初不倫

廣瀬 昌臣

出会い

2017年7月

桜木 寛生

結婚して13年 僕は、もうすぐ44になる
妻とは共働きだが、子供は居ない
作らなかった訳ではない
産まれてこなかったのだ
結婚して間もなく、2度の流産をし、一つ上の妻は「もうこんな思いはしたくない」と諦めた
僕は、特別 子供が欲しいと思っている人間ではなかった
なので、何も言わずにそれに従った
40になる頃、妻が「猫が飼いたい」と言った
幸い、うちのマンションはペット可だし、好きにしたらいいよと言った
妻は猫を我が子のように溺愛し、「ご飯ですよ〜」と餌をあげている
休みの日は、鞄のような物に入れて連れて歩いている
連休は、猫仲間の集まりがあると言って、猫を連れ泊まりで居なくなる
咎めることもないが、とても滑稽に見えた
その頃から妻とセックスする事も無くなった
元々好きな方ではなかったので、半年に1度ぐらいの割合で、風俗に行った
その事に特に不満はなかった
妻からも何も言われたことは無い
僕はそれより飲みに行くのが好きで、よく1人で飲み歩いていた
会社の帰り、沿線の降りたことのない駅で降り、歩いたことのない道を歩き、お気に入りになりそうなバーやスナックを探した
時には、楽しく飲み過ぎて終電を逃し、朝まで飲むなんて事も多々あった
ネットで気になるお店を探して、足を運ぶこともあった
僕が、唯一楽しいと思える時間だった


そんな中、僕は彼女に出会う…


その日は僕の苦手な“会社の飲み会”で、案の定つまらなく、これはどこかで1人飲み直しをしようと思っていた
何度か降りたことのある駅で、1度しか行っていないが気に入ったバーがあったので、そこに行くことに決めた
しかし、行ってみるとバーは改装工事の為 休みだった
仕方がないと思い、飲み屋が何軒かある路地に入った
小さなスナックが点々とある通りで、ひときわ昭和レトロな佇まいのお店を見つけた
「スナック 優」
外の看板には、“お1人様1時間3,000円飲み放題・歌い放題”と、書いてある
終電までの時間を考えても2時間、丁度いい
入って失敗しても、3,000円なのでそんなに痛くはない
そう思い、店のドアを開けた

「いらっしゃいませ~!」

店内は縦に長い造りで、思ったより広かった
右側は奥まで酒棚とカウンターがあり、左側はボックス席が5つ
昭和レトロ感は半端ないが、汚さはなかった
何よりびっくりしたのは、ホステスの女の子達だ
みんな思っていたより若く、そして美人だった
店内には、2組のお客と、女の子が4人居た

「こちらのお席へどうぞ」

1番端のボックス席に座ると、女の子が総出で次から次へと、おしぼり・コースター・氷・水・グラス・乾き物を持って来た
皆、ニコニコとして愛想が良い

「お飲み物は何になさいますか?」

僕は、ウイスキーの水割りをお願いした
1人の女の子が作り終わると

「少々お待ちください」

と、席を立った
僕は水割りをすすりながら、なかなかいいお店だなと思っていた
席を立った女の子が、カウンターの奥のカーテンの向こうに消えていった
すぐに出てくると、その後ろから見たことのない女の子がもう1人出てきた
「5人も居たのか…」
とぼんやり考えていたら、その子が僕の目の前に来た

「お邪魔します」

僕はあの時どんな顔をしていたんだろう

彼女は、胸元が大きく開いた黒いドレスを着ていた
そこからこぼれんばかりの胸が見える
色白で少しぽっちゃりとしているが、手足は細い
髪は肩までのボブで暗めの茶髪
そしてその顔だ

妖艶とも見えるし、可愛らしくも見える
なんとも不思議な顔立ちだった
おそらく20代後半か30そこそこだろう

僕は一目で気に入った
しかし、話してみない事にはわからない
話しが合わなかったり、つまらなかったら、元も子もない
しかし、彼女は僕の予想をはるかに上回る面白い子だった
自分の生い立ちの自虐ネタから始まり、僕を休む間なく笑わせる
僕も負けじとサラリーマンエピソードで応戦する
すると彼女は、恥ずかしげもなく大爆笑する
そんな飾らない感じもとても良かった
彼女は、なんと37でバツイチ
双子の子供がいて、今は高校生だという
とんでもないモンスターが奥に隠れていたなと思い、どうして奥から出てきたの?と聞くと
「あそこは更衣室なの。今来てるお客さんはどっちも好きじゃないから着きたくなくて、あそこに隠れてたんだ〜」
と屈託のない笑顔を見せた
彼女のワガママにも好感がもてた
もう、この時点で好きだったのだと思う
あっという間に1時間が経ち、もちろん僕は延長をする
次の1時間もあっという間に終わり、僕は会計をした

こんな気持ちは久しぶり…いや、初めてかもしれない

不思議な高揚感の中、彼女に見送られた

「また来てね!」

僕は、また来ますと言って駅の方に歩き出した
ぼーっとする頭の中で、彼女の名前を聞いていない事に気付く
すぐに振り向いて、まだ手を振っている彼女に叫んだ

「名前はー!?」

「きょうかー!」

と元気に返ってきた
きょうかちゃんか…どんな字だろう…
すでに僕の中の何かが動き始めていた


僕が次にこのお店に来たのは、この日から1週間後だった
それ以上は待てなかったのだ

コメント

  • ジャンペイ

    続きが気になります!更新楽しみです^^

    0
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