃、小さな春風が私の背中を押していた。









コメント

  • お面

    死んでもいいわで感動した…

    1
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