才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……
終話
☆☆☆
まだ明けることのない梅雨時。
オレがボーッと千石エリアでコーヒーを飲んでいると、向かいに座っていた千石が自分の鞄をガサガサと漁り......やがて、何かを鞄から取り出した。
そうして、千石が俺の目の前に突き出してきたものは......ポォッキーだ。
「ポォッキーゲームをしましょう」
「は?」
ちょっと何を言い出してんだこの女。
「何かしら?」
「何かしら......じゃねぇよ。急にどうしたんだ? お前からそんな頭の悪い言葉を聞くことになるなんて思わなかったぞ。お前……さては千石じゃないな!?」
「失礼すぎると思うのだけれど......」
いや、実際のところそうだろう。
ポォッキーゲームなんて、いかにも千石揚羽の嫌いそうなことだ。それを千石から聞くことになるなんて、誰も予想打にしない。
「で? マジでどうした? 熱でもあるのか?」
「違うわ。ほら......先日、先に好きなった方が負けという勝負を始めたでしょう。これは私の作戦よ。ポォッキーゲームなら、あなたに負けることもないもの」
どっからどう見ても箱入り娘感が尋常じゃない千石に、まさかそんな自信たっぷりに言われるとは思わなかった。
この女......もしや、このオレがポォッキーゲーム如きで身を引くとでも思っているのではないだろうか。
「おいおい千石さんよぉ......オレをどこぞのヘタレ主人公と思ってるなら今のうちに改めた方がいいぞ?」
「あら......へ太郎くんが何か言っているわね」
「よぉし......よく分かった。どうやらオレのことを舐めているようだな」
オレは眉間に皺を寄せ、怒りを露にする。
童貞のクソヘタレ野郎と思っているようだが......オレは据え膳を食わない男ではない。
オレは、合意の上でならなんでもやる男である。
「ならば、やることは決まっているわね......」
「いざ尋常に勝負!」
そうして、毎度のことながらオレと千石の下らない勝負が始まるわけだが......オレが尋常に勝負したことなんて、そういえばなかった。
互いにポォッキーのスナック部分と、チョコの部分とを咥える。その距離も中々に近く、直ぐ目の前に千石揚羽の端正な顔があった。
「…………」
「…………」
お互い無言で無表情。
なんか負けたように思えて目も逸らすことができず、ジッと二人で見つめ合っていた。
睫毛長いなぁ……肌白、触ったらスベスベなんだろうなぁ……等々、飽くまでもオレは健全な男子高校生程度に妄想を膨らませる。
やがて、千石の方から食べ進んできたのでオレもポォッキーを食べる。
そのまま二人で食べ進めれば必然的に、もう鼻先が触れ合うような距離になっていた。
「っ……」
オレはポォッキーを折って逃げる寸前に思い留まり、なんとか恥ずかしさを耐える。
きっと、オレの表情は真っ赤なんだろうなと思うと……無表情な千石を見ていて恥ずかしさが増す。
暫くして……千石の方がポォッキーを折ったので勝負はオレの勝ちになったのだが、これはちょっと勝ち負け云々じゃない気がした。
「……ごめんなさい。変な空気になってしまったわね……」
「いや……別に。お前の綺麗な顔も近くで見れたから役得ではあったしな」
「千葉くん。ひょっとして私のことが好きなのかしら?」
「寝言は寝てから言えよな?」
何回も言っているが、千石を好きになるなんてこと……。
「はぁ……」
「……? 溜め息なんて吐いてどうかしたのかしら?」
「いや……別に」
オレはもう一度、今度は小さな溜め息を吐いた。
毎度こうして下らない勝負なんかしてるが、今回の勝負はどうも勝てる気がしない。
先に、相手を好きなった方が負けね……あぁ、不利だわ。これ。
オレが苦しい時に手を差し伸べてきたのは千石だ。
オレが努力できたの千石が居たからだ。
オレが悩んで居たら一緒に考えてくれたのは千石だ。
ややキツイところもあるが、ルックスも性格も正直満点。さすがは、完璧超人。これで好きにならない男子なんて……はたして居るのだろうか。
まあ、だからこそ……オレが千石揚羽を好きなんてなってやらないわけだが。
みんな大好き千石さん……みたいな、そんな千石揚羽を好きになるなんて嫌だ。
「……? そんなに私を見つめて……やはり、私のことが好きなのかしら?」
「調子に乗んな。男なら誰でもお前を好きになると思うなよ? オレはお前を好きになるなんて、あり得ないからな!」
「意地を張らなくてもいいのよ。この勝負は、私が負けるはずがないもの。だって、私は可愛いから……」
「……謙虚さは大事だって何度も言ってると思うんだが。とにかく、お前が可愛いから好きになるなんて絶対にないからな!?」
これはもはや意地だ。
本当は好きなんだだろうとか、そういう野次は要らない。オレは、この千石揚羽だけは好きなってやらない。
「私が勝つわよ……修太郎くん」
「オレが勝つぞ……揚羽ちゃん」
千石揚羽という女は、とことん自意識過剰で嫌な奴だ。
オレは苦虫を噛み潰したような千石を睨み、千石も嫌悪感に満ちた表情を浮かべていた。
まだ明けることのない梅雨時。
オレがボーッと千石エリアでコーヒーを飲んでいると、向かいに座っていた千石が自分の鞄をガサガサと漁り......やがて、何かを鞄から取り出した。
そうして、千石が俺の目の前に突き出してきたものは......ポォッキーだ。
「ポォッキーゲームをしましょう」
「は?」
ちょっと何を言い出してんだこの女。
「何かしら?」
「何かしら......じゃねぇよ。急にどうしたんだ? お前からそんな頭の悪い言葉を聞くことになるなんて思わなかったぞ。お前……さては千石じゃないな!?」
「失礼すぎると思うのだけれど......」
いや、実際のところそうだろう。
ポォッキーゲームなんて、いかにも千石揚羽の嫌いそうなことだ。それを千石から聞くことになるなんて、誰も予想打にしない。
「で? マジでどうした? 熱でもあるのか?」
「違うわ。ほら......先日、先に好きなった方が負けという勝負を始めたでしょう。これは私の作戦よ。ポォッキーゲームなら、あなたに負けることもないもの」
どっからどう見ても箱入り娘感が尋常じゃない千石に、まさかそんな自信たっぷりに言われるとは思わなかった。
この女......もしや、このオレがポォッキーゲーム如きで身を引くとでも思っているのではないだろうか。
「おいおい千石さんよぉ......オレをどこぞのヘタレ主人公と思ってるなら今のうちに改めた方がいいぞ?」
「あら......へ太郎くんが何か言っているわね」
「よぉし......よく分かった。どうやらオレのことを舐めているようだな」
オレは眉間に皺を寄せ、怒りを露にする。
童貞のクソヘタレ野郎と思っているようだが......オレは据え膳を食わない男ではない。
オレは、合意の上でならなんでもやる男である。
「ならば、やることは決まっているわね......」
「いざ尋常に勝負!」
そうして、毎度のことながらオレと千石の下らない勝負が始まるわけだが......オレが尋常に勝負したことなんて、そういえばなかった。
互いにポォッキーのスナック部分と、チョコの部分とを咥える。その距離も中々に近く、直ぐ目の前に千石揚羽の端正な顔があった。
「…………」
「…………」
お互い無言で無表情。
なんか負けたように思えて目も逸らすことができず、ジッと二人で見つめ合っていた。
睫毛長いなぁ……肌白、触ったらスベスベなんだろうなぁ……等々、飽くまでもオレは健全な男子高校生程度に妄想を膨らませる。
やがて、千石の方から食べ進んできたのでオレもポォッキーを食べる。
そのまま二人で食べ進めれば必然的に、もう鼻先が触れ合うような距離になっていた。
「っ……」
オレはポォッキーを折って逃げる寸前に思い留まり、なんとか恥ずかしさを耐える。
きっと、オレの表情は真っ赤なんだろうなと思うと……無表情な千石を見ていて恥ずかしさが増す。
暫くして……千石の方がポォッキーを折ったので勝負はオレの勝ちになったのだが、これはちょっと勝ち負け云々じゃない気がした。
「……ごめんなさい。変な空気になってしまったわね……」
「いや……別に。お前の綺麗な顔も近くで見れたから役得ではあったしな」
「千葉くん。ひょっとして私のことが好きなのかしら?」
「寝言は寝てから言えよな?」
何回も言っているが、千石を好きになるなんてこと……。
「はぁ……」
「……? 溜め息なんて吐いてどうかしたのかしら?」
「いや……別に」
オレはもう一度、今度は小さな溜め息を吐いた。
毎度こうして下らない勝負なんかしてるが、今回の勝負はどうも勝てる気がしない。
先に、相手を好きなった方が負けね……あぁ、不利だわ。これ。
オレが苦しい時に手を差し伸べてきたのは千石だ。
オレが努力できたの千石が居たからだ。
オレが悩んで居たら一緒に考えてくれたのは千石だ。
ややキツイところもあるが、ルックスも性格も正直満点。さすがは、完璧超人。これで好きにならない男子なんて……はたして居るのだろうか。
まあ、だからこそ……オレが千石揚羽を好きなんてなってやらないわけだが。
みんな大好き千石さん……みたいな、そんな千石揚羽を好きになるなんて嫌だ。
「……? そんなに私を見つめて……やはり、私のことが好きなのかしら?」
「調子に乗んな。男なら誰でもお前を好きになると思うなよ? オレはお前を好きになるなんて、あり得ないからな!」
「意地を張らなくてもいいのよ。この勝負は、私が負けるはずがないもの。だって、私は可愛いから……」
「……謙虚さは大事だって何度も言ってると思うんだが。とにかく、お前が可愛いから好きになるなんて絶対にないからな!?」
これはもはや意地だ。
本当は好きなんだだろうとか、そういう野次は要らない。オレは、この千石揚羽だけは好きなってやらない。
「私が勝つわよ……修太郎くん」
「オレが勝つぞ……揚羽ちゃん」
千石揚羽という女は、とことん自意識過剰で嫌な奴だ。
オレは苦虫を噛み潰したような千石を睨み、千石も嫌悪感に満ちた表情を浮かべていた。
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