記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第29話 式神召喚依頼



「ここが依頼人の家だね」
「……どこかで……見たことがあるような?」


ムスタファーの冒険者ギルドで見つけた式神の召喚実験の依頼を受けて、チャンスとユイは依頼人がいる家へと向かった。


依頼人の家はスオウ建築といわれる木造平屋形式の屋敷で、庭には松の木や白い砂砂利が敷き詰められ、水流を連想させるような線の模様が描かれていた。
チャンスはその庭園を見て、どこかで見たことがあるような既視感を感じ、頭をひねっていた。


「チャンスもスオウに行ったことが?」
「いや……実は僕記憶―――」
「やー、あんたらが依頼受けてくれた冒険者はん? おいでやす」


ユイはチャンスにスオウを訪れたことがあるのか聞き、チャンスは自信が記憶喪失であることをユイに伝えようとすると、独特のイントネーションで西方共通語を喋る白いローブのような服に赤い裾長いスカート、聳え立つような黒い帽子をかぶった黒髪の女性がチャンスの発言にかぶるように喋ってやってくる。


「うちの実家の枯山水を真似してみたんやで。どうどすえ?」
「立派ですね。眺めているだけで落ち着くわ」
「………」


この庭が自慢なのか、応対に出てきた女性はチャンス達に感想を聞く。
ユイは素直に感想を述べて、チャンスは失った記憶のヒントがないかと庭園をじっくりと見てる。


「西の人にもわかりはる人がいてうれしいわ。あ、自己紹介遅れたね。うち、花右京院結良はなうきょういん・ゆらと申します。よろしゅうに」


結良と名乗った女性は礼儀正しくお辞儀をする。


「ユイよ。スオウにはなじみがあってわかるぐらいよ」
「あ、僕はラスト・チャンスです。今回の依頼を―――」
「ほな、さっそくやってもらえんか?」


チャンスが挨拶を返そうとすると結良はまたかぶせるように発言し、袖口から一枚の高級そうな和紙を取り出す。その和紙にはスオウ語と思われる複雑な文字がびっしりと書き詰められていた。


「ほな、この符に魔力をこめてなー」
「え? 魔……りょく……?」


結良は当たり前のように符と呼ばれる紙に魔力を送れと言う。
チャンスはどうすればいいのか戸惑い、結良の顔色を窺う。


「ああ、君は見るからにって感じやなー。うーん、こう、集中するっちゅうか――むむずかしゅうなあ」


チャンスの戸惑いを見て結良は自分が無茶を言ってることに気づき、説明しようとするが、結良の中では呼吸をするようにできて当たり前の魔力を込める感覚を説明するのに悪戦苦闘する。


「手伝ってあげよっか? 一枚に二人で魔力込めてもいいだろうし」
「うん、じゃあお願いできる」


魔力の込め方が分からなくて悪戦苦闘するチャンスを見かねたユイが協力を申し出る。チャンスは申し訳なさそうにユイの申し出を受け入れることにした。


「じゃあ、手を――」
「え、あ……うん」


不意打ち気味にユイに手を握られて恥ずかしげに戸惑うチャンス。
ユイの手は剣を扱う人のような手をしていたが、どこか柔らかく暖かいぬくもりがチャンスの手に伝わり、ドキドキしてしまう。


「呼吸を沈めて、自分の中に意識を向けて」
「スー、ハー……スー、ハー……コォォォォォォ……」
「そのまま、その力を手に集中させて――奥にある熱を、ゆっくりとゆっくりと手へと、手へと――」


ユイは魔法の武器と思われるエストックを使っていることから魔力っを操作することに慣れているのか、チャンスに魔力を扱う方法を教えて、お互いの魔力を符に込めていく。


「ん? んんっ!?」


二人の様子をほほえましく温かく見守っていた結良。だが、二人が符に込めていく魔力の量を見て違和感を感じる。


(ちょ!? この二人、戦士ちゃいますん!?)


符に込められていく魔力量が結良が知っている戦士の魔力量を大幅に超えている。


「少しずつ、少しずつ……そう、上手よ? 焦らず、ゆっくりと――」
「お、お――――ッ!?」
(あっちの女子も馬鹿みたいな魔力やけど、何、あの男の子の方!?)   


ユイの魔力量は例えるなら百人に一人いるかいないかという逸材レベルの魔力量。それだけでも結良にとっては想定外というのに、チャンスの魔力量は一言でいうと巨大なダムだ。そのダムが今、魔力という水を放流しようとしている。


「集めた魔力を、解き放って!!」
「ちょ、あかん! 今はなった―――ちょおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


ユイの掛け声に合わせてチャンスが一気に符に魔力を注ぎ込む。二人の魔力の激流が一気に符に流し込まれ、符の容量限界を超えようとしている。
結良がそれに気づいて止めようとするが、時はすでに遅く、許容量を超えた魔力の塊が符から噴き出て暴風となる。


「ぶは、ぺっぺっ、は……何これ……」


暴風によって吹き飛ばされた三人。チャンスは顔から地面に突っ込んだのか、口に入った砂利を吐き出しながら何が起きたのかと振り返る。


「陰陽術やって、魔法の一種や【世界に干渉して、その法則を改竄する】んや。式神やったら、【これは生き物です】ってな?」


二人の魔力を注がれた符は輝き脈打っている。まるで今から命が生まれようとしているように………


「後は、ほら、もう賭けやわ。あんさんらの魔力に符の回路が耐え切れてれば――」
「ちょっと待って! 何か、おかしいわよ!?」


ユイの指摘と同時に符は脈動を止めて燃え上がり、炎の渦となる。


「注入の時に魔力が乱れたんやな、形ができとらん……たぶんユイちゃんの魔力が強すぎたんやな。この炎に耐えられるもんは、あらへんやろな。ま、いい実験結果やわ」
(そうよね、当然だわ……あの炎に耐えれるわけが……)


炎は自らを焼き尽くすように燃えさかえ、中心部にあった符が灰になる。
それを見て結良は実験は失敗したと認識し、消火の準備に入る。
ユイはその炎を見て、自分が持つ忌むべき力の暴虐さに絶望を感じていた。


全てを焼き尽くす絶望の炎、それに耐えられるものがあるだろうか?
答えは――可。ある、あるのだ!
彼の力は諦めることを諦めた強さ。
彼の力は絶望をぶち壊す力。
彼の力は最後の希望、悲劇を喜劇に、絶望を希望で塗り替える、めでたしめでたしのハッピーエンドを取り戻す力。


今、史上初の存在が生まれようとしている。
荒れ狂う炎は形となる。炎は紅い鎧へと変わり、人の形へと変わっていく。


紅い鎧を装着した人型はチャンス達の方を振り向く。そして一歩、一歩、まるで初めて歩き出した赤子のようにおぼつかない足取りで近づいてくる。


「ユイ、下がって!!」


チャンスが一歩前に出て双剣のファルシオンを構える。


―――ユイ、お前がどんなに絶望しようと、余は信じておる!———
「……ッ!!」


チャンスの背中を見たユイは不意に腹違いの義姉の言葉を思い出していた。


―――この広い空の下、そなたを愛し護ってくれる誰かがいることを!———
(ああ、この人が……この人が義姉が言っていた私を護ってくれる人なの?)


ユイは無意識にチャンスの背中に手を伸ばしていた。自分を護ろうとして前に出た少年。
まだ出会って間もない、顔見知り程度の間柄なのに、この少年は逡巡することなくユイを護ろうとしてくれた。
目の前にいる少年は本当に実在するのか、それとも忌み嫌われた自分が求めたただの幻なのか、それを確かめようとユイはチャンスの背中に触れる。


「ユイ? ……僕の背中にいれば大丈夫だから。僕の背中は世界で一番安全な場所だからね」
「ラスト……チャンス……」


不意に背中に触れられた感触にチャンスが振り向く。不安そうな顔でこちらを見るユイを安心させるように宣言し、ユイは指先から伝わるチャンスの背の温かさと言葉を聞いて涙を浮かべる。


符から生まれた人型はガシャリ、ガシャリと鎧がこすれる金属音を一歩一歩響かせて、ユイたちに近づいてくる。


「あかん! そこで止まりっ!!」


結良が袖から取り出した符を投げつけて、人型に命令する。
符が命中すると人型は足を止め、ユイたちに向かって膝まづく。


「――お初、お目にかかります。私を生んでいただき、感謝の言葉もございません。この魂、この骨肉――父上と母上なくして、叶わなかったでしょう」


紅い鎧の人型は男性とも女性ともどちらともとれる中性的な声色でチャンスを父上、ユイを母上と呼んだ。


(まって、まって、まって!? 自我を持ってる上に自分が生まれた状況を知ってる!? どんだけの相性と魔力があったら、こんな式神になりはるん!?)


「………」


この少年名はラスト・チャンス。彼には過去の記憶は一切なく、自覚もなく父と呼ばれる。


「…………」


この少女の名はユイ。 生まれて初めて母と呼んでくれたのは、式神だった。


「どうされました? 父上、母上?」

ふたりが事態を理解するのに、時間がかかっても仕方のないことであった。


          

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