才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……
第三話
ホームルームが終わり、放課後。
ギャルギャルグループとゲラゲラ男子を掻い潜ってスタスタと下駄箱までやって来ると……人が倒れていた。一瞬、オレは物凄く驚いて頬を引きつらせたのだが……よく見たら変人の二階堂文が倒れていた。
暫く見ないと思っていたが、まだホームルームが終わって直ぐである。こんなにも早く下駄箱で力なく倒れているとは一体この女は何をやっているのだろうか。しかし、もはやオレに関係のあることでもないだろう。
オレは素通りしようと革靴に履き替えて――今日は珍しく画鋲がなかった――玄関口を出ようと……したところで足を二階堂がガッシリと掴んできた。
「待ちたまえ。少年」
「離せ」
うつ伏せで見えないはずなのにどうしてオレだと分かるのかこの女の子。やはり、変人だ。
 
チラッと尻目に二階堂を見ると、ムギュウっと大きなパイの実がうつ伏せにいるおかけで柔らかそうに潰れていた。
ははは。今更、このオレがその程度で誘惑にされるとでも?日々、完璧超人たる千石の誘惑を耐えるこのオレを誘惑できると思うなよ?
「少年。待って欲しい……」
「なんでしょうか」
オレはササッ二階堂先輩の近くに屈み込む。相変わらず足は掴まれてるけど……え?なになに?どうして話を聞く体勢なのかって?そりゃあ、おっ(ry
二階堂先輩はいつものようにオレの足を解放すると仰向けになり、プルンっと双丘を弾ませた。弾ませたってなんだよ……。
「少年……先輩として少年にしっかりと言わなければならないことがある……」
「はい?なんですか?」
「うむ……私が聞いた話をによれば、少年は女子生徒に裸で襲いかかり、剰え関係を迫ったと聞いたぞ?」
おいちょっと待て。
「よくないぞ!男子たるもの女を守るべきだぞ?」
「えぇ……」
その話めっちゃ今更な上に、事実無根なんですけど……。というか、裸で云々の件はむしろ二階堂と一ヶ崎のせいじゃねぇか!なんでオレが悪いみたいになってんの?
そこでオレは、そういえば今二階堂は『聞いた話』と口走っていた。つまり、今日に至るまで二階堂の耳には学校に蔓延するオレの武勇伝が伝わっていなかったということになる。
「二階堂先輩」
「ふむ?なんだ?」
「今日までどこで何してたんですか?」
「小説の原稿の締め切りが近かったので缶詰めしていたぞ?寮でな!」
「…………そ、それで今日まで休んでいたんですか?」
「いやいやぁ〜さすがに副業だけじゃそこまで休まんよ。缶詰めしてた時に生活が杜撰になってしまってな……おかげで体調を崩して何週間も休んでいたということさ」
なるほど……それでオレの武勇伝を今の今まで知らなかったのか……。しかし、たしか百夜の野郎に弾劾された時に二階堂先輩の胸を舐め回すように見ていたという割と事実的な証言があった。あれは間違いなく二階堂先輩が言ったものだろうが……とはいえ、一概に二階堂先輩のせいでオレがこんな状況に追い込まれているとは言えないか……。
「全く……少年も男だから仕方がないが欲情しても、襲い掛かるのはよくないぞ?少年は私のおっぱいを舐め回すようには見るが、襲い掛かったことはないだろう?その精神力を大事にすべきだぞ?」
「は、はぁ……なるほど?」
「あぁ!それと、君の靴に何やら悪戯しようとしていた輩がいたからな!私が叱っておいたぞ?」
「なっ……」
今日はいつもの画鋲虐めがないと思ったら……二階堂の――いや、二階堂先輩のおかげだったのか!変人変人と思っていたけど、オレの噂を聞いても鵜呑みに……はしてるか。だ、だけど噂を聞いてもこうやって前みたいに接してくれる上に画鋲虐めを止めてくれるなんて……オレ、この人の後輩でよかった。
ははは!これで……ふははは!これで画鋲野郎に仕返しが出来る。
オレは満面の笑みを作り、二階堂先輩に訊ねた。
「ちなみその悪戯しようとしていた生徒が誰だか分かりますかね?」
「ふむ……?赤色のネクタイをしていたからな……二年生だろうな。名前までは知らないが――女子生徒だったぞ?大人しそうな子で……何やら手紙を手に持っていたな」
おい何してくれてんだよこのアマ。
おっと間違えた。二階堂先輩でしたね!うっかりうっかり……。
はいはい誰ですか?こんな先輩の後輩で良かったとか言ってた野郎。手紙片手に下駄箱の前にいたとか……それ悪戯じゃなくてラブレターとかそういうあれなんじゃないの?
いや、分かってる。その手紙には悪意のかたまりしかないという現実が待っていることくらい分かっている。
アルティメット嫌われているオレに告白なんてする奴がいるはずがない。そんな夢を抱くほど馬鹿じゃないが……それでもラブレター貰うという男の夢くらい見させて貰ってもいいんじゃないの?っていうオレの叫び声がどうかこのアマ――おっと間違えた――二階堂先輩に届け。
「む?どうしたのだ?何やら私を恨めしそうに……」
「いえ……なんでも。と、とりあえず僕……この後予定があるので失礼しますね」
「うむ!では、また明日!」
「は、ははは……」
オレはスタスタと二階堂先輩に背を向けて逃げるように校庭へと向かう。変人だが基本的にあの人……良い人なんだよな。周りがオレを責め立てるような状況だからか、今まで通りの二階堂先輩が――変わらず接してくれるからオレは嬉しく思ってしまった。
☆☆☆
「遅かったわね」
「お前が早すぎるんだよなぁ……」
オレと千石は校庭の端っこにこじんまりと集まっていた。校庭の広い部分を運動部が占領しているので使えるはずもなく……個人練習に使えるのは校庭端にある壁を、精々サッカーゴールに見立てることくらいしかできない。
オレは革靴から運動靴へ履き替え……千石はお昼に会った時と同じノリノリなサッカーのユニフォームで、しかもスパイクや脛当ても着けている。
ほ、本気だ……。
「さあ、早速始めるわ」
「へーい」
「まずはシュートしてみましょう。壁に向かって思いっきりボールを蹴るのよ!」
そう言って千石はオレの前にボールを置き、サッカーゴールに見立てた壁を……オレは眺め見た。その前には千石が仁王立ちしており、どんなシュートでも止めてみせるとでも言いたげな顔で仁王立ちしている。
とりあえずオレは言われた通りに思いっきりボールを蹴り飛ばし、ゴールの左下隅を狙ってボールは飛んでいく。千石は一足でボールが飛んだ方向へ走ると、オレのシュートを足で簡単に止めた。勢いの乗ったボールが跳ねずに完全停止した……。
「ふっ……」
「イラッ」
千石はどこか勝ち誇った様子でオレを鼻で笑いやがった。なるほどなるほど、どうやら今日までに二戦ほど……じゃんけんと『30』言ったらゲームでオレに負けた鬱憤を晴らすつもりらしい。
これは勝負のための特訓という名目で、単純に千石の憂さ晴らし。引いてはオレへの意趣返しが篭った……千石の個人的な――まあ、私情という奴である。
千石がそのつもりなら……オレも手段は選ばない。
千石からコロコロと転がされたボールを足で止めたオレは、ドヤ顔でオレに視線を送っている千石を冷めた目で見つめ……いつでも掛かってこいという千石にオレは言い放つ。
「揚羽ちゃん!」
「え」
オレは千石の名前を叫び、急に名前を呼ばれたこと驚いた千石の動きが固まったのを見てオレはシュートを放つ。
それで反応が遅れた千石は右隅に放ったオレのシュートを止められず……ボールは壁に当たって跳ね返って再びオレのところまでコロコロ戻ってきた。
「ふ……ふはははは!どうだ!揚羽ちゃんよぉ?」
「っ!くっ……」
千石は再び名前で呼ばれて戸惑っていたが、それがオレの作戦だと気付いたのか悔しそうにしている。人間、名前の呼び方だけで緊張したり恥ずかしかったりするものだ。特に名前呼びな。千石でさえも、突然の名前呼びに頬を珠に染めている。
怒ってんのかな?
ふふふ……いいぞいいぞ。怒りはプレイに余計な力みを与えて動きを鈍くさせる。
「千葉……いえ、修太郎くん……」
と、オレが勝利を確信したところで千石側からの攻撃が返ってくる。オレは何処と無く恥ずかしくなってしまったが……場外戦術で負けたらオレに勝ち目がなくなってしまう。
「揚羽ちゃん」
今度はオレが切り返し、千石が顔を真っ赤にして剥きになって珍しく声を荒げて叫んだ。
「修太郎くん!」
こ、この……!
「揚羽ちゃん!」
「うっ……修太郎!」
「ぐっ……揚羽!」
「修太郎!!」
「揚羽!!」
それからオレと揚羽――間違えたオレと千石は、お互いに名前を叫び合いながら……誰から、「何やってるんだあのバカップル」と呟かれるまで言い合った。
あまりにも不毛で無益な戦いがひと段落つき……叫びすぎて乾いた喉を潤すためにオレと千石は近くの自動販売機まで来て飲み物を買い、ベンチで並んで座りながら買ったものを飲んでいた、
「無意味に時間を費やしたわ……」
「それな……」
「しゅ…………チビくんのせいね」
「おい千石さんよぉ?オレの名前を呼び掛けたのを誤魔化すために貶すのはやめようぜ?」
「言い掛けてないし、誤魔化してないわ」
「へいへい」
どうせ責めても負けることは目に見えているので、オレは早々に諦めて肩を竦めた。
千石は缶コーラを飲み、炭酸爆発に身を震えさせるとゆっくりと口を開いた。
「あなたは球威は足りていないけれど……さすがに器用ね。球種が多くて小賢しいわ」
「小賢しいってなぁ……」
せめて賢しいでいいだろ。頭がいらないんだよなぁ……。
「飲んだらさっさと特訓に付き合ってもらうからな」
「ええ、もちろんよ……うぷっ」
「…………」
千石は炭酸を飲んだせいかその後、動きが鈍くなっていた。それでも良い練習にはなったが……オレは意外と千石はバカなんじゃないかと思い始めた――今日この頃です。まる。
☆☆☆
特訓を終えてビッシリと汗を掻いたオレは寮に戻るなり服を脱いでシャワーを浴びた。身体中疲労感でいっぱいだが……妙な充実感はある。
前みたいに……他人に媚び売っていた頃に比べたら充実していて、楽しいとオレは感じているのかもしれない。
「…………」
オレは苦笑し、シャワーを浴び終えて身体を拭くと動き易い格好に着替え……狭いながらも部屋の中でリフティングの練習を始める。
別に、千石に指示されたとかではなく……もっとボールを上手く扱えるようにらなったらなという甘い考えの下……オレが自主的にやっていることでしかない。なんかよく分からないが、ジッして居られないのだ。
ここまで来ると……もはや病気かもしれないな。
オレはよしと気合いを入れると運動靴を履いて寮の外に出て、ボールを蹴りながら寮の近くを走り回った。
☆☆☆
特訓二日目。
昨夜、調子に乗りすぎたオレの身体は見事に筋肉痛となり……めちゃくちゃ身体が痛い。朝起きてからバッキバキの身体は引きずりながら、相変わらず面倒なゲラゲラ男子を軽くあしらって席に着いた。
授業中も眠くて仕方がなかったが、絶え間ない消しカス攻撃により眠ることはなかった。が、オレのイライラ度は尋常じゃなく溜まることとなる。
よし、あとで消しカスを投げてきた奴らの筆箱にゴミを詰めよう。
そんなこんなの波乱な毎日に平穏だったあの頃を思い出しながら辟易とするオレは、ようやくやってきた昼休みに万歳し、千石エリアへと急行する。
ふと……図書室へと向かう道中ですっかりオレのストーカーとなった一ヶ崎が向かい側から歩いてきており、オレと目があった。
どちらからともなく立ち止まり、何となく声を掛けるべきかと思案し……オレは頭を掻いて口を開く。
「よお」
「…………う、うん。よっす……」
おや?いつもキラキラとした笑顔が眩しくて鬱陶しい一ヶ崎が今日は妙に元気がないな。朝は例の四葉の件で今だに早起きなため、ストーキング中の一ヶ崎に会ってないが……何かあったのか?
いつもは意味が分からないくらい元気なのに、突然元気無さげにされるも気になってしまう……仕方ない。全然全く一ヶ崎とかどうでもいいが、このままだとオレが放課後の特訓に集中できないので訊ねてみよう。うん。
「元気ねぇみたいだが……どうかしたかよ。いつもみたいにキモいくらい元気な方がお前らしいだろ」
「うぅーっ!ヒドイ!いつもうちのことそんな風に思ってたの!?」
「まあな!」
「――ッ!シュウくんのバーカ!アンポンタン!童貞!」
「張っ倒すぞ」
この野郎、今言っちゃいけないこと言いやがった。
いくらなんでも健全な男子に童貞とか指差すのはどうかと思う。だからオレはそれを咎めるように一ヶ崎のコメカミを拳でゴリゴリした。
「いたーい!!女の子に手を挙げるなんてサイテイだよ!?」
「女の子として見られたいならちったぁ発育良くしろやぁ!」
「うわぁっそれセクハラ!!」
オレと一ヶ崎はやれ童貞がどうのだとか、発育がどうのだとかお互いに言い争い……最終的に不毛すぎると悟ったオレたちは肩で息しながら睨み合った。
「ま、前から思ってたんだけど……シュウくん、前と全然キャラ違うよね……そっちが本物なのー?」
「あ?あぁ……まあそうだが?」
何を今更……オレはそんなことを思いながらも頷いて答える。そういえば、この女……前にオレのせいだとかなんとか吠えていたような気がするのだが……あれは一体どういう意味なのだろうか……。
オレはそれについて問おうと思ったが一度頭を振り、再度一ヶ崎に訊ねた。
「で?なんか今更だが……結局何があったんだ?悩みがあるなら聞いてやるよ。その後、皆に言いふらしてやるからさ」
「言いふらしちゃうの!?…………うぅ、でもシュウくん言いふらす友達とか今いないでしょー?」
「…………」
はい。そうです。友達いないです。
「うち、ずっとシュウくんのこと見てて分かったよ?あれでしょー?女の子に裸で襲い掛かったとか噂で聞いたよ?なーにやっちゃってるのかなぁ〜ってうち思ってたよ〜」
「まあストーキングしてりゃ……は?」
オレは何やら聞き捨てならない言葉を聞いた気がして頭上にハテナを浮かべた。
苦笑いしながら言っている一ヶ崎を見る限り、どうやらことの発端というか……本当に詳しいことは知らないようだ。噂……噂と思い出し、オレはそういえば二階堂先輩もそうだが一ヶ崎の奴も締め切りとやらが近いと言って慌てていたことを思い出した。
「なぁ、お前中間テストの二週間前ってなにやってた?」
「ふぇ〜?うぅ……あの時はイラストの締め切りがあってぇ缶詰めしてたかな〜。おかけでテストは散々に……シクシク」
「…………」
あ、あぁ〜そうなの……あの弾劾を知らない。二階堂文と一ヶ崎色葉は、あの場で起こったことを詳しく知らないのだ。そして、オレがあの場で二人に暴言を吐いたこともバレていないようだ。
そうなると、どうやって百夜の奴……裸云々と割と事実的な証拠を手に入れやがった?それにもう一つ気になるのは、オレのぼっち確定イベントに関わらないことで一ヶ崎はオレのことをずっとストーキングしていることになるのだが……こいつ、何がしたいんだ?
オレが一ヶ崎を半眼で見ているからか、一ヶ崎は少し居心地悪そうにしていた。が、そんなことはどうでもいい。
オレは一ヶ崎の両肩をガッシリ掴み、訊いた。
「おい。お前、なんでオレのこと付けてんだ?」
ギャルギャルグループとゲラゲラ男子を掻い潜ってスタスタと下駄箱までやって来ると……人が倒れていた。一瞬、オレは物凄く驚いて頬を引きつらせたのだが……よく見たら変人の二階堂文が倒れていた。
暫く見ないと思っていたが、まだホームルームが終わって直ぐである。こんなにも早く下駄箱で力なく倒れているとは一体この女は何をやっているのだろうか。しかし、もはやオレに関係のあることでもないだろう。
オレは素通りしようと革靴に履き替えて――今日は珍しく画鋲がなかった――玄関口を出ようと……したところで足を二階堂がガッシリと掴んできた。
「待ちたまえ。少年」
「離せ」
うつ伏せで見えないはずなのにどうしてオレだと分かるのかこの女の子。やはり、変人だ。
 
チラッと尻目に二階堂を見ると、ムギュウっと大きなパイの実がうつ伏せにいるおかけで柔らかそうに潰れていた。
ははは。今更、このオレがその程度で誘惑にされるとでも?日々、完璧超人たる千石の誘惑を耐えるこのオレを誘惑できると思うなよ?
「少年。待って欲しい……」
「なんでしょうか」
オレはササッ二階堂先輩の近くに屈み込む。相変わらず足は掴まれてるけど……え?なになに?どうして話を聞く体勢なのかって?そりゃあ、おっ(ry
二階堂先輩はいつものようにオレの足を解放すると仰向けになり、プルンっと双丘を弾ませた。弾ませたってなんだよ……。
「少年……先輩として少年にしっかりと言わなければならないことがある……」
「はい?なんですか?」
「うむ……私が聞いた話をによれば、少年は女子生徒に裸で襲いかかり、剰え関係を迫ったと聞いたぞ?」
おいちょっと待て。
「よくないぞ!男子たるもの女を守るべきだぞ?」
「えぇ……」
その話めっちゃ今更な上に、事実無根なんですけど……。というか、裸で云々の件はむしろ二階堂と一ヶ崎のせいじゃねぇか!なんでオレが悪いみたいになってんの?
そこでオレは、そういえば今二階堂は『聞いた話』と口走っていた。つまり、今日に至るまで二階堂の耳には学校に蔓延するオレの武勇伝が伝わっていなかったということになる。
「二階堂先輩」
「ふむ?なんだ?」
「今日までどこで何してたんですか?」
「小説の原稿の締め切りが近かったので缶詰めしていたぞ?寮でな!」
「…………そ、それで今日まで休んでいたんですか?」
「いやいやぁ〜さすがに副業だけじゃそこまで休まんよ。缶詰めしてた時に生活が杜撰になってしまってな……おかげで体調を崩して何週間も休んでいたということさ」
なるほど……それでオレの武勇伝を今の今まで知らなかったのか……。しかし、たしか百夜の野郎に弾劾された時に二階堂先輩の胸を舐め回すように見ていたという割と事実的な証言があった。あれは間違いなく二階堂先輩が言ったものだろうが……とはいえ、一概に二階堂先輩のせいでオレがこんな状況に追い込まれているとは言えないか……。
「全く……少年も男だから仕方がないが欲情しても、襲い掛かるのはよくないぞ?少年は私のおっぱいを舐め回すようには見るが、襲い掛かったことはないだろう?その精神力を大事にすべきだぞ?」
「は、はぁ……なるほど?」
「あぁ!それと、君の靴に何やら悪戯しようとしていた輩がいたからな!私が叱っておいたぞ?」
「なっ……」
今日はいつもの画鋲虐めがないと思ったら……二階堂の――いや、二階堂先輩のおかげだったのか!変人変人と思っていたけど、オレの噂を聞いても鵜呑みに……はしてるか。だ、だけど噂を聞いてもこうやって前みたいに接してくれる上に画鋲虐めを止めてくれるなんて……オレ、この人の後輩でよかった。
ははは!これで……ふははは!これで画鋲野郎に仕返しが出来る。
オレは満面の笑みを作り、二階堂先輩に訊ねた。
「ちなみその悪戯しようとしていた生徒が誰だか分かりますかね?」
「ふむ……?赤色のネクタイをしていたからな……二年生だろうな。名前までは知らないが――女子生徒だったぞ?大人しそうな子で……何やら手紙を手に持っていたな」
おい何してくれてんだよこのアマ。
おっと間違えた。二階堂先輩でしたね!うっかりうっかり……。
はいはい誰ですか?こんな先輩の後輩で良かったとか言ってた野郎。手紙片手に下駄箱の前にいたとか……それ悪戯じゃなくてラブレターとかそういうあれなんじゃないの?
いや、分かってる。その手紙には悪意のかたまりしかないという現実が待っていることくらい分かっている。
アルティメット嫌われているオレに告白なんてする奴がいるはずがない。そんな夢を抱くほど馬鹿じゃないが……それでもラブレター貰うという男の夢くらい見させて貰ってもいいんじゃないの?っていうオレの叫び声がどうかこのアマ――おっと間違えた――二階堂先輩に届け。
「む?どうしたのだ?何やら私を恨めしそうに……」
「いえ……なんでも。と、とりあえず僕……この後予定があるので失礼しますね」
「うむ!では、また明日!」
「は、ははは……」
オレはスタスタと二階堂先輩に背を向けて逃げるように校庭へと向かう。変人だが基本的にあの人……良い人なんだよな。周りがオレを責め立てるような状況だからか、今まで通りの二階堂先輩が――変わらず接してくれるからオレは嬉しく思ってしまった。
☆☆☆
「遅かったわね」
「お前が早すぎるんだよなぁ……」
オレと千石は校庭の端っこにこじんまりと集まっていた。校庭の広い部分を運動部が占領しているので使えるはずもなく……個人練習に使えるのは校庭端にある壁を、精々サッカーゴールに見立てることくらいしかできない。
オレは革靴から運動靴へ履き替え……千石はお昼に会った時と同じノリノリなサッカーのユニフォームで、しかもスパイクや脛当ても着けている。
ほ、本気だ……。
「さあ、早速始めるわ」
「へーい」
「まずはシュートしてみましょう。壁に向かって思いっきりボールを蹴るのよ!」
そう言って千石はオレの前にボールを置き、サッカーゴールに見立てた壁を……オレは眺め見た。その前には千石が仁王立ちしており、どんなシュートでも止めてみせるとでも言いたげな顔で仁王立ちしている。
とりあえずオレは言われた通りに思いっきりボールを蹴り飛ばし、ゴールの左下隅を狙ってボールは飛んでいく。千石は一足でボールが飛んだ方向へ走ると、オレのシュートを足で簡単に止めた。勢いの乗ったボールが跳ねずに完全停止した……。
「ふっ……」
「イラッ」
千石はどこか勝ち誇った様子でオレを鼻で笑いやがった。なるほどなるほど、どうやら今日までに二戦ほど……じゃんけんと『30』言ったらゲームでオレに負けた鬱憤を晴らすつもりらしい。
これは勝負のための特訓という名目で、単純に千石の憂さ晴らし。引いてはオレへの意趣返しが篭った……千石の個人的な――まあ、私情という奴である。
千石がそのつもりなら……オレも手段は選ばない。
千石からコロコロと転がされたボールを足で止めたオレは、ドヤ顔でオレに視線を送っている千石を冷めた目で見つめ……いつでも掛かってこいという千石にオレは言い放つ。
「揚羽ちゃん!」
「え」
オレは千石の名前を叫び、急に名前を呼ばれたこと驚いた千石の動きが固まったのを見てオレはシュートを放つ。
それで反応が遅れた千石は右隅に放ったオレのシュートを止められず……ボールは壁に当たって跳ね返って再びオレのところまでコロコロ戻ってきた。
「ふ……ふはははは!どうだ!揚羽ちゃんよぉ?」
「っ!くっ……」
千石は再び名前で呼ばれて戸惑っていたが、それがオレの作戦だと気付いたのか悔しそうにしている。人間、名前の呼び方だけで緊張したり恥ずかしかったりするものだ。特に名前呼びな。千石でさえも、突然の名前呼びに頬を珠に染めている。
怒ってんのかな?
ふふふ……いいぞいいぞ。怒りはプレイに余計な力みを与えて動きを鈍くさせる。
「千葉……いえ、修太郎くん……」
と、オレが勝利を確信したところで千石側からの攻撃が返ってくる。オレは何処と無く恥ずかしくなってしまったが……場外戦術で負けたらオレに勝ち目がなくなってしまう。
「揚羽ちゃん」
今度はオレが切り返し、千石が顔を真っ赤にして剥きになって珍しく声を荒げて叫んだ。
「修太郎くん!」
こ、この……!
「揚羽ちゃん!」
「うっ……修太郎!」
「ぐっ……揚羽!」
「修太郎!!」
「揚羽!!」
それからオレと揚羽――間違えたオレと千石は、お互いに名前を叫び合いながら……誰から、「何やってるんだあのバカップル」と呟かれるまで言い合った。
あまりにも不毛で無益な戦いがひと段落つき……叫びすぎて乾いた喉を潤すためにオレと千石は近くの自動販売機まで来て飲み物を買い、ベンチで並んで座りながら買ったものを飲んでいた、
「無意味に時間を費やしたわ……」
「それな……」
「しゅ…………チビくんのせいね」
「おい千石さんよぉ?オレの名前を呼び掛けたのを誤魔化すために貶すのはやめようぜ?」
「言い掛けてないし、誤魔化してないわ」
「へいへい」
どうせ責めても負けることは目に見えているので、オレは早々に諦めて肩を竦めた。
千石は缶コーラを飲み、炭酸爆発に身を震えさせるとゆっくりと口を開いた。
「あなたは球威は足りていないけれど……さすがに器用ね。球種が多くて小賢しいわ」
「小賢しいってなぁ……」
せめて賢しいでいいだろ。頭がいらないんだよなぁ……。
「飲んだらさっさと特訓に付き合ってもらうからな」
「ええ、もちろんよ……うぷっ」
「…………」
千石は炭酸を飲んだせいかその後、動きが鈍くなっていた。それでも良い練習にはなったが……オレは意外と千石はバカなんじゃないかと思い始めた――今日この頃です。まる。
☆☆☆
特訓を終えてビッシリと汗を掻いたオレは寮に戻るなり服を脱いでシャワーを浴びた。身体中疲労感でいっぱいだが……妙な充実感はある。
前みたいに……他人に媚び売っていた頃に比べたら充実していて、楽しいとオレは感じているのかもしれない。
「…………」
オレは苦笑し、シャワーを浴び終えて身体を拭くと動き易い格好に着替え……狭いながらも部屋の中でリフティングの練習を始める。
別に、千石に指示されたとかではなく……もっとボールを上手く扱えるようにらなったらなという甘い考えの下……オレが自主的にやっていることでしかない。なんかよく分からないが、ジッして居られないのだ。
ここまで来ると……もはや病気かもしれないな。
オレはよしと気合いを入れると運動靴を履いて寮の外に出て、ボールを蹴りながら寮の近くを走り回った。
☆☆☆
特訓二日目。
昨夜、調子に乗りすぎたオレの身体は見事に筋肉痛となり……めちゃくちゃ身体が痛い。朝起きてからバッキバキの身体は引きずりながら、相変わらず面倒なゲラゲラ男子を軽くあしらって席に着いた。
授業中も眠くて仕方がなかったが、絶え間ない消しカス攻撃により眠ることはなかった。が、オレのイライラ度は尋常じゃなく溜まることとなる。
よし、あとで消しカスを投げてきた奴らの筆箱にゴミを詰めよう。
そんなこんなの波乱な毎日に平穏だったあの頃を思い出しながら辟易とするオレは、ようやくやってきた昼休みに万歳し、千石エリアへと急行する。
ふと……図書室へと向かう道中ですっかりオレのストーカーとなった一ヶ崎が向かい側から歩いてきており、オレと目があった。
どちらからともなく立ち止まり、何となく声を掛けるべきかと思案し……オレは頭を掻いて口を開く。
「よお」
「…………う、うん。よっす……」
おや?いつもキラキラとした笑顔が眩しくて鬱陶しい一ヶ崎が今日は妙に元気がないな。朝は例の四葉の件で今だに早起きなため、ストーキング中の一ヶ崎に会ってないが……何かあったのか?
いつもは意味が分からないくらい元気なのに、突然元気無さげにされるも気になってしまう……仕方ない。全然全く一ヶ崎とかどうでもいいが、このままだとオレが放課後の特訓に集中できないので訊ねてみよう。うん。
「元気ねぇみたいだが……どうかしたかよ。いつもみたいにキモいくらい元気な方がお前らしいだろ」
「うぅーっ!ヒドイ!いつもうちのことそんな風に思ってたの!?」
「まあな!」
「――ッ!シュウくんのバーカ!アンポンタン!童貞!」
「張っ倒すぞ」
この野郎、今言っちゃいけないこと言いやがった。
いくらなんでも健全な男子に童貞とか指差すのはどうかと思う。だからオレはそれを咎めるように一ヶ崎のコメカミを拳でゴリゴリした。
「いたーい!!女の子に手を挙げるなんてサイテイだよ!?」
「女の子として見られたいならちったぁ発育良くしろやぁ!」
「うわぁっそれセクハラ!!」
オレと一ヶ崎はやれ童貞がどうのだとか、発育がどうのだとかお互いに言い争い……最終的に不毛すぎると悟ったオレたちは肩で息しながら睨み合った。
「ま、前から思ってたんだけど……シュウくん、前と全然キャラ違うよね……そっちが本物なのー?」
「あ?あぁ……まあそうだが?」
何を今更……オレはそんなことを思いながらも頷いて答える。そういえば、この女……前にオレのせいだとかなんとか吠えていたような気がするのだが……あれは一体どういう意味なのだろうか……。
オレはそれについて問おうと思ったが一度頭を振り、再度一ヶ崎に訊ねた。
「で?なんか今更だが……結局何があったんだ?悩みがあるなら聞いてやるよ。その後、皆に言いふらしてやるからさ」
「言いふらしちゃうの!?…………うぅ、でもシュウくん言いふらす友達とか今いないでしょー?」
「…………」
はい。そうです。友達いないです。
「うち、ずっとシュウくんのこと見てて分かったよ?あれでしょー?女の子に裸で襲い掛かったとか噂で聞いたよ?なーにやっちゃってるのかなぁ〜ってうち思ってたよ〜」
「まあストーキングしてりゃ……は?」
オレは何やら聞き捨てならない言葉を聞いた気がして頭上にハテナを浮かべた。
苦笑いしながら言っている一ヶ崎を見る限り、どうやらことの発端というか……本当に詳しいことは知らないようだ。噂……噂と思い出し、オレはそういえば二階堂先輩もそうだが一ヶ崎の奴も締め切りとやらが近いと言って慌てていたことを思い出した。
「なぁ、お前中間テストの二週間前ってなにやってた?」
「ふぇ〜?うぅ……あの時はイラストの締め切りがあってぇ缶詰めしてたかな〜。おかけでテストは散々に……シクシク」
「…………」
あ、あぁ〜そうなの……あの弾劾を知らない。二階堂文と一ヶ崎色葉は、あの場で起こったことを詳しく知らないのだ。そして、オレがあの場で二人に暴言を吐いたこともバレていないようだ。
そうなると、どうやって百夜の奴……裸云々と割と事実的な証拠を手に入れやがった?それにもう一つ気になるのは、オレのぼっち確定イベントに関わらないことで一ヶ崎はオレのことをずっとストーキングしていることになるのだが……こいつ、何がしたいんだ?
オレが一ヶ崎を半眼で見ているからか、一ヶ崎は少し居心地悪そうにしていた。が、そんなことはどうでもいい。
オレは一ヶ崎の両肩をガッシリ掴み、訊いた。
「おい。お前、なんでオレのこと付けてんだ?」
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