求めるもののために

ノベルバユーザー69231

勇者組は

魔導士団が謁見の間に到着して、かろうじて意識のある者たちを床に寝かせた。
6人は無事と言えるレベルではないが、それでも救護の間に運ばれた者たちよりは軽いだろう。そう思いなが魔導士団は謁見の間を後にする。放置するのは心もとないが、他にもやることがあるのだ。勇者よりも自分の身を案じるのに文句は付けられない。魔導士団も魔族に魔法を放たれて、身を焦がしているのだ。事実的に……。むしろ体中を赤くさせながら勇者たちをここまで運んだのだ。充分な働きをしたといえる。救助隊は救護の間に向かっているので魔導士団は訓練場に向かった。訓練場には回復薬がある。薬は回復魔法よりも即効性はなく訓練場までは決して遠くない道のりだが、全員が無事にたどり着くことができた。謁見の間に居なかった残りの魔導士団の補助があったおかげだ。水魔法を使い、熱くただれた体を冷やした。意識を失った生徒を運んだ後に心配になって様子を見に来たのは日々一緒に過ごしてきたから信頼に他ならない。






……
運ばれてから30分後に一は謁見の間で自我を取り戻した。別に意識を失っていたわけではないが、恐怖に支配されて今まで上の空だった。恐怖による軽いショックで記憶が混乱していたが、何とか整理することができた。
(やっちまったなー。)
下半身が濡れているのを見て、音を発しないで口だけを動かした。


一が気を取り戻す前に正常に戻った人が居る。海斗は最初から正常?だ。その女性は目を覚まして残りの女子生徒に声を掛けている最中だ。名前を青龍寺 桜といって、一と一緒に3年3組のクラス委員をしている女性だ。黒髪ショートでお堅い委員長タイプの女性だが、気配りができ優しい一面もある。頭もよく顔も良いため、モテる。……モテていた。



海斗は現在進行形で誠一と桐谷にいたずら中である。髪の毛や服を引っ張っているだけだ。だけとは言っても相当場違いな事にはかわりない。見かねた一が声を掛ける。

「その辺にしとけ。今はほっとくのが1番だ。」
「りょうかーい。」
警察がする敬礼のポーズをとると、海斗は誠一達から離れて、一の元に駆け寄った。

「いつ、戻った。」
「ああ。ついさっきだ。お前は?」
「俺は最初から。」
「すげーなお前。」
「ああ。知ってたから。」
「ちょっとそれどういうこと。」
桜が会話に交じってきた。海斗が意味深な事を言ったのだから当然と言えば当然だが。

「姫様が魔族だってことをだよー。だから明人と一緒に姫様探しの旅に出たんだ。」
「そう言えば明人は無事なのか。」
「たぶん、姫様とお寝んね中かなー。」
「なんだそれ。」
「それってどういうこと。」
桜は聞き返した。まぁ、今の海斗の答えで理解できたなら彼女はエスパーだろう。もちろん一も理解した訳ではない。


聞かれた海斗は”お前は魔族だー”言って、一を指さした。
すると海斗の体は光り、狸に変わってしまう。その姿を見て一は大きく目を開けたが、桜は納得したようだ。

「なるほどね。解除リリース。」
桜が魔法の効果を解除すると海斗の姿が人間に戻った。

「なるほどねってどういうことだ。」
心実裁判リアリスティックジャッチメントって言う、嘘を見破る魔法のおかげだねー。」
「やっぱりそうなのね。」
「だからどういう事なんだ。」
「だから彼には見破る能力があるってこと。」
「すまん。もうちょっと詳しく説明してくれ。」
「真実裁判《リアリスティックジャッチメント》は心の嘘を見破る能力なの。」
「心の嘘?」
「簡単に言うと考えている事と言ったことが矛盾していれば、狸になるの。」
「了解。つまり海斗には確実に俺が”魔族ではない”と言える自信があるってことか。」
「そうだよー。」
かっこいいダサいポーズをとりながら海斗は認めた。


この先、この魔法が海斗の隠れ蓑としてのいい役割を果たすことになるわることを知らずに、2人は感心している。


「それで何で私達には教えなかったの。」
「簡単だよー。俺がさっき狸になったら一は驚いたでしょー。」
「まぁ、当然だと思うが。」
「もし、俺が魔族にだったらその隙に海斗を攻撃しちゃうぞー。」
「確かにそれもそうね。」
「だから俺は姫様を探して騎士団長様に見せて”知っておいて”もらったんだ。現に騎士団長様があそこで切り込まなければ、クラスメイトの何人かは死んでいたと思う。」
「確かに……。」

海斗は2人を納得させた。いや、誤解させたといった方が正しいだろう。
一達は知らない。自分達を呼び出した召喚魔法陣の発光に紛れて、1冊の本が赤く光っている事を。


残りの3人が”起きて”来るのを3人はずっと待った。

……
3人が正常に戻ったところで、召喚の間の扉が開かれる。一達は”部屋の準備ができました。”と言って入ってきた王宮の使用人に部屋まで案内してもらう。皆、正常に戻ったばかりなので元気がない。しかし、下半身の濡れをどうにかしたい5人の足取りは早かった。




使用人達も理解していたようで、部屋には着替えが2組置かれていた。2人3組の部屋割だ。それそれがシャワーを浴びる。桜はもう一人の女子に先を譲り、海斗も”俺は濡れてないから”と言って先を譲った。誠一と桐谷は疲労もあり、激しい口論にはならなかったものの多少はもめた。最終的にはじゃんけんと言う必勝法によって桐谷が先に入ることになった。

一がシャワーを浴びている最中に海斗はフカフカのベッドの上で横になって考える。海斗のすぐ近くに1冊の本が置かれている。

(意外と6人は無事でよかった。耐性を付与しておいたおかげもあるだろうが……。
さて、気絶組を脱落させるためにはもう一押し何するか。)


……
一の”シャワー空いたぞ。”の声を聞くと、”ほーい。”と気の抜けた返事をしてから、そばにあった本を消してシャワー室に向かう。





6人は知らない。これから脱落組の状態を見に行く度に彼らがより地獄を味わうことになる事を。
海斗だけが笑顔でシャワーを浴びた。






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