求めるもののために

ノベルバユーザー69231

世界の狭間で1

「おいおい何だよこれ。」
「さあな。ってやはりお前も来たのか。」
声を出したのは千合 一《はじめ》だ。突然、自分達がいた教室の床に魔法陣が複数浮かび上がり気を失った。目を覚ますと教室とは思えない謎の空間に居た。机や椅子がないのはぱっと見で分かった。今、自分の置かれている状況が何1つ理解できていない。誰かに答えを求めるわけでもなく茫然と限りなく独り言に近い声を出した。そんな声に反応したのは桐生 誠一だ。誠一は一が来る少し前にこの場所にたどり着いていた。しかし彼が最初に召喚されたというわけではない。彼がこの場所に来た時にはもうすでに数十人は到着していた。彼が一の独り言に答えたのは単なる偶然と呼べるものだった。一は誠一の所まで走っていき、周りの友達に声を掛けた。


「やっぱりお前達も来ていたか。」
「ああ。10分ほど前にな。」
「ここどこだよ。」
「俺に聞くな。」
一が声を掛けた東宝院 桐谷は自分がこの場所に着いた時刻を伝えた。”ここはどこだよ。”という質問に投げやりな感じで答えたが、少し落ち着いて10分間で分かったことを一に教える。

説明されたことを一は頭の中で整理した。
・教室に魔法陣が浮かび上がって、気を失った。
・暗いというよりは黒い空間の中にいる。
・この空間を形作る黒い壁は壊せそうにない。
・自分達は後ろにある扉を通り抜けるようにしてこの場所に来た。



1つ目と2つ目は事実確認だ。記憶が違っていたり、見えているものが違ったりする事がなくてひとまず安心した。3つ目と4つ目は桐谷の友達が教えてくれたことをそのまま流しただけらしい。一直線に誠一達の所まで走って来たのでわからなかったが、周辺を見渡すと壁を蹴ったり殴ったりしているクラスメイトの男子が居た。女子はさすがにそんなことはしていないが、壁の隅で友達グループを作って座っている。

「で、お前らは何してんの。」
「何もしてない。敢えて言えば、呼吸してるぜ。」
「何かするだけ無駄ってことだ。」

誠一、桐谷、一の3人には頭がよく冷静と他のクラスメイトからは評されている。特に誠一、桐谷の二人は運動も性格も顔も良いために女子にモテる。一は運動は二人に劣るものの、発想力やまとめる力があるためクラス委員を務めている……いた。だが、3人にお堅いイメージはない。一は詳しい確認が必要だと感じ、壁と現在進行形で戦っている見立 智也に声を掛けた。

「壁はどんな感じだ?」
「一いたのか?まあいいや。ちょっとおかしな所があるんだが。」

一達は誰ともなくうなずきあうと、智也の元に向かった。

「で、何がおかしいだ。」
「ああ。ちょっと見てくれよ。」
そう言って、智也は右こぶしを壁に向かって、突いた。肘を伸ばしきる前に、こぶしは止まった。

「ほら、横から見てみろよ。壁についてないだろ。」
三人は横にまわって、確認する。その光景を見て、一は”おお”と声を上げた。

「壁についてないな。」
「ああ、そうなんだよ。でも何かに阻まれていることは確かんだけどな。」

一が見たものは、黒い壁に激突する前に見えない何かに阻まれて止まっている智也のグーパンチだった。

「なるほど。マジックミラーみたいなものか。」
一は後ろを向き、他の二人の意見を聞く体制をとった。

「違うんじゃないかな。」
「俺も同感だ。って智也、お前。ずっと殴っていた結果がそれだけかよ。」
「いやいや。殴ってみればわかるけど、なかなかわからないもんだぜ。」
「まあ、確かに正面からじゃわかりづらい程の違いしかないからな。」

一はもちろんマジックミラーだとは考えていなかった。誠一が智也を馬鹿にしたような発言のフォローを入れてから、再び周囲を見渡した。

ちょうどよく門をすり抜けて、クラスメイトの女子が入ってきた。死んだ目、口を半開きにしての登場だ。まるで頭のおかしくなった被洗脳者の顔をしていると一は思ったが、顔には出さない。
そのクラスメイトは突然何かがふっ切れたように意識を取り戻して、見知った顔のもとへ走って行った。


「俺もあんな感じだったのか。」
「ああ、俺達は真正面から見たからな。ばっちり脳に刻まれたぜ。」
「今すぐに忘れろ。」
一は吐くような顔をした後に本当に何かを吐いたように苦しそうに言った。



「まあまあ。それは置いておいて。これからどうするよ。」
「まあー、待機しかねーな。」
「「だろ。」」
一の発言に2人は同意した。”自分たちは間違っていなかった”と胸を張りながら言う二人を見て、彼は笑った。


「あの状況から考えれば、クラスメイト40人全員がここに来るはずだ。」
「そうだな。休み時間とかじゃなくてよかったな。」
「それな。人数確認めんどくさそうだし。」
「先生は?」
「抜いていいだろ。教室のチョークがなくなったとか怒り気味に出て行った後の出来事だからな。」
「同感だ。」
「じゃあそれまでは待機の方向で。」
「了解。」
三人はこれかについて話し合った。三人は結局待機しかないとか大体今の状況は理解していた。彼らはみな同じことを心の中で思った。

(((俺たちも知らないことはないが、あいつの方が詳しいし。)))





三人が求める人物は最後から二番目に来た。彼らは姿を確認すると走り寄った。



「じゃーん。英雄ヒーローは遅れて登場するってね。」



三人が目的の人物に話しかけようとした時に、最後のクラスメイトが登場した。かっこいいダサいポーズをとりながら。



クラスメイト全員がそろった瞬間に入口と思われる門は消え、出口と思われる穴が開いた。

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