才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第二話

☆☆☆


 色彩高校では、数週間後には定期試験という時期に差し掛かっており……勉強に真面目な生徒なら特に焦ることもなく、毎日少なからず勉強していることだろう。
 オレも週に四日ほど勉強する癖が付き……というか、やらないと揚羽にど突かれるので仕方なく勉強している感はある。
 勉強なんてコツさえ掴めれば、覚えなくてもいいところや、最重要ポイントが見分けられるようになるので、後は最重要ポイントを重点に覚えるだけである。
 だが、数学。てめぇはダメだ。

「ちっ……相変わらず数学とかクソだな」

 本日、諸事情により千石揚羽がいないためオレは一人で図書室にて勉強していた。
 30分くらいしたら帰ってアニメ見てゲームでもしよう。なにそれ、すっごい充実。
 数学の応用問題さえ解ければ、ぶっちゃけ早く帰りたいレベル。

「はぁ……今日は揚羽もいねぇから自分でやらないといけねぇしな……」
「その代わりではないが、この私が教えてあげようか?」
「先輩、文系コースでしょ……」

 二年進学時に文理コースを選択したオレと違い、オレの目の前で本を読んで座っている二階堂先輩は文系理系……数学なんてできるわけがなかった。

「まあまあ。私に任せてみるといい。えーっと……なるほど! さっぱり分からない」
「ダメじゃないっすか」
「人間、時には諦めも肝心だ」
「まだその時じゃねぇよ」

 勉強の邪魔ばかりしてくる二階堂先輩を黙らせ、集中して取り組むことにする。
 勉強を長続きさせる秘訣は無理をしないことだ。集中できない時は、もはややらなくていい。自ら、「やりたい!」というやる気がある時でないと記憶力にも大きな違いが生じる。
 あとは最初から何時間も勉強しないことだ。所詮、人間の集中力なんて90分程度しか保たないのだから、最初は30分くらいで徐々に身体を慣らしていくのがセオリーだろう。

「ふぅ……」

 とりあえず、今日のノルマも達成したのでオレは早々に切り上げて帰りの準備に取り掛かる。
 二階堂先輩も身支度を整えてオレの隣に立つと、一緒に図書室を出て帰路に立った。
 こうしているとオレがすっごく充実しているように思える。

「むふふ……今日は私と二人きりだぞ? 嬉しいかい? 少年?」

 現実はそんなことない。
 グリグリとオレの頬に人差し指を突き刺してくる二階堂先輩のウザさは異常。

「嬉しいことは嬉しいんですけどね……ちょっと静かにしてください」
「おやおや? この私に構ってくれないと? 少年はもっと、私に構うべきだと思うのだ」

 どんな構ってちゃんだ。

「今、ちょっと暗記したことを頭の中で整理してるんで黙っててください」
「ふっ……それを邪魔するのが楽しいのではないか!」
「あんた性格悪すぎだろ……」

 とはいえ、本気で邪魔してくることもなかったのでオレはパパッと整理した。
 それから、暫く二階堂先輩に構ってあげながら帰っていると……オレたちの前方にピョコンっと小柄な少女が現れた。
 誰かと思えば、一ヶ崎だった。

「よっす! フーちゃん先輩とシュウくん……二人きりで帰ってるの? うちも混ぜてもらおっとー」
「おやおや色葉くん……空気を読んで消えてくれたまえ。今すぐに」
「フーちゃん先輩こそ……というか、うちは空気読んだから混ざったんですぅ」
「オレを挟んで喧嘩するな」

 左右からギャーギャーと……第三者見れば、両手に華でいいご身分ですねぇ? とかなんとか言われるのだろう。
 実際、同じく下校中の生徒達から向けられる嫉妬の視線を受けると良い気分なのは言うまでもないが……いくら顔が良くても、ちょっと頭のおかしな二人に挟まれたオレの気持ちを考えて見て欲しい。
 え? 文句言わずに我慢しろって? 無理だね。

「もう! フーちゃん先輩邪魔!」
「色葉くんこそ!」
「…………」

 仁義無き貧乳と巨乳の戦いが始まるようだ。
 それはそれで大変興味の唆られる戦いだが、早く帰ってオレはアニメとゲームを消化しなくてはならない。
 美少女の好感度上げよりも、最近のオレにとってはそっちの方が重要だ。
 と……オレが、二人を置いて帰ろうとしたところで誰かの携帯に着信が入った。
 どうやら一ヶ崎のようで、一ヶ崎は携帯を開くと声を詰まらせて、とても嫌そうな顔をしていた。

「……どうかしたのか?」
「え……あ、あぁ……うん。ちょっとね」
「……?」

 普段と違って歯切れの悪い一ヶ崎に、オレは少し違和感を感じて首を傾げた。
 どうやらメールだったようだが……オレは、頭を掻いて口を開いた。

「なんか困ってることがあるなら、相談に乗るぞ?」
「で、でも……そんな悪いよ〜」
「みんなに言いふらすから」
「またそれ!? だからシュウくんには言いふらすお友達いないでしょ!」

 おいおい、最近は地味に言いふらす相手がいるんだぞ?
 上級生なら二階堂……も友達いねぇから広められないな。
 同級生は……ダメだ。オレの知り合い全員友達いねぇや。
 下級生は三枝が……あいつ友達いるんだろうか。

「いいから寄越せ!」
「あっ!」

 オレは一ヶ崎からスマホを掻っ攫い、メール内容を確認する。
 すると、オレの目に飛び込んできたのは……一ヶ崎が写真ばかりだった。主に登下校中の写真で、角度や光加減が絶妙に調整され……一ヶ崎が一番可愛く撮れる角度で、そういう写真が数枚送られていた。
 どうやら知らないアドレスからの送信らしいが……。

「いやぁ、自撮り写真を自分のアドレスに送るとかナルシストすぎてさすがにヤバイぞ?」
「違うよ!? そんな痛々しいことするわけないじゃん!」

 大声で叫んでツッコミを入れる一ヶ崎。
 二階堂先輩も気になったのか、オレが持つ一ヶ崎のスマホを覗き見ると……うへぇと表情を崩していた。

「これは……もしやストーカーかい? 一部の業界では色葉くんのような未成熟者も人気ではあるが……」
「うち未成熟じょないもん! もー!!」

 プンプンと怒る一ヶ崎から聞いた話では、数日前からこのメールが送られるようになったらしく……気づいたら誰かにストーカーされていたらしい。

「ストーカーって……自分のことだろ?」
「ち、違うもん!」

 まあ、とにかく……その数日前から送られてくる写真だとか、ストーカー自体は特に怖くはないらしい。
 ただ、気持ち悪いので早く犯人を突き止めたいらしいのだが……特に手掛かりがなくて困っているという。

「うぅ……千石さんならすぐに犯人突き止められるかな?」
「…………」

 逆に、あいつが犯人を突き止められないという絵面が思い浮かばない。怖すぎる。

「まあ、千石なら確実だろうが……一ヶ崎。この件は、オレに任せろ。オレが解決してやる」
「え? な、なに? うちの好感度を上げようとしてもむ、無駄だよ!?」
「なに!? 色葉くんルートに行くつもりなのかい!?」
「行くわけねぇだろ」

 誰がこんな貧相な身体をした女のルートに行くものか。
 オレがそう言うと、一ヶ崎はプクッと頬を膨らませ、二階堂先輩は大きな胸を張った。

「ふっ……となると、やはりメインヒロインはこの私だな?」
「ルート入る条件に、おっぱい揉ませてくれるとかあればいっすよ」
「えぇ……」

 おっと、つい本音が漏れちまったぜ。
 白い目で見てくる一ヶ崎と二階堂先輩は無視し、とにかくこの件はオレが解決してやるということで話を付けた。
 別にこの写真を撮った奴の腕を見込んで頼み事があるとか、このことで脅迫してオレ好みなムフフ写真を撮ってもらおうなんて考えていない。
 考えていない。




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