記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第43話 エリザベートの告白



「ふう……」



夕食後、チャンスは夜の玉守神社の境内を散歩していた。

「…………エリザベートさん?」


境内の片隅で月を見上げていたエリザベートに気づくと、チャンスは声をかける。


「っ! もう、起きて大丈夫なんですか? チャンスさん」
「あ、はい……」


チャンスが声をかけると、エリザベートはびくっと震え、ゆっくりと振り向く。その表情は無理して笑みを作り、震える声でチャンスの体調を気遣う。


「そうですか、よかったです。……膝から、完全に崩れて起きないから、心配したんですよ? えっと……何か、みっともないところを見せちゃって、すみません。結局、チャンスさんがいなくちゃ――」
「……そんな、無理して笑わなくていいんですよ?」


チャンスの体調を気遣う様に話し続けるエリザベートを見て、チャンスは短く無理をしないでと述べる。


「あ、と……そう、見えます?」
「僕がもっと、大人なら……見過ごしてて、多分、子供のままなら、見逃してたと思います」


チャンスに無理して笑うなと言われたエリザベートはごまかそうとするが、言い訳の言葉が思い浮かばなかったのか、苦笑する。


「エリザベートさんは、あの吸血鬼と関係あるんですか? 初めてであった時に聞いたコレリアから来たというのも?」
「……はい、そうです」


チャンスが真祖吸血鬼エルダ・ヴァンパイアのマー・ヘイロンとエリザベートの関係を聞く。
エリザベートは月を見上げながら、チャンスの質問に肯定の返事を返す。


「私は、元はコレリアにあるの小さな村の教会にいたシスターでした。小さくて貧しくて……でも、みんなで助け合っていた。今思えば、とてもいい村でした」


エリザベートはぽつりぽつりと故郷の話をする。その瞳は月を見つめているようで思い出の中の故郷を見ているようだった。


「そこにふらりとあいつが姿を現わし……村は、滅びました」


エリザベートは村が滅んだ日を思い出したのか、拳を握り締め、その瞳には憎しみの炎が宿る。


「荒唐無稽でしょう? 小さくても、村がですよ? たったの一晩、いえ、一瞬で終わった。あいつが、一人の血を吸っただけで……後は、グールの群れの出来上がりです」


エリザベートは惨劇の日の出来事を語りながら、チャンスから顔をそむける。
憎しみ、怒り、悲しみ、恐怖、様々な感情の入り乱れた顔を見られたくないからだ。


「老いも若きも関係ありませんでした。グールは思う様に村を蹂躙し――村の生き残りは、一人もいません」
「…………」


生き残りはいない……振り向いてそう語るエリザベートの頬には涙を流した跡があった。


「ここにあるのは、復讐を誓った残骸です。素質があったから、奴に血を吸われ、こうして、吸血鬼になれましたが」


そういうと、エリザベートの影から血液の塊が噴き出し、赤黒い血液の色をした手甲と具足に変形して固まる。


「自分が朽ちぬために、村人の血を吸って生き延びておきながら……結果、あのていたらくですからね、お笑いです。戦い方なんて、最初碌に知らなかったんですよ? でも、奴に与えられた吸血鬼の力は凄まじかった。クロトシュタット様に改宗して、化け物退治の術を手に入れて、あいつを滅ぼすために冒険者になった……でも、まがい物の、借り物の力で、アレに勝てるはずもないですね」


エリザベートはぽろぽろと涙を零しながら自嘲気味に笑う。


「…………僕のアレだって、自分の力じゃないかもしれないですよ……?」
「でも、最後に立ち塞がってくれたのは……ボロボロになっても諦めなかったあなたでしたよ」


チャンスが苦笑しながら、マー・ヘイロンを撃退した力も借り物かもしれないという。だが、エリザベートはその言葉を否定する。


チャンスの持つ力が何なのかは知らない。使いすぎて力を失っても、剣が折れても、ボロボロになっても、護る為に立ち上がってくれたのは、まぎれもなくチャンス自身の意思と力だった。


エリザベートはその時のことを思い出して胸が熱くなる。
仲間に手を出すなとチャンスは叫んでくれた。その言葉がずっとエリザベートの耳に響いている。



「とにかく、あいつがエリザベートさんの村の仇で、皆の危険になるって言うなら、僕も戦います」
「……チャンスさん、それは……」


エリザベートにとっては唐突ともいえるチャンスの宣言。
エリザベートは戸惑いながら声を出す。


「一緒に旅をしてる仲間ですよ? ……それぐらい、させてくださいよ」
「えっと……私、吸血鬼で――」
「それがどうかしましたか? 僕達仲間でしょ?」


自分は吸血鬼、不死者アンデッドで呪われた存在だからと断りを入れようとするエリザベート。
だがチャンスはその言葉を言わせない。


「そ、その、結構、大きい理由だと……ほら、人間じゃ、な……」
「僕だって、人間じゃないかもしれませんよ? エリザベートさん、僕が人間じゃないかもしれない事、気にします?」
「え、あ、その……」


エリザベートは必死に拒絶の言葉を探す。何を言ってもチャンスは考えを変えず、エリザベートは自分を受け入れてくれることに喜びを感じていた。


「僕は、記憶がありません。ただ旅をしないといけないって思いだけで旅をしていました。だから……その道中で仲間の誰かの手助けしたっていいじゃないですか。というか、嫌だって言っても手伝いますからね」
「……チャンスさん、強引だったんですね。……じゃあ、すごくはしたないお願いしてもいいですか?」


何を言ってもチャンスは主張を変えそうにないことが分かると、エリザベートは大きくため息をついて諦める。
そして顔を赤くして恥ずかしそうにチャンスにお願いを申し出る。


「……内容によります」
「……そこは、強引なままでいいんですよ?」


エリザベートの急な態度の変化にチャンスは戸惑い、チャンスの及び腰な発言にエリザベートは苦笑する。


「……血を、いただいていいですか?」
「ええ、いいですよ」


真剣な表情でエリザベートはチャンスに血をわけろという。チャンスは逡巡することなく笑みを浮かべてエリザベートの願いを受け入れる。


「うう、あんまり聞かないでくださいね……?」


エリザベートはチャンスが即答したことに驚きながらも、顔を真っ赤にして近づく。
チャンスは自分の胸にエリザベートの柔らかい感触の直後、視界が真っ暗になった……見られたくないのか、エリザベートの手で視界を塞がれたようだ。


チャンスは首筋にエリザベートの吐息を感じるなと思うと、何かが刺さったようなチクッとする感触がした、と思ったら、寒気が来た。



「あ、ん……あ……んん……あ……チャンスさんの、熱くて、甘い……ん……」


エリザベートはチャンスの首筋に噛みつき、コクコクと喉を鳴らして血を吸い、甘美な喜びと、チャンスの血の味に酔いしれる。


「ずっと、ずっと、我慢して、たから……んは、ん……んんん……チャンスさん……んん、チャンスさぁん……んんん……」


エリザベートは涙を流し、チャンスにしがみつく。吸血鬼ヴァンパイアとなり冷たくなった自身の体をチャンスの体温で温めるように。
こんな自分を笑顔で受け入れてくれるチャンスという存在が幻でないことを確かめるように強く、強く抱きしめた。


「はぁ……んぐ、んん、んんん……んん。チャンスさんが、優しくするのが、いけないんです……はぁ……」


エリザベートがチャンスの首筋から口を離すと、美酒に酔いしれたように頬を赤く染め、とろけた表情で余韻に浸っている。


「……ごちそうさまでした」
「お……おそまつさまでした?」


最後の一滴も味わう様に飲み込んで、エリザベートは何か言おうと必死に考えて、出てきた言葉がごちそうさまだった。
チャンスも戸惑いながら答えて、何、このやり取り?と心の中で冷静なツッコミを入れていた。


「こ、こう、吸血鬼の、吸血にも、色々あるようで……わ、たしは、どうも、ソッチの方で、その……これからも一緒に旅をして、血をくださいますか?」
「ま、まぁ……僕で、よければ……?」


エリザベートは顔を真っ赤にしてしどろもどろに言い訳しながら今後も血の提供をチャンスに求める。
チャンスはエリザベートがなぜ赤くなっているのか理解できず、自分の血でいいならと提供を快く受け入れる。


この時チャンスは知らなかったが、吸血鬼の食事や眷属を作る以外の吸血行為には求愛や性交の意味を持つ。
そう、チャンスは無意識にエリザベートの求愛を受け入れてしまったのである。


「あ、その……もう、チャンスさんからしか吸わないって決めたので、いなくならないでくださいね……?」


エリザベートはそれだけ伝えるとチャンスを置いて社へと走って戻っていった。
チャンスもしばし呆然とした後、噛まれた首筋を触って傷を確認した後、社へと戻った。


この時チャンスは知らなかったが、吸血鬼の食事や眷属を作る以外の吸血行為には求愛や性交の意味を持つ。
チャンスは知らないとはいえ、エリザベートの求愛を受け入れてしまったのである。



(あ、れ、なんで……?)


偶然近くを通りかかったユイが、チャンスとエリザベートの一部始終を目撃していた。


(な、んで、私……こんな……?)


エリザベートがチャンスの首筋に口づけをしていたのを見て、ユイはなぜかショックを受けて胸の奥が痛かった。
二人が立ち去った後もユイは胸の奥の痛みの理由がわからず立ち尽くしていた。

          

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