才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第一話

☆☆☆


 蝉の鳴き声が聞こえるようになった七月某所。
 オレはプールサイドから、キャッキャウフフなクラスメイトの女子達を眺めていた。
 水飛沫煌めき、スクール水着から溢れんばかりの双丘……溢れない奴は知らん。どっかいけ。
 おや? 奴の戦闘力は……Cか。まあまあだな。
 オレはそんな感じに、蒸し暑い夏の到来を感じながら……この我が校の自由なプールの授業に、感謝していた。

「暑いなぁ……帰りたいなぁ」

 なんてオレは口にするも、目に飛び込んでくるうら若き乙女たちが柔肌を曝け出し、人目も憚らずに水を掛け合う光景をチラチラとオレは盗み見る。

「何見てんの? キモいんだけど?」
「は?」

 我が至福の時を邪魔する不届き者は誰だと、声のした方向に目を向けると……プールサイドの影になっているところで座っていたオレを見下ろすように傍で腰に手を当て立っていたギャル子――たしか、六実とかいう女がいた。
 ふっ……貴様程度の戦闘力でオレの前に出てくるとは片腹痛い。

「誰がお前の水着なんて見るもんか。自意識過剰なお前の方こそキモいですけど?」
「は?」
「は?」

 オレは立ち上がってギャル子とガン飛ばし合う。

「おいおいおい? 女だからって手を出されないと思ってたら大間違いだぞ?」
「女に手ぇあげるとかちょーサイテーなんですけどぉ? ホントにヤリ太郎キモい。死ねば?」
「女と見られる自信があったのか? 本当に自意識過剰だなギャル子は。お前が死ね」
「は?」
「は?」

 もはや最近恒例となったやり取りである。
 中間テストで一位を取り、サッカー勝負ではエースストライカーの五門を負かし、果てには――いや、後は特に何ないな。
 と、とにかく……そんなこんなで近頃はオレによく絡んできてうざいゲラゲラ男子は鳴りを潜め、例の一件から虐めてきていたクラスメイト達の虐めも今は無くなった。
 ただ、その代わりとでもいうように……我がクラスの女子全てを束ねているクラスカーストトップに鎮座するギャル子が、事あるごとにオレへ絡んでくるようになっていた。

「女子の水着見て興奮すんなし。キモいんだよ!」
「少なくてもてめぇの貧相な水着姿見ても興奮せんわぁ!」
「さ、サイテー! マジあり得ないんですけど!」

 結局、暫く罵り合いが続いたせいで水着女子を見損ねた。
 楽しみだった四葉のバインバインなスクール水着を拝むことができなかったのだ。


☆☆☆


「残念だったわね。クラスが別で、私の水着姿が見れなくて」

 千石エリアで昼食を食べ終えて一息を吐いたところで、我が高校のマドンナ――はないな。
 魔王……そう、魔王である千石揚羽が唐突にそんなことを言ってきたのでオレは頭を掻いた。

「だから、揚羽の……その自意識過剰なところ直せって言ってんだろ。何なの? オレの周りって自意識過剰な奴ばっかじゃん……」
「あなたに友達がいたかしら」
「いねぇよ。そういう事実を突きつけて傷を抉るところ、良くないと思うぞ?」
「修太郎くんにだけは言われたくないわね……」

 千石揚羽は、長い黒髪を本日は束ねずストレートに流しており、メガネもやめてコンタクトにしたようで……いつもよりも大人っぽく見える。
 そんな千石揚羽だが、今は虫ケラを見る目でオレを見ていた。一部の業界じゃご褒美だが、残念なことにオレはノーマルだった。

「おい、それ意味だ?」
「そのままの意味よ。変太郎くん」
「明らかな悪意を込めた改名はやめてもらおうか!」
「では、おっぱい星人くん」
「名前ですらねぇ……あ、でもあと三回くらい言ってもらっていい?」
「変態……」

 ついに揚羽がオレを見る目が、虫ケラからゴミカスを見る目にレベルアップした。むしろ、レベルダウンしてるまである。いや、これもう確実。
 揚羽は自分の身を抱き締めて俺から遠ざかるように身体を反った。細いウエストラインに沿って、制服――夏服のブラウスの上に着用したベストに皺が寄った。

「まあ、待て」
「……何かしら」
「変態と一括りにするのは簡単だが、オレはただの変態じゃないぞ?」
「変態は認めるのね……」
「分かってねぇなぁ……健全な男子高校生なら、大抵が性欲の塊だ。むしろ、オレは健全な男子高校生代表と言っても過言じゃないくらいには健全な男子高校生の模範という自信がある」

 腕を組み、自信満々に語るオレに興味が湧いたようで、揚羽の視線が少し柔らかくなった。

「ほら、女子も似たところあるだろ?」
「そうかしら……?」
「ムラムラしちゃったりとか!」
「女子高生に猥褻な言葉を言わせようとした罪で訴えようかしら……」
「マジですみませんでした」

 平謝りしたオレに、揚羽は呆れたようにため息を吐いた。
 まあ、こんな会話は日常茶飯事である。こうしてバカみたいな会話をするのが、もはや恒例とまでも言えるのが若干嬉しかったりする。
 オレ、こんな会話できる友達(男)いないからなぁ……おや? 目から汗が……。
 やはり、健全な男子高校生なら男同士、下ネタで盛り上がるのが普通というもの。だというのに、オレには悲しいことに男友達がいなかった。
 完璧超人なら、男子のノリも行けるかもと思ったが……まあ案の定軽蔑の眼差しを向けられた。

「はぁ……他の女子なら、即刻拘置所よ。そういうデリカシーのないことは、女性に向かって言うべきではないわ」
「ういっす」
「全く反省してるように見えないのだけれど……」

 いや、反省している。デリバリーだか、デリートだか知らないが……。
 それから暫く、揚羽の説教が続くわけだが……揚羽その間、終始髪の毛をクルクルと弄っていた。
 時折、咳払いして不自然なほど瞬きしたり、髪を手で払って何かを強調していた。
 これは……そう言うことか?

「揚羽さんや」
「あら、何かしら? 今は私が説教している最中だから黙っていてくれるかしら」
「いや……ほら、その髪型似合うなぁ!と……あと、コンタクトに変えたんすか? 似合うなぁ!」

 褒め言葉に対するボキャブラリーが貧困を超えているわけだが、それでも揚羽は満更でもなさそうにしている。
 ふふんと、子供染みた笑みを浮かべて胸を張っていた。

「では、説教の続きをするわ」

 あ、それは続けるんだ。





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