求めるもののために

ノベルバユーザー69231

繰り返されたプロローグ

暗き空間の中で、椅子だけが二つぽつんと置かれている。豪華な椅子と普通のパイプ椅子が寂しく置かれている。この光景を見た子供は泣きだすだろう。大人は黙って目を反らし、お年寄りは思い馳せたようにじっと見つめる。
そんな孤独な空間がある。


一人の男性がまるで瞬間移動のように突然現れた。その男性は迷う事無く歩き出し、豪勢な椅子の方に座る。太ももに両肘を置き、両指を交差するように4本の指を組んだ。親指は交差せずに、先端をくっつけた。そこに出来た小さな丸い空間に顎をヒットさせ、頭を支えている。まるで最初からそこにいたかと思う程に違和感を感じない。むしろ、その姿を描き加えることによって絵画は完成したと感じるほどだ。

男性は目を閉じ、必死に何かを考えていた。

「はぁ。何がだめだったんだろ。」
男性は言いながら顔を上げ、指をほどき、目を開いた。孤独な空間で発せられたその音は誰にも吸収されないまま遠くまで響き渡った。何がダメなのかと自問自答しているが、もしこの光景を誰かが見ているとすれば、誰もがこう答えるだろう。

”そんな所で、そんな風に座っていられる神経がダメだろ”

男性は愚痴りながらも頭を働かせ続けた。自分が今どんな状況に置かれているのか理解していないのだろうか。いや、そんなことはない。男性にとってこの空間はちょうど100回繰り返した後のプラス1に過ぎない。”慣れ”とは残酷なものだ。人の感覚を平気で麻痺させる。”失って初めて気付く”なんてよく言われる。では、男性は何を失えば、自分の狂気に気付くだろうか。



……

光が現れた。男性は背中でその光を防いでいる。光はだんだんと女性の姿に変わっていき、だんだんと弱くなっていった。”汚物”がこの空間に現れた時、光はちょうど消えた。

「女神様よ。居たのか。」
同時に男性が声を掛ける。後ろにも目があるんじゃないかと疑う程にタイミングがぴったりだった。
女神様と呼ばれた白い衣に身を包まれた女性は長い金髪を揺らし、ゆっくりと男性のもとに歩いて行く。男性のすぐ後ろまで来ると質問に答えた。絶世のとか傾国のとかが付くほどの美女だ。だが、絵画に足されたその美女は”価値”を下げているだけだ。国と先住民は”汚物”としか見ていない。


「今着いたばかりですよ。あなたは?」


男性が声を掛けてから20秒経った後の返答だった。が、男性は気にしたのだろうか。女神様のに返答したのは、20秒経った後だ。
「俺は、5分位前に到着した。」



女神様は、男性が敢えて20秒ずらしたのに気付くが、気にせず続けた。


「それでなぜ、私の席に座っているのですか。」
「いやいや。俺は空いていれば優先席にも座る男だから。」
「もう片方も空いているでしょう。」
女神様はパイプ椅子を指差した。すると突然、パイプ椅子の上に一冊の本が出現する。

男性は笑いながら言った。
「まあ、俺にっとて本は”力”だから。どかすのが忍びなくてさー。」

流石は女神様だ。男性の悪ふざけを再び受け流す。
「まぁ、いいでしょう。それでは私が来たのですから戻ってくださいませ。」

聞くと、男性は”そうだな。”と賛同して立ち上がり、パイプ椅子の方に向かって歩きながらさらに言葉を続ける。
「さすがの俺でも、自分より1021歳も年上の”おばさん”に”優先席”を渡さないはずがないだろ。」

言い終わるのと同時にパイプ椅子に座り、背筋を伸ばして満面の笑みを女神様に向けた。置いてあった本を抱えながら。


先程まで考えていた事がここまでの一連の流れであるように感じる程、計算された見事な煽りだった。女神様でも耐えられるはずがなく歪な笑みを浮かべながら言う。頬が引くついていた。

「そうですか。でも、もう少し”目上”の人に対しての礼儀を覚えた方がいいですよ。……体で。」

体で、と言いながら、女神様は手を前に振り払った。動きに合わせて、後方に現れた光の槍が男性の方に突き進んでいく。




「甘い。完全防御パーヘェクトプロテクション
叫ぶが同時、本が開き、ものすごいスピードでページが捲れていく。

結局槍は見えない壁に阻まれて男性との距離をわずか10cmの所まで縮めたが力尽きた。


図書館ザ・ライブラリー
続けて男性が叫ぶと多数の本を飲み込んでいる本棚が多数出現した。いくつかの本は吐き出されたのだろうか。本棚に収まらずに宙を漂っている。


女神様は本棚がそこに存在しないかのようにすり抜けて男性の背中に向かって飛び込んでいく。


「死ねぇー。」
叫びながら、光に包まれた自身の右手を横に振り払った。

しかし男性は慌てずに”まだまだだね。”と言いながら、しゃがみ女神様の足を払った。すべてを見通していたかのような見事な対処だった。
すかさず、男性はバランスを崩し倒れこんでくる女神の体に両手を重ねて魔法を放つ。

貫通バレット
そう言い放ち、女神の体を吹き飛ばした。宙に漂う本の1冊が同じように捲れていく。


「いやー。本当にその服はチート過ぎだろ。この魔法は体を貫く魔法なんだけどな。」

両者の距離が開いたためか、男性は女神に語り掛けた。しかし、男性の表情から慢心は姿を見せない。やられた女神様はもちろんだ。
「そりゃそうよ。この服は神格そのものなんだから。人間ごときに傷つけられる代物じゃないわ。」


「知ってるよ。じゃあ、強盗スティール
男性は右手で空気をつかみながら、詠唱した。しかし、本当に空気をつかんだだけだった。

「ふふん、見なさい。これが神の力よ。」
男性は何も答えない。今度は私のターンだと言わんばかりに告げた。



「神の裁きを受けるがいいわ。神柱ゴッドシリンダー

男性の頭上から、光の柱が降り注いだ。







服がボロボロになったのを気にせず、男性は語り掛けた。
「いやーさずがだね。」
「なんで禁止タブーを使わないのよ。」

対して女神様は男性の状態を気にして、心配している……様子はない。不思議がっている様子だ。むしろ、両者とも死ぬ可能性はないと確信していた。


「いやー、神の裁きを受けなさいとか厨二臭い発言をした後の攻撃を禁止するのは酷かなと思って。」
「そのせいでこの空間もはボロボロになっちゃったじゃない。」
「まあまあ、落ち着いて。今更何かを説明しなきゃいけないわけじゃないだろ。」
「あるわよ。本当にそろそろあきらめてくれない」
「いやー、約束したでしょ。あと一回って。」
「その一回を何回やり直すのよ。」
「今のところは、……100回だね。」
「いつまで続けるつもり。」
「ダイバージェンス1%の向こう側に行けるまで。」
「はぁー。それをあきらめろって言ってんの。」
「じゃあ。イージーモードで宜しく。」
「それは無理。」


女神様は男性の言葉に顔をゆがめているのに対して、男性は常に落ち着いていた。

男性は10秒ほど悩んだそぶりを見せてから会話を続ける。男性の言葉遣いが丁寧なものに変わった。対して女神様の口調は砕けた?ものになった。


「まぁ、それも約束のうちなのであきらめます。」
「そのまま、クリアしてくんないかな。」
「それは無理ですね。……話は変わるのですが、これどういうことです?」
「これって。」
「えっとですね。このままだとあちらの世界に行ってもすぐに衰弱死してしまうのですが……。何で魔族が姫様に化けて召喚魔法を使っているのですか。」
「今回はそういう設定なの。」
「いやー、それ普通は召喚しないんじゃ。失敗したとか言って。」
「今回はそういう設定なの。自分で何とかして。」
「はぁー。わかりました。」

今度は女神様が一度会話を切り、真剣な表情になってからもう一度話しかけた。


「君は神に勝てると思っているのですか。」
「勝てるとは思っていませんよ。」
「ではなぜ。」

男性は”ではなぜ”の後に省かれた言葉の重みを十分理解している。100回と繰り返された出来事の意味を理解している。だがしかし、男性は”勝てるとは思いませんが驚かせることは出来ると思っています。”と言ってにっこり笑う。

その表情を見て、女神は顔を赤らめながら言う。

「毎回作り直す私たちの身にもなってください。全く……。」
「毎度ありがとうございます。」
「別にあなたのためにやっているわけじゃないんだからね。」

女神様は見事なツンデレを見せた。





男性は女神様の赤くなった顔を見て笑いながら”じゃあ、そろそろ。”と言って女神様を背にして歩き出す。




祝福付加ギフトタッチ
男性がすこし歩いてから止まり、詠唱した。

周りに漂っていた無数の本が光の粒になって消えていく。男性もそれを見届けると同じように消えていった。











男性の出発を見届けた女神様は心の中で思う。
(次はだれに任せるんだっけ……。)




















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