記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第34話 水鏡の社



「吉比姫が言うには、主らは報酬と引き換えに厄介事を解決する冒険者なるものと聞いておる。少々わらわの依頼を引き受けてくれんかえ?」
「依頼……ですか?」


メイリュウ神社に宿泊した翌日、チャンス達は朝餉の席で神社の主を名乗る白蛇という女性から仕事を依頼される。


「うむ、メイリュウ神社の分家筋である水鏡の家、玉守の家の社にて厄介事が起きておる。本来ならわらわ達が向かうのじゃが、アメノハバキリの奉納の儀を執り行わねばならぬ。故にお主らに頼みたい」


白蛇は胡坐をかいて瓢箪から直接ラッパ飲みで酒を飲みながら事情を話す。


「もちろん引き受けぎっ!?」
「どういった厄介事か聞かせてもらわないと、引き受けられないよ」


チャンスが詳しい内容も聞かずに引き受けようとして、マトイがチャンスのおしりをつねって黙らせる。


「カカッ、尻に惹かれとるのぉ。水鏡の社ではの、神主が行方不明になっており世話役から助けを求められておる」


マトイにおしりをつねられ、悲鳴を上げ崩れるチャンスを見ながら白蛇は一つ目の社で起きている厄介事を説明する。


「心当たりは?」
「水鏡の社は山を神に見立てて信仰しておっての、神主は修行と称して山に籠る。おそらくはその山で何かあったのであろうな。世話役は様子を見に行こうにも山には肉食な野生動物や亜竜が多数生息しており、護衛を求めておる」


ユイが行方不明になった神主について聞けば、白蛇は大まかな情報を伝える。


「いつつ……もう一つの玉守神社という所では何が起きてるのです」
「マガタマという神器を奉納している祠付近で怪物の目撃が相次いでおる。場を清める儀式を執り行いたいが、玉守の神主も荒事は苦手でな。こちらも護衛を求めておる」


チャンスはおしりをさすりながら玉守神社で起きてる厄介事について聞く。


「どちらも護衛を求めているのですか……富貴と吉比姫は?」
「悪いがハバキリの護衛で回せん」


チャンスが富貴達の助力を求めようとしたが、白蛇に断られてしまう。


「報酬は?」
「金銭なら腐るほどある。あと、チャンスとやら、お主は記憶を失ってると聞いた。わらわの術には失った記憶を取り戻すものもある。それも報酬として払おう、どうじゃ?」
「っ!?」


マトイが報酬内容を聞くと白蛇は金銭とそして、チャンスの記憶を取り戻すといった。
記憶を取り戻せるといわれてチャンスは息を呑む、マトイ達もチャンスの方を見つめる。


「困ってる人がいるなら僕は受けます」
「頼んだぞ?」


チャンスが依頼を引き受けると伝えると、白蛇は笑みを浮かべて頷く。




白蛇の依頼を受けたチャンス達一行は二手に分かれてそれぞれの社へと向かった。


「変わった畑が多いわね」
「田んぼと呼ばれるものでコメと呼ばれる東大陸の主食となる農作物を育てているそうです」


ユイと式神の娘アズラエルの二人は行方不明になった神主捜索のために山河の社へと向かう。
道中水の張った畑風景を見てユイが呟き、アズラエルが田んぼについて知識を披露する。


「そんな知識、どこで身につけたの?」
「吉比姫殿からスオウについて色々お聞きしました」
「へぇ……」
(私たちよりか、アズラエルに気を許してるのね、あの子)


いつの間にかアズラエルが吉比姫と仲良くなっていたことに驚いた。
アズラエルは吉比姫から何を教えてもらったのか嬉しそうにユイに伝え、生き生きとした笑みを見せる。


「さ、そろそろ依頼主のところに着くわよ? 気持ちを入れ替えて頑張りましょう」
「はいっ! 母上!!」


田畑を抜けて山の入り口にある山河神社の社へと向かうユイ達。


「すみません、メイリュウ神社からの依頼を受けた冒険者ですが」
「はい、ただいひゃあ!?」
「ふ、ふえ!?」


ユイが社に向かって大声で人を呼べば、社の奥から幼い少女の声で返事が聞こえ、バタバタと足音を立ててやってくる。
やってきたのは白髪の狐の耳が生えた幼女。アズラエルを見た瞬間悲鳴を上げてふすまの奥に隠れて、ちょこんと顔をのぞかせる。
アズラエルは自分の姿を見て急に悲鳴を上げて怯える狐耳の少女を見て戸惑う。


「な、何故、このような式神が!? は!? まさか、どこかの術者が!?」
「え、ああ、その説明はするけど、味方よ?」


アズラエルを見た狐耳の幼女はグルルと威嚇するような声を上げて警戒している。
ユイが苦笑しながら、狐耳の幼女を落ち着かせるように説得していた。

「失礼しました……代々水鏡家に仕える式神、樟葉くずはと申します。こ、こんな天才的な陰陽師でもないとこさえられない式神がいるとは……取り乱して、申し訳ありません……」


ユイの説得が功をなしたのか狐耳の幼女、樟葉は落ち着きを取り戻し、アズラエルを見て感想を述べる。



「私はユイ、冒険者よ。で、こっちが――」
「母上にその魂を、父上にその骨肉を与えられ生み出された式神、名をアズラエルと申します」


ユイが自己紹介し、アズラエルも紹介しようとすると、アズラエルは一歩前に出て自分の胸に手を当てて自己紹介を始める。


「……その前置き、重要?」
「不可欠です」


あきれた様子でユイがアズラエルに質問すると、ふんすと鼻息荒く胸を張って答えるアズラエル。


「……樟葉は色々事情があってそこは名乗れません。申し訳ない」
「式神には式神の苦労もございましょう、お気になさらず」


樟葉は申し訳なさそうに謝罪する。頭部の狐耳も謝罪と同時にぺたんと折れる。
アズラエルは気にした様子もなく、笑顔で気にせずと伝える。


「では、こちらへ、依頼を詳しくお話いたします」
(ああ、生まれたばかりだから言いたくてたまらないのですね。樟葉にも覚えがあります)


遠い遠い昔、生まれたばかりの樟葉も自分がどうやって生まれたか、誰の手によって生まれたか、皆に聞いてほしくて、自慢したくて仕方なかった時期を思い出し、樟葉はアズラエルに慈しむ気持ちを抱きながら、客間へと案内する。


「なるほど、この神社の主である静さんが山から帰らない、と?」
「ええ、そうなのです。帰ってこなくなってもう十日になります」
「……何故、こんなに放置されたので?」


社の客間で樟葉から社の主である水鏡静が行方不明になった経由を聞いていた。
行方不明になってから十日も経っていることにアズラエルは疑問を口にする。


「いえ、さすがに帰って来なくてから一週間でメイリュウの家に依頼は出しましたが……静様は元より、自然の野山を駆け回ることで修行する御方でして……ひょっこり、2、3日山に行かれるとか、よくあることだったのです」
「――なるほど、白蛇さんからはその静さんの行き先の憶測はついてるって聞いたけど?」
「はい、御山には『奥の社』と呼ばれる隠し社がございます。探索できる場所は、樟葉が探し尽くましたゆえ、逆を言えば、もうここ以外考えつかないのですが……」
「冒険者といった人手を頼らなくてはならない理由があるのですね?」


ユイが静の行方の心当たりを聞き、樟葉は奥の社と呼ばれる場所にいるだろうと答える。
そこが難所か何かトラブルが待ち受けているのか、樟葉は言いにくそうに困った顔をし、アズラエルが護衛がいる理由を聞く。


「はい、御山の奥の社がある場所……渓谷には、亜竜の一種、ディグと呼ばれる怪物が住み着いているのです……」
「ディグ……ね……」


樟葉が言うには静がいると思われる奥の社に行くにはディグと呼ばれる亜竜が生息しているエリアを抜けないといけないらしい。ユイはディグの名を聞いて表情を歪める。
亜竜とは、ドラゴンに似た外見を持つモンスターで、ドラゴンと比べれば弱いが、アイアンランクであるユイが表情を歪めるだけの強さを持つ怪物である。


「もちろん、目的は倒すことではありません。それでも、助力がなくては樟葉ではとても……」
「亜竜とはいえ、厄介な相手だものね。 ……アズラエル?」
「問題ありません、母上。むしろ、ディグごとき群れでもなければ、このアズエルの敵ではありません」


樟葉はユイ達がディグの名を聞いて二の足を踏んでいるのかと思い、討伐が目的ではないと強く主張する。
討伐でないなら何とかなるかと考えるユイ。ふとアズラエルを見れば自信満々にディグを倒せると豪語する。


「……何言ってんだか、わかんないわね、あんた……アズラエルには勝算があるみたい、いきましょう、樟葉さん」
(ディグってたしか、シルバークラスのバランスの取れた4人チームで撃退できるかどうかの強さなんだけどねえ。最悪あの力で撃退できるといいけど……)


アズラエルを見て苦笑を浮かべるユイ。万が一に備えて切り札をきる覚悟を決める。


「……もう、何を言っているのか、樟葉には訳がわかりません」
「どんと来い、です」


樟葉はディグの群れでもないと敵ではないと豪語するアズラエルに絶句し、アズラエルはふんすと鼻息荒く胸を張っていた。




「うーん、あれはさすがに困ったなぁ」


一方、御山の奥の社に隠れている女性は空を見上げて苦笑しながら呟いた。
女性の視線の先には錆びた金属の螺子や歯車が重なり合ってできた巨大な人型生物が御山を徘徊していた。


「Tick-Tuck」


(私の能力が効かない、ようするに自然の精霊の類でもない……)


錆びた螺子と歯車の巨人は一歩動くたびにTick-Tuckと体中から音が漏れ響く。
女性はその巨人を睨むが、特に何も変化がないことから自然の精霊ではないと確信する。


「Tick-Tuck」
「……なんで、あんなのが……ずっと、ここらへんをさ迷って……何なの?」


女性は御山に籠り修行していた。そろそろ御山を下りないと世話役の樟葉が心配すると思って修行を中断した時に歯車の巨人と遭遇した。


「あれって、もしかして……この御山で『何かを、探してる』……?」
「Tick-Tuck Tick-Tuck」




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