才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第五話

 ☆☆☆


 土曜日がやってきて、お休みだわーいと喜んでいたオレのスマホちゃんに、『ルアイン』からの着信を報せる音が鳴った。

 はて、休みの日に『ルアイン』してくれるような友達はいないと思っていたのだが……おや? 目から汗が……。

 スマホのディスプレイを覗くと、『よつば』の名前があり、その下には『今から千葉くんの家に行くね』という旨のメッセージが送信されていた。

 ここでようやくオレは、先日に四葉とデート(笑)の約束をしていたことを思い出した。

 おっと……土曜日も日曜日もデートですかい? はっはっは、充実しているように見えるだろう? 実はオレの財布の中身は空なんだぜ……。

 オレは頬をヒクヒクさせ、残り少ない野口を見て嘆息する。オレの自由は消えさり、野口はデートに出掛けていく。あぁ……世の中って残酷。

 財布の中身と睨めっこしながら呆然とするオレの耳に、インターホンを鳴らす音が聞こえたのはこの直ぐ後だ。


 ☆☆☆


 白のワンピースは裾にフリルが付いており、何とも可愛らしく、シンプルなデザインである。同じ白のリボンで一つに結われた黒髪は、そよ風に靡いていた。

 街中に歩いていれば、男が二度見はする美少女と言って差し支えない四葉とオレは隣を並んで歩き、色彩デパートへ向かっていた。

「ど、どうかな……アタシの服」
「白が映えてるよな。四葉は脚が長いし、肌も白いし、華奢だし、可愛いよな。あと、おっぱいも大きいよな」
「そ、そんな……かわ、可愛いだなんて……えへへっ」

 おっと、最後のは辛うじて聞こえなかったようで助かった。おっぱいが大きいなんて、間違っても褒めるポイントじゃないよな……今日の四葉は本当に可愛いと思ったので、オレは素直に褒める。ただ、相変わらず木刀を腰に挿していなければ心の底から褒めることが出来たかもしれない。

 まるで褒めることを強要されるが如く、オレの喉元に突きつけられた木刀に怯えながら、オレはこの後の予定を四葉に訊いてみる。

「この後はどうするか決めるてるか?」
「うん……と、とりあえず喫茶店に」
「オーウ……」
「え……? どうしたの?」
「いや、何でも」

 オレはふと、一ヶ崎や二階堂先輩とのデートを思い出し、あの喫茶店の店員に思いを馳せる。

 ちょっと待って欲しい。もしも、あの店員がいたらオレは三股疑惑を掛けられるのではないだうか。さすがにそこまで心配もしていないけれど……何となく嫌な予感がする。

 見ず知らずの相手とはいえ、「え……この男の人、違う女の子連れてる」みたいに思われるのは嫌だ。すごく最低な人間じゃねぇか……まあ、普段女子の胸を見て戦闘力がどうのこうのと言っているので、最低度合いが変わることはないんですけどね。

「あ……」
「ん?」

 オレが下らないことを考えていると、途中で猫の引き取りをお願いしている慈善団体に出くわした。

 四葉は目をキラキラさせ、ケージの中でミーミー鳴いている猫にゆっくりと近寄っていく。慈善団体の女性は笑顔でケージから猫を出してあげると、触りたそうにしていた四葉に抱っこさせた。

「うわぁ……可愛い!」
「ミャー」
「……アビシニアンか」

 オレは四葉が抱いている猫の品種名を言うと、四葉は目をパチクリさせて意外そうにオレを見ていた。

「く、詳しいん……だね?」
「いや、別に詳しくない。ちなみに、スコティッシュ・フォールドって猫が割と人気だそうだ。ここにはいないみたいだけどな……」
「猫、好きなの?」
「いや、好きじゃない」
「ミャー」
「好きに決まってるだろ!」

 四葉の腕に抱かれた猫が、オレの発言に悲しそうな鳴き声を上げたので、オレはついつい反射的に叫んでしまった。四葉は驚いた顔をしていたが、やがてその表情は微笑みに変わっていた。

 オレは何となく気恥ずかしくなって、顔を背ける。すると、四葉は猫をオレの顔を近くまで持ってくると、まるで猫が喋ってる風に言った。

「ニャー……な、なーんて……」
「……バカか?」
「うっ ︎ だ、だって……千葉くんか猫好きって言うから、猫の真似したらアタシのことも……」
「お前は猫じゃない。大体、四葉が猫になったら勿体ない」

 オレは四葉の肩に手を置きつつ、続ける。

「お前には、お前にしかない魅力があるんだ……そう、おっぱいがな!」
「そ、そんな……アタシに魅力なんて……えへへっ」

 おっと、間違えた。またまた、おっぱいしか取り柄がないとか言ってしまった。いや、そこまで酷いことは言ってないけれども。とはいえ、似たようなものだろう。

 正直、木刀振り回すような女はちょっと怖すぎるので、出来れば近寄りたくない。なんなら、連絡先や寮先まで知られているのである。普通に怖い……というか、怖い。

 運良く、再び四葉さんはオレの失言を聞き逃していたのでデート続行。オレは離れ行く猫たちの鳴き声を背に、色彩デパートへ向かった。

「ミャー」

 あぁ……ごめん、やっぱ無理。

「四葉。ちょっと猫と遊びたい」
「え ︎ あ、アタシよりも猫が……いいの?」
「もちろん」
「うっ ︎ うぅ!」

 四葉は若干涙目になり、唐突に腰の木刀をオレに向かって振り下ろした!


 ☆☆☆


 プンスカプンスカと……そんな擬音が聞こえるくらい、怒っている四葉の後ろを歩くオレは、結局のところ猫と戯れることが出来ずに意気消沈していた。

「ネコォ……」
「うぅ……猫、強敵っ!」
「四葉……猫に勝てると思っちゃいけない」
「えぇ ︎」

 オレは一度ため息を吐き、これ以上は失礼だと思い直して態度を改める。とりあえず、まずは四葉の機嫌を直すために何で釣ろうかなと思い……オレ達はフードコーナーに足を運んできていた。

 フードコーナーには『32サーディントゥー』があり、四葉は暫くサンプル展示されていたクレープに目を奪われていた。

 女の子って、クレープ好きよね。オレも好きだけど。

「奢るぞ」
「む……た、食べ物じゃ釣られないもん」
「ははは。食べ物じゃない……金で釣るのさ……」

 オレが財布から寂れた野口を出すと、四葉は微妙そうな表情をしていた。

「み、身も蓋もない……」

 そりゃあそうだろ。食べ物買うのも金がいる。食べ物で釣っているというのは、厳密には違うだろう。機嫌が悪い女の子がいるなら、とりあえず金をあげれば機嫌直すんじゃないかな?(自論)

「実際、金を渡せば全部丸く収まるだろ? 世の中って金だよな……」
「か、悲しいこと言わないでよ……愛とか! 愛はお金じゃ買えない、よ?」
「あーはいはい、それな。ホントそれ。それしかないよね。じゃあ、クレープは四葉の奢り……はい、喜んで奢らせていただきます」

 オレはさっき木刀で切られて……じゃない、叩かれて恐怖を刻まれたために木刀を突き付けられると何でも言うことを聞いてしまう性格になってしまった。

 そのせいで、四葉に贅沢クレープという高いものを買わされる羽目になった。

 オレが再び意気消沈していると、四葉はオレを見て苦笑し、優しい笑みを浮かべて食べかけのクレープをオレにズイッと寄越してきた。

「ひ、一口……いいよ?」
「いや、間接キスになるので遠慮しやす」
「一口、イイヨ」
「いただきまーす!」

 まさか食べることを強制させられるとは誰も思わなかっただろう。オレはカタカタ震えながらも一口、四葉の(オレの金で買った)クレープを食べる。

 クリームの甘みやら何やらが口の中に広がっていき、ちょっと幸せな気分になった。

 一方の四葉は、オレが食べた部分をジッと眺めると……パクっとその部分を食べて至福の笑みを浮かべていた。ちょっと怖い……。

「も、もう……歯、磨かない……ひひひ」
「いや、磨け」

 怖い。

 笑い方、ちょー怖い。



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