本日は性転ナリ。
60.想い
「へっ?」
力の抜けた声が私の口から漏れる。
するともう一度念を押すかのように「好きよ。貴女の事が」と天堂さんは言った。
「私が……、好きっ? 何でっ?」
放心状態の私にまた天堂さんから溢れた微笑みが映る。
「さっきも言ったけれど、私はずっと考えていたわ。何故あの時、貴女は私を助けたのか。そしてそんな事を考えているうちにいつしか貴女の事ばかり考えるようになっていた。"一目惚れ"なんて浅はかなものでは無いけれど、"運命"と呼ぶのもありきたりでつまらない。そういうものの気持ちの名前を貴女は知っているかしら?」
思わぬ告白に動揺が隠せない。自らに危害を加えてくるかも知れないと思っていた相手にまさか告白をされるなんて……。
すぐに返事をしなきゃ……いけない? でも私は天堂さんの事を何も知らないし……。いや、付き合うと言うことはお互いを知る為、相性を確かめる為に第一印象に捉われずゼロから始めるのが本来なのだろうか。
そんな事で頭の中がぐるぐるとかき乱され始めた私に天堂さんの真っ直ぐな視線が重なった。
その視線から目を逸らせなくなった私は…………。
「ごめん、わかんないや」
その答えを探すこと無く有耶無耶にして不器用な笑顔で誤魔化した。
するとどうだろう。そんな答えしか出せなかった私に対して天堂さんは顔色を変える事無く視線だけを下に向ける。
「じゃぁ……、それが分かるまでは私の側に居てくれるかしら……」
口元が微かに動き、気恥ずかしそうな声が小さく響いた。
"それが分かるまで"……。それを聞いた私の胸がとくんと大きく鼓動する。
"はっきりとした答えが出るまでは付き合ってみて欲しい"そういう事なんだ。
「そんな曖昧な関係でも天堂さんはいいの?」
そしてつい天堂さんの提案を肯定してしまうような事を言ってしまった。何も整理できていないというのに。
小さな窓から差し込む夕陽の色が、部屋を、天堂さんを幻想的な雰囲気へと染め上げている。
「構わないわ。だって私にはその道しか見えないのだから」
寂しげな瞳が私を見つめる。思わず私は目を逸らし、テーブルに置かれたカップに視線を移して答えた。
「やっぱりごめん。私は天堂さんの事をよく知らないし、自分が好きって思った人とそういう関係になりたいって思う。だから……」
……だから付き合わない? 言い終える直前、脳裏にそんな言葉が浮かんだ。……これは、言い訳だ。
「だから?」
「ごめん、何でもない。もう少し考えたい」
そう言った私に天堂さんはまた微笑む。そしてゆっくりと立ち上がってからこう言った。
「今日はもう遅いわ。あまり待たせても悪いもの。それに……、心配で堪らない子も居るようだし」
天堂さんがそう言うと、部屋のドアが少し軋んだ。
澄み切らない胸を押さえつつドアを開け部屋を出る。灯りのついていない暗い廊下には微かな夕陽がぼんやりと反射していて、それは私のはっきりとしない心の内を映し出しているようだった。
静まり返った玄関には麗美さんの姿は無く、逆光に黒く染まった莉結の小さな背中だけがそこにあった。
「ごめんっ、お待たせ」
私の声に莉結が振り向き、ぎこちない笑顔で「麗美さん用事あるとか言って帰っちゃった」と早口に言う。私の足元に向けられた莉結の視線が何処か寂しげに感じたのは雰囲気のせいなのだろうか。
「お邪魔しました」
そう言って天堂さんに軽く頭を下げてから玄関を出た。しかし私達の言葉に返事は無く、私は二、三歩足を進めてからふと気になって振り返った。
その時だった。ドアの隙間に一瞬見えた天堂さんの表情が"あの頃の私"に重なった。
力の抜けた声が私の口から漏れる。
するともう一度念を押すかのように「好きよ。貴女の事が」と天堂さんは言った。
「私が……、好きっ? 何でっ?」
放心状態の私にまた天堂さんから溢れた微笑みが映る。
「さっきも言ったけれど、私はずっと考えていたわ。何故あの時、貴女は私を助けたのか。そしてそんな事を考えているうちにいつしか貴女の事ばかり考えるようになっていた。"一目惚れ"なんて浅はかなものでは無いけれど、"運命"と呼ぶのもありきたりでつまらない。そういうものの気持ちの名前を貴女は知っているかしら?」
思わぬ告白に動揺が隠せない。自らに危害を加えてくるかも知れないと思っていた相手にまさか告白をされるなんて……。
すぐに返事をしなきゃ……いけない? でも私は天堂さんの事を何も知らないし……。いや、付き合うと言うことはお互いを知る為、相性を確かめる為に第一印象に捉われずゼロから始めるのが本来なのだろうか。
そんな事で頭の中がぐるぐるとかき乱され始めた私に天堂さんの真っ直ぐな視線が重なった。
その視線から目を逸らせなくなった私は…………。
「ごめん、わかんないや」
その答えを探すこと無く有耶無耶にして不器用な笑顔で誤魔化した。
するとどうだろう。そんな答えしか出せなかった私に対して天堂さんは顔色を変える事無く視線だけを下に向ける。
「じゃぁ……、それが分かるまでは私の側に居てくれるかしら……」
口元が微かに動き、気恥ずかしそうな声が小さく響いた。
"それが分かるまで"……。それを聞いた私の胸がとくんと大きく鼓動する。
"はっきりとした答えが出るまでは付き合ってみて欲しい"そういう事なんだ。
「そんな曖昧な関係でも天堂さんはいいの?」
そしてつい天堂さんの提案を肯定してしまうような事を言ってしまった。何も整理できていないというのに。
小さな窓から差し込む夕陽の色が、部屋を、天堂さんを幻想的な雰囲気へと染め上げている。
「構わないわ。だって私にはその道しか見えないのだから」
寂しげな瞳が私を見つめる。思わず私は目を逸らし、テーブルに置かれたカップに視線を移して答えた。
「やっぱりごめん。私は天堂さんの事をよく知らないし、自分が好きって思った人とそういう関係になりたいって思う。だから……」
……だから付き合わない? 言い終える直前、脳裏にそんな言葉が浮かんだ。……これは、言い訳だ。
「だから?」
「ごめん、何でもない。もう少し考えたい」
そう言った私に天堂さんはまた微笑む。そしてゆっくりと立ち上がってからこう言った。
「今日はもう遅いわ。あまり待たせても悪いもの。それに……、心配で堪らない子も居るようだし」
天堂さんがそう言うと、部屋のドアが少し軋んだ。
澄み切らない胸を押さえつつドアを開け部屋を出る。灯りのついていない暗い廊下には微かな夕陽がぼんやりと反射していて、それは私のはっきりとしない心の内を映し出しているようだった。
静まり返った玄関には麗美さんの姿は無く、逆光に黒く染まった莉結の小さな背中だけがそこにあった。
「ごめんっ、お待たせ」
私の声に莉結が振り向き、ぎこちない笑顔で「麗美さん用事あるとか言って帰っちゃった」と早口に言う。私の足元に向けられた莉結の視線が何処か寂しげに感じたのは雰囲気のせいなのだろうか。
「お邪魔しました」
そう言って天堂さんに軽く頭を下げてから玄関を出た。しかし私達の言葉に返事は無く、私は二、三歩足を進めてからふと気になって振り返った。
その時だった。ドアの隙間に一瞬見えた天堂さんの表情が"あの頃の私"に重なった。
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