才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第十話

 ☆☆☆


 一ヶ崎、二階堂、四葉、千石……我が校でも名のある美少女三人と新興美少女一名の三つ巴ならぬ四つ巴ちに睨み合っている様は……ぶっちゃけ圧巻である。

 戦闘力が一番低いのは一ヶ崎(笑)で、あとの三人は割とどっこいどっこいか……大きさだけなら二階堂先輩が断トツとして、次に四葉だろう。千石は大体D〜Eくらいなので……必然的に二人はそれ以上となる。

 バケモノか……ッ!

 ちなみに一ヶ崎はAな。もはや一転してZまである。

「かの有名な千石揚羽か……少年に何やらちょっかいを掛けているそうだな?」
「いえ……日本屈指の小説家である二階堂文先輩ほどではないわ。あと、ちょっかいをかけられているのは……どちらかといえば私の方よ」

 かけてねぇよ。

「むむ……ここにはデブしかいないみたいだね!」
「ふ、太って……な、なななないよぉ……」

 そうだぞ!このど貧乳!四葉とか二階堂先輩とか、あと千石は胸が大きいだけなんだぞ!

 オレは仁義なき女達の戦い(?)を外野から眺め、ふむと頷いて……玄関口から一人帰るオレに気が付かず四人は言い争う。

 オレは付き合っていられないと先に帰ることにした。結局、一人で帰る羽目になったのだが……まあ、そこはいつもと変わらないからいい。

 そうして、テレテレと校門までやってくると……思ってもみなかった相手に遭遇した。

「おや?」
「…………む」

 相手もオレに気が付き……そいつの周りにいた三人の可愛らしい女の子達もオレに気付くと顔を顰めた。しかし、女の子達に囲まれた人物だけはオレを見て微笑んで声を掛けてきた。

「やあ、千葉修太郎くん」
「…………ふん」

 声をかけてきたその相手とやらは、百夜万里だった。百夜のイケメンオーラに集る女の子達は、オレの態度が気に食わないのかそれぞれ威嚇してきている。

 背の小さい一ヶ崎色葉キャラの女の子、どこか大人っぽくて先輩である二階堂先輩っぽいキャラ、最後はオレの知ってる女子の中では種類の違うタイプ……その三人が百夜の取り巻きだ。

 その女子は金髪ロングの碧眼で身長が高く……ロシア人を彷彿とさせる容姿をしていた。

 これはこれは……戦闘力はDだな?やるのぉ……なんて見ていたらロシア系女子に気持ち悪い汚物を見る目で睨まれた。

 おっと……そこはかとなく傷つく。

「あまり邪険にされると寂しいな……仲良くしていこうよ」
「できるわけねぇだろ……オレはお前を恨みこそあれ、仲良くしたいなんて思えねぇっての」
「だろうね」
「張っ倒すぞ」

 なにが、「だろうね。ハハッ」だよ!分かってんなら最初から言うな。

 オレは百夜を睨みつけ、百夜はそれを笑顔で受け流す。そんなオレ達――というか、オレが気に食わないのだろう……百夜の取り巻きである大和撫子みたいな先輩バインバインな先輩が口を尖らせた。

「おい……あまりにも失礼な態度だろう。友好的にしようしている万里くんに対して……君の態度は無礼だ」

 百夜のは友好的じゃなくて、馬鹿にしてるだけなんですが。目ん玉付いてます?クールぶってるみたいだけど、あんたの頭の中はどうやらお花畑みたいだな。

 内心でオレはそんな悪態をつき……あまり角が立つのも宜しくないと、百夜やその取り巻き達によって周囲の注目を集める中でそう考えたオレは対人スイッチをオンにして、百夜に対応する。

「ごめんなさい……先輩の言う通りですね。百夜くんも……気を悪くさせたらごめんね?」
「僕は気にしていないさ」
「わ、分かれば……いいのだ。うむ……むぅ……」

 オレが潔く態度を改めたからか、これ以上は何も言えないのか先輩はそれで口をつぐむ。もう喋んなよな?マジでお花畑クールビューティーが許されるのは、オレのことが好きな奴だけ。違う男の取り巻きが、そんなヘンテコ属性持ってたら普通に殺意しか湧かん。

 けっ。

 もうこれで文句ないだろうとオレが思うと……今度は一ヶ崎風の貧乳(笑)がオレを指差して笑ってきた。

「ぷーっ!きっも!さっきまであんなに高圧的だったのに……凛先輩に注意されてコロッと変わってんじゃん。ダッサ〜!」
「は?」

 はい、ガチギレ☆

 オレはコメカミに青筋を立てて、クソ笑いしている一ヶ崎(劣化版)を睨みつける。さすがに凛先輩?とかいう人は、一ヶ崎擬きが悪いと判断してため息を吐いていた。

 頭はお花畑でも一応盲目ではないらしい。いや、もしも一ヶ崎擬きが百夜だったら、結局オレが悪いことになってたんだろうけど……。

 オレはとりあえず一ヶ崎擬きを完全にシャットダウンする。秘技、フィルターさん(無視)により一ヶ崎擬きの声は聞こえなくなった。

 そうやってうるさい一ヶ崎擬きをスルーし続けていると、百夜は相変わらず笑みを崩さずに言った。

「五門くんとサッカー勝負するだってね。中間テストの時に、あまり出しゃばらない方が良いって言ったのになぁ……遠回しな言い方が良くなかったのかな?」
「あ?なに言ってんだお前。意味分かんねぇぞ」
「うん。じゃあ、単刀直入に言わせてもらうけれど……」

 と、百夜は一旦そこで区切ってから笑顔でこう述べた。

「あまりに近づかないで欲しい」
「…………は、はぁ?」

 百夜の表情は笑っているのに目が笑っていない。それはつい先ほど見たような笑顔で……オレは百夜に千石の面影を感じてしまった。

 そもそも、完璧超人と万能である二人は才能自体が似ている。中途半端なオレの上位互換……それが、百夜と千石なのだ。

 僕の千石さんというのがどういう意味かは想像したくないが率少なくとも、オレにとって面白くないことだろうことだけは確かだ。

 オレも百夜を見習って笑みを浮かべ、切り返す。

「悪いけど……それは出来ないよ。だって、千石さんと僕には切っても切れない関係があるからね」

 主にオレが千石を使い、千石がオレに使われる関係だが……まあ、尻に敷かれてるのはオレなんですけどね。でも、間違ってない。言ってることは、間違ってない。

 オレの言葉に百夜がここに来て初めて眉間に皺を寄せ、コメカミに青筋を立てる。取り巻きの女共は、見たこともない怒っている百夜を見たからか、オレに咎めるような視線を送ってくるが……それはお門違いって奴だ。なぜなら、先に喧嘩をふっかけてきたのは百夜からだからだ。オレは所詮、それを買ったまでだ。

「切っても切れない関係とかキッモ!こんな奴に万里が負けるわけないよ?千石さんもきっと万里を選んでくれるよ〜」
「その通り……このような軽薄そうな男よりも万里くんの方がいいに決まっている。千石さんもきっと万里くんが好きに決まっているさ」
「…………そうね」

 ここで初めてロシア系(笑)が澄んだ声音で他二人に同意していたが……百夜を応援している風の二人と違って彼女だけは悲しげだ。あまり、千石と百夜を応援するつもりはないらしい。

 なるほどらなるほど……とりあえず分かったのは、百夜は千石が好きで?多分、取り巻きの女共は百夜は好きだけど……百夜の千石に対する想いを優先してやりたいとかいう偽善者面しているんだろう。

 ははは。

 いやいや、美しい青春……恋愛だ。甘っ酸っぱくて吐き気がする。オレは甘いのは好きでも酸っぱいのは嫌いだ。梅干しとか無理ね。本当にね。

 オレは百夜に対して、こう言った。

「おいおい百夜さんよぉ……周りに美少女(笑)を侍らせておいて自分だけは好きなやつと結ばれてたいって?なら、そこの女共の気持ちはどうなるんだ?オレが知ったこっちゃないがよ……その方が軽薄ってもんだろ。お前のことが好きで、朝の眠い時間に起きて弁当作って……お前に見せるためだけに身嗜みに気を遣うんだ。ぶっちゃけ馬鹿みたいだよな?絶対に結ばれないと知ってんのに態々自分を粧してよぉ……」

 オレが全く下らないという風に両手を挙げて首を振れば、さすがに女共が怒ったように声を荒げる。

「お、お前のような男に何が分かる!」
「そうだ!クズ男!」
「…………」

 一人はジッとオレを睨んでるだけだけど……ま、まあいいや。

 百夜はオレの話を比較的に穏やかな表情で見ていた。大体分かった……百夜万里にとって取り巻きの女共は所詮取り巻き。どうでもいい存在なのだ。

 そりゃあそうだろうよ……オレだってどうでもいい。

「何も分からねぇから好き勝手言ってるに決まってんだろ!このボケ!お前ら安くない金使って粧して弁当作ったりしてんだろ!?知らんけど……全部それが百夜のためなのに報われないなんざおかしくねぇか?それに報いようとしない百夜の野郎の方がクズだろってーの……本当に千石だけが目当てなら他の女なんざかなぐり捨てるつもりじゃねぇと……」

 オレはそこで一度区切り……先ほどの百夜を真似るように続けた。

「あの女は靡かねぇ」

 百夜は暫く無言で、オレに言われたことが割と図星で……少しでも考えたことがあるのか取り巻きは俯いて声も発しない。ただ、不安げにチラチラと何も言わない百夜に視線を送っているだけだ。

 よし。これで少しはこいつらの関係が拗れるだろうザマァ!

 そう思いながら、オレは百夜達の横を通って帰路に立つ。すると、どういうわけか……その寮までの帰り途中に千石揚羽が立っていた。

「何やってんだ?」
「あら……私にお弁当を作らせて報いようとしていないどこかクズくんじゃない」
「おいコラてめぇ……報いようと必死に特訓してたじゃねぇか」
「そうね……冗談よ。あなたと私の関係はそういうものだものね」

 全く……とはいえ、オレが百夜に言ったことは少なからずブーメランなのは否めない。何でもかんでも千石任せというのもあれだ……まあ、オレ氏千石の手助けが無くなったら終わるんですけどね。それくらい理解してますよ?えぇ……。

 オレは先に待っていた千石の隣に付くと二人で並んで歩き出す。オレはその最中でこう尋ねた。

「他はどうした?」
「あら……あなたも百夜くんみたいに女の子を侍らせたいのかしら?」
「それはある。男子諸君からの嫉妬が気持ちいいだろう?」
「最低ね…………少し揉めてじゃんけんで私が勝ったから残ったのよ」
「へぇ」
「じゃんけんで勝った人が千葉くんと一緒に……二人で帰るという権利よ。……そういえば千葉くん?近くにクレープ屋さんが新しくできたらしいわよ?」
「おや?デートのお誘いかな?ついにオレにも春が……」
「奢ってくれたら私とっても嬉しいわ」
「おかしいな……暗に奢れと強要されている気がする」

 気のせいよ……という千石の言葉が、全く気のせいじゃない気がするのはオレだけなんだろうか。そんなことを考えながら、視線を感じたオレはハッとなって後ろを振り返ると……道の電柱に縦になって並んでオレと千石をジッと見つめている三人と目があった。

 下から一ヶ崎、四葉、二階堂先輩である。おっぱい順じゃないですか(笑)

「今、胸の大きさで並んでいると思ったわね」
「思ってない」
「正直に言いなさい。私も思ったから……」
「最低だな」

 オレは自分のことを棚に上げて千石を貶めた……。




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