記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第46話 幕間:剣豪士郎



フソウの領主徳川家の屋敷、その廊下を水鏡神社でアズラエルと共に戦った剣豪、士郎が12歳前後の少女を連れて歩いている。


鎖帷子に黒装束、黒い髪を右側サイドテールに髪を纏めた眠たそうな表情の少女だった。



「しっかし、でかいわー。確か、ダイミョウとかいう領主なんだっけ? ……葵って、すっげぇ偉かったんだな」
「いえ? 本来なら、こんな地位にいませんよ?」


士郎が屋敷内をきょろきょろしながら呟くと、傍にいた眠そうな表情の少女が淡々と返答する。


「へ? マジで?」
「元々葵様は地位の低い妾の子供で、領主どころか徳川の名も名乗ることを許されませんでした。ただ、一目ぼれした黒姫様との子供のころに交わした夫婦になる約束を守るためにお家を乗っ取り、反対する勢力をすべて全部相対戦……代表者同士の勝負で打ち倒したんです」


淡々とした口調で士郎の雇い主である徳川葵のことを喋る少女。


「あの人自身は剣も何もかもが人並み以下……なのにあの人の周囲に集まった友人は、皆、一騎当千。……結局、相対戦で征夷大将軍であった織田信忠に気に入られてフソウの大領主に推薦された訳です。本当、下克上の権化のような人ですよ」
「……やっぱ、すげーな、葵は」


少女の説明を聞いて士郎は感嘆の声を漏らす。


「……そうでしょうか? すごいのは、周囲に集まった一騎当千では? あの人は、ただ他人に託しただけの博打打ちだと思いますが」
「じゃあ、ユキカゼちゃん、俺のために命かけてくれる?」
「死んでも嫌です」


士郎が漏らす感想にユキカゼと呼ばれた少女は疑惑の声を漏らす。
士郎が軽薄な笑みを浮かべて自分のために命かけれるかというと、ユキカゼは汚物を見るような冷めた目で拒絶の言葉を即答する。


「な、そうなるだろ? でも葵はそれをやり遂げたんだぜ?」
「ですから―――」
「逆に聞くけど、ユキカゼちゃん、俺のために戦える?」
「………」


士郎の言っていることが理解できないのか、ユキカゼは語気を強くして再度説明しようとする。
それを遮るように士郎は俺のために戦えるかと問う。
ユキカゼは意味が分からないといった表情で士郎を見上げた。


「うん、君にはこっちの方がわかりやすいね。  君は、自分が積み重ねた武を、ただの友人のために使える? むしろ、理解してるからこそこう思うんじゃないか? 馬鹿な真似は止めとけよってさ」
「当然ですね、武人としても友人としても馬鹿はやらせられません」


士郎が出した例題を聞いて、ユキカゼは何を当たり前のことをといった表情で応える。


「一騎当千の武人にさ? こいつのために命を賭けてやろうなんてそう思わせるのは、普通じゃない。ましてや、君主でも権力相手でもなく、だ。そいつらも気分良かったと思うぜ? こいつのためになら、培った武を使っていい、あるいは、今日、この時のために自分は武の道を歩んできたんだ……ああ、そう思えたら一生最高の気分だろ、武人的に考えて」
「……その価値が、葵様にはあると?」


そう語る士郎の顔はすがすがしかった。自分自身武に身を置いてる。そんな自分が命をかけてもいいと思う相手の為に剣を振れたら最高だろうとおもった。
その士郎の説明を聞いて、ユキカゼは戸惑ったように徳川葵にその価値があるのか士郎に問う。


「さぁ? でも、そう思った奴等が居た。だから、葵の今がある。そう考えたら、俺なんかにゃあスゲーって言うしかないのさ」
「これからお前の仕える相手はそういう奴だから安心しろよ、ユキカゼちゃん……などと、言いたいのですか?」


ユキカゼは御庭番という役職として徳川葵に仕える予定だった。
だがユキカゼは葵を軽んじ、その役職に不満を持っていた。
そんな心を士郎に見透かされたのか、イラついた口調で士郎に問う。


「いやいやー、単なる一般論ですよー、ユキカゼちゃんがこれを聞いてどう思うかー……そこまでは、俺にはさっぱりっすわ」


(判断の難しい人ですね……)


飄々とした感じでお茶を濁すように言う士郎を見てユキカゼは士郎の人となりの判断に困る。


「あ、ユキカゼちゃん、おトイレどこ? ここ、もう無駄に広くってさー」
「……向こうの看板の案内に従ってください」


突如トイレの場所を聞く士郎の態度にユキカゼは脱力しそうになりながら、看板を指さす。



「えー、案内して――すみません、汚物を見る目はご勘弁を」
「はい、急いでいって戻ってきてください」


ふざけた様子で士郎がトイレまで案内してというとユキカゼは心底侮蔑を込めて汚物を見るような視線を士郎に向ける。
士郎は慌てて謝罪すると小走りにトイレへと向かった。



「……で? 何の用っすか?」
「何、一つ礼を言おうと思ってな? 不肖の弟子の迷いを、わずかながら拭ってくれたことに」


しばし歩いてユキカゼから十分に離れたことを確認すると士郎は誰もいない廊下に向かって話しかける。
誰もいないと思った場所、空間が揺らいだかと思うと銀色のお面を被った黒装束の人物が現れた。


「いやいやいや! あくまで、世間話の一環っすよ!」
「……それが、お前の『間合い』か?」


士郎は飄々とした顔で手を振って、先ほどのユキカゼとの会話は世話話だとごまかす。


「奇妙な男だ、お前は。懐に誰でも受け入れるくせに、必要以上に踏み込まない。自分から踏み込んでおきながら、相手が動こうとすると退く。さて、どういう経緯でそんな歪んだ――……わかったわかった、睨むな。そういうところは、年相応だな」


仮面の男が顎に手を当てて士郎の人物像を見ようとすると、士郎は殺気のこもった視線で仮面の男を睨む。


「で? お話がそんだけなら、もういいっすか? あんま待たせるとユキカゼちゃんにンコしてたと思われ――」
「どうせ、時間を潰してそう思わせようとしてたろうに……睨むな、すぐに終わる。卜伝の翁は、ご健勝か?」


士郎はイライラした様子で仮面の男に話しかけ、仮面の男はからかうように答えると、士郎が睨む。


「……どういった、ご関係で?」
「なんとなく面影があると思って声をかけたが……やはり、関係者か。いや、昔、仕事で一緒になった事があってな。……気持ちの良い御仁だった、だから気にかかった。嘘偽りなく、それだけだ」


仮面の男がある人物の名前を出すと士郎は緊張した面持ちになる。
仮面の男が片手をあげて他意がないことを伝えると、どういった関係か士郎に伝えた。


「……祖父は、四年前に亡くなりました。達人も、病気には勝てないんだなって思いましたよ」


祖父が病で亡くなったことを伝える士郎。士郎は無意識に拳を握り、祖父が病気で亡くなった時、何もできなかったことを悔しがっていた。


「そうか、お悔やみもうす。……で? 塚原士郎、お前は何故フソウに来た?」
「 あー……まぁ、不肖の孫で弟子なりに、爺ちゃんの跡を継ごうと……その修行の旅の途中っす……」
「――そうか……すまない事を聞いた。アレには、少し言い含めておこう。だから、普段通りに繕える程度になってから戻ってやれ」


仮面の男がフソウに来た理由を聞けば、士郎は武者修行の為だと答える。
その答えに仮面の男は満足したのか、姿が消えて声だけが廊下に響き、気配すらなくなった。


「……トイレどこだよ、ちくしょう」


士郎はそう呟くと眺めの深呼吸を繰り返して精神を落ち着かせると、ユキカゼの元へ戻った。

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