本日は性転ナリ。
19.林間学校一日目
莉結の家を出て自分の家へ帰った私は、いつもと変わらない玄関の様子に肩を落とした。
    ……やっぱり母さんは居ないか。
溜息を吐き、階段を上ろうとした時だった。キッチンの机の上に何かが置いてあるのが目に入る。
私が不思議に思ってそれに近づくと、それは産まれたばかりの赤ちゃんを抱き上げて笑う、幸せそうな家族の写真だった。
「なんだよ……、こんなに幸せそうにしてるくせに」
    私はそう呟いてから写真を手に取ると、そっと胸に当て、小走りに階段を上ったのだった。
「おはよーっ!」
   大きな荷物を持って歩いて来る莉結が見えると、私は大きな声をあげた。
「おーはよっ、早いじゃんっ! 昨日は眠れた?」
「準備が大変であんまり……。まぁ今日からまた気合い入れないとね!」
「まぁ、バスの中で寝てきなよ? 体調崩したらせっかくの林間学校台無しだからね」
私達が学校に到着すると、その前の道路には、観光バスがずらりと並んでいた。
生徒たちは、小学生の遠足と変わり無いほどにまとまりなくはしゃいでいる。
そんな集団を抜け、私達は自分のクラスの列へと並ぶ。すると、拡声器のキーンという嫌な音に続いて先生の声が響き渡る、
「じゃぁ大きい荷物をバスに預けてってくれよー。しおりにも書いてあった通り、夜まで預けた荷物出せないから必要になるものは各自小さい方の鞄に出しておくように」
その先生の一声でゾロゾロと蟻の行列のように生徒たちが動き出し、私達もそれに紛れるように行列の最後尾に並んだ。
そして私達が荷物を預け終わると、再び拡声器の嫌な音が響いた。
「よーし、荷物を預けた人からバスに乗れよー! 席は自由だから譲り合って喧嘩しないようにしろよー」
    その声と同時に数人の生徒が急いでバスへと乗り込んでいくのが見えた。もちろん私達は二つの隣り合った席さえ空いていればいい訳だから、人混みから少し離れた所で乗車口が落ち着くのを待った。
「なんかウキウキしちゃうねっ! お菓子、衣瑠のも持ってきたからねっ」
「いや、私はいいや。先生に怒られたくないし」
「あっ、そう考えると後ろの席先に座っとけばよかったかな」
「いいんじゃない、どっちでも。私関係無いしー」
「うわーっ酷いなっ! 裏切り者っ」
その時だった。突然背後に強い視線を感じた。
「……衣瑠っ、どうしたのっ?」
    後ろを振り返った私に莉結が問いかける。
「ううん、何でもない」
    そう言ったものの、初めて感じるその感覚に、私は何故か寒気を感じた。幽霊とか、悪魔だとかは信じてないけど、確かに感じたあの感覚は、決して良いものでは無かったのだ。
……そして、私達を乗せて出発したバスの車窓から眺める景色は、街中の群像や立ち並ぶビルや住宅から、田畑が広がるどこか懐かしい田舎の風景へと移り変わっていく。そんな気色をぼーっと眺めているうちに、いつしか辺りはすっかり森林に囲まれ、それまで窓の外など気にもしていなかった生徒達も、その美しい景色に興味を移していった。
そして、"あと三十分くらいで到着するからなぁー"と先生が言ってからしばらく走った頃、車内は別の話題で盛り上がっていた。
「あれ警察じゃない?    なんかたくさんいるね」
「何やってんのかな?」
「あの車のフロントガラス割れてんじゃん!」
「熊でも出たんじゃない?」
    そんな会話が車内に溢れ出してきた頃……、突然、バスが停車した。
前方に目をやると、パトカーやレッカー車が見え、その先にフロントガラスが割れた車が道を塞いでいたのだ。
バスの方に歩いてきた警察官が、バスの運転手と何やら話をしているのが聞こえる。そして、"ここらは回り道が無いから"とか"もうすぐ退くもんで"とか言う会話の中に、気になる会話が聞こえたのだ。
それは、"ニュースにはなっていない"とか"施設の周りは警察官が"とかいう内容で、慌ただしくバスを降りていった先生の態度からも、ただ事ではなさそうだった。
    ……やっぱり母さんは居ないか。
溜息を吐き、階段を上ろうとした時だった。キッチンの机の上に何かが置いてあるのが目に入る。
私が不思議に思ってそれに近づくと、それは産まれたばかりの赤ちゃんを抱き上げて笑う、幸せそうな家族の写真だった。
「なんだよ……、こんなに幸せそうにしてるくせに」
    私はそう呟いてから写真を手に取ると、そっと胸に当て、小走りに階段を上ったのだった。
「おはよーっ!」
   大きな荷物を持って歩いて来る莉結が見えると、私は大きな声をあげた。
「おーはよっ、早いじゃんっ! 昨日は眠れた?」
「準備が大変であんまり……。まぁ今日からまた気合い入れないとね!」
「まぁ、バスの中で寝てきなよ? 体調崩したらせっかくの林間学校台無しだからね」
私達が学校に到着すると、その前の道路には、観光バスがずらりと並んでいた。
生徒たちは、小学生の遠足と変わり無いほどにまとまりなくはしゃいでいる。
そんな集団を抜け、私達は自分のクラスの列へと並ぶ。すると、拡声器のキーンという嫌な音に続いて先生の声が響き渡る、
「じゃぁ大きい荷物をバスに預けてってくれよー。しおりにも書いてあった通り、夜まで預けた荷物出せないから必要になるものは各自小さい方の鞄に出しておくように」
その先生の一声でゾロゾロと蟻の行列のように生徒たちが動き出し、私達もそれに紛れるように行列の最後尾に並んだ。
そして私達が荷物を預け終わると、再び拡声器の嫌な音が響いた。
「よーし、荷物を預けた人からバスに乗れよー! 席は自由だから譲り合って喧嘩しないようにしろよー」
    その声と同時に数人の生徒が急いでバスへと乗り込んでいくのが見えた。もちろん私達は二つの隣り合った席さえ空いていればいい訳だから、人混みから少し離れた所で乗車口が落ち着くのを待った。
「なんかウキウキしちゃうねっ! お菓子、衣瑠のも持ってきたからねっ」
「いや、私はいいや。先生に怒られたくないし」
「あっ、そう考えると後ろの席先に座っとけばよかったかな」
「いいんじゃない、どっちでも。私関係無いしー」
「うわーっ酷いなっ! 裏切り者っ」
その時だった。突然背後に強い視線を感じた。
「……衣瑠っ、どうしたのっ?」
    後ろを振り返った私に莉結が問いかける。
「ううん、何でもない」
    そう言ったものの、初めて感じるその感覚に、私は何故か寒気を感じた。幽霊とか、悪魔だとかは信じてないけど、確かに感じたあの感覚は、決して良いものでは無かったのだ。
……そして、私達を乗せて出発したバスの車窓から眺める景色は、街中の群像や立ち並ぶビルや住宅から、田畑が広がるどこか懐かしい田舎の風景へと移り変わっていく。そんな気色をぼーっと眺めているうちに、いつしか辺りはすっかり森林に囲まれ、それまで窓の外など気にもしていなかった生徒達も、その美しい景色に興味を移していった。
そして、"あと三十分くらいで到着するからなぁー"と先生が言ってからしばらく走った頃、車内は別の話題で盛り上がっていた。
「あれ警察じゃない?    なんかたくさんいるね」
「何やってんのかな?」
「あの車のフロントガラス割れてんじゃん!」
「熊でも出たんじゃない?」
    そんな会話が車内に溢れ出してきた頃……、突然、バスが停車した。
前方に目をやると、パトカーやレッカー車が見え、その先にフロントガラスが割れた車が道を塞いでいたのだ。
バスの方に歩いてきた警察官が、バスの運転手と何やら話をしているのが聞こえる。そして、"ここらは回り道が無いから"とか"もうすぐ退くもんで"とか言う会話の中に、気になる会話が聞こえたのだ。
それは、"ニュースにはなっていない"とか"施設の周りは警察官が"とかいう内容で、慌ただしくバスを降りていった先生の態度からも、ただ事ではなさそうだった。
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