記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第15話 グレイトーチの魔術師ギルド



「休んだはずなのに……疲れた……」
「大丈夫、人間は慣れる生き物」


翌日、ぐったりとした様子でセブンブリッジの街を歩くチャンスと、そのチャンスを気遣うマトイの姿があった。


セブンブリッジのダーヴィスの屋敷に泊まったチャンスとマトイ。四六時中ダーヴィスとその妻アミン、二人の夫婦の熱愛ぶりに晒され、色々と疲れていた。
マトイは以前からダーヴィスとの付き合いがあったのか、夫婦の熱愛ぶりを見てもどこ吹く風といった様子で寛ぎ、旅の疲れを癒していた。


「おや、チャンスにマトイじゃないか」
「ん? シャノンさん?」


街を歩いていると不意に声をかけられ、チャンス達が声をかけた人物を見るとコナン村の双子の小人亭で出会ったナリアの護衛をしていた冒険者シャノンの姿があった。


「あれ、その水晶は……確かナリアさんの……」
「ああ、君たちがこの水晶が魔法の道具マジックアイテムだというので、魔術師ギルドで鑑定してもらおうかと思ってな。鑑定内容によってはギルドに預かってもらう」
「それが原因で殺人事件が起きたしね」


シャノンの手には一度奪われチャンスが取り戻した水晶玉が握られていた。
ブータニアスという夜明けを見守る猫族ガヴィーナスが言うにはその水晶には何らかの魔法能力があるという。


「一緒に行っていいです? あとその鑑定ってどんな手続きが必要です?」
「ん? 別にいいが……手続きは窓口で伝えればいいだけだ。金貨5枚ほど料金がかかるがな」
「金貨5枚!? たかっ!!」


シャノンの話を聞いていたチャンスは同行を申し出る。シャノンも断る理由がないので動向を承諾する。


マトイは鑑定料金を聞いて悲鳴にも近い声を上げる。
マトイが声を上げるのも無理もない。国や土地にもよるが都市部での一般家庭の一月の生活費が金貨一枚前後である。
魔法の道具マジックアイテムかどうか、どんな能力があるか調べるだけで生活費半年分のお金が飛ぶのである。


「僕のこの双剣を見てもらおうと思うんだ。フューを捕まえた時、なぜ鎖が伸びたのか、どんな能力があるのか把握していないと怪我するだけならまだしも、もし、マトイや関係ない誰かを傷つけたりしたら僕は自分で自分を許せなくなる」
「チャンス……」
「そういうことなら一緒に鑑定の手続きをしよう。無論料金は払ってもらうぞ」


チャンスは背中に背負う双剣のファルシオンを見ながら喋り、マトイはチャンスが自分を心配してくれる言葉に笑みがこぼれそうになる。
シャノンは何か深い事情があると察したのか、纏めて手続きすることを約束する。


「ところで、魔術師ギルドってどこにあるんです?」
「ああ、あの灰色の灯台グレイ・トーチが魔術師ギルドだ。船で渡らないといけないのが難点だがな」


チャンスが魔術師ギルドの場所を聞くと、シャノンはセブンブリッジの港の入り江の島に立つ灰色の巨大な灯台を指さす。


「あそこって魔術師ギルドだったんだ」
「まあ、魔術師やギルドに用事がなければセブンブリッジの住人からすれば、ただの灯台ぐらいの認識だからな、あそこは」


マトイも今初めて知ったというようなリアクションをとり、シャノンは苦笑する。


チャンス達は東街にある旧港で船頭と船を借りて灰色の灯台グレイ・トーチを目指す。
セブンブリッジの港は全部で4つ存在する。東街の旧港、西街の新港。元々は東街の港がセブンブリッジの海の玄関口だったが、戦争で東西に街が別れた際に西街側が新たな港を作り、街が統合された際に西街が海外の交易船を受け入れる港として、東街の旧港が地元漁師が利用する港となった。


東街には第二港と呼ばれる港がある。東西に別れていた際に西街の港に対抗して建設されたが、突貫工事で作ったため荷揚げの場所が少なく旧港の漁船と交易船が衝突する事故が起きてから利用者は少ないらしい。
最後に東街の貴族街にある軍港、伯爵家の水軍が利用しており、戦時中は補給港として利用されていたという。


そんな話を船頭から聞きながらチャンス達は灰色の灯台グレイ・トーチへと辿りつく。
灯台がある島には灰色のローブを着た魔術師と思われる人々が生活しており、小規模の村のようなコミュニティが作られていた。


ギルド内部は吹き抜けの螺旋階段状になっており、一階の受付広場で手続きをして鑑定を担当する部屋へと案内された。
鑑定を行う部屋というが、虫眼鏡や鑑定に使いそうな特別な機材はなく、羊皮紙と鉛の杯、梟の尾羽で作られた羽ペンが置かれた机があるだけだった。


「鑑定をご希望と聞きました。どういったものでしょうか?」


鑑定担当のモノクルをかけた銀髪の若い魔術師が温和な笑みを浮かべて声をかけてくる。


「この水晶と彼の剣を鑑定お願いします」
「わかりました。ではこちらに置いてください」


魔術師に言われたとおりに水晶と剣を机に置く。


「では鑑定を始めます。万物の根源たるマナよ、この物品の真なる能力をこれに綴れ。 鑑別アイデンティファイン


魔術師はそう言うと机の引き出しから真珠球を取り出し、それを乳鉢ですり潰す。
鉛の杯に葡萄酒を注ぎ込み、そのぶどう酒に先ほど乳鉢ですり潰した真珠の粉を注ぎ、梟の尾羽のペンでかき混ぜると呪文を唱える。
真珠の粉が混じった葡萄酒は羽ペンに吸い上げられていき、その羽ペンで魔術師は羊皮紙に文字を書いていく。
水晶の方に置いた羊皮紙に文字を書き終えると、次はチャンスの剣の前に置いた羊皮紙に羽ペンを置くが、一向に文字が記入される様子がない。


「……こちらの武器は魔法の道具マジックアイテムでないか、私の能力を上回る隠蔽呪文が施されている可能性があります。この武器はどこで入手しました?」
「それが……僕は記憶がなくて……気が付いたら持ち歩いていました」


魔術師がファルシオンの入手経路を聞くとチャンスは申し訳なさそうに地震が記憶喪失である事情を話す。


「どうしても鑑定をお望みですと、導師クラスの魔術師を派遣することになりますが、手数料が最低でも金貨100枚、いつ鑑定してもらえるか不明という状況になります」
「さすがに100枚はちょっと……ところで水晶の方は?」


導師クラスの魔術師なら隠蔽魔法の防御を突き破って鑑定できるかもしれないといわれるが、さすがに100枚もの金貨を用意はできない。
気持ちを入れ替えて水晶の方の鑑定結果を聞くと、魔術師が羊皮紙に書かれた文字を読み上げる。


「どうやらこの水晶は鍵の役目を担っているようですが……これ一つでは不完全です」
「そういえば、フューもこれが望みの神殿の扉を開く鍵だっていってたね」


魔術師が読み上げる内容を聞いてマトイはコナン村の双子の小人亭で起こった殺人事件の犯人フューが言っていた言葉を思い出す。


「同じ形状の水晶かは不明ですが、その望みの神殿という場所を開ける鍵が後いくつか必要ですね。それから、こちらの水晶はいかがいたします?」
「ギルドで預かってもらえないだろうか?」


魔術師が水晶の処置について問うとシャノンは迷う様子もなくギルドで保管を求める。
魔術師は承諾すると預かり書を作成し、魔術師見習いと思われる少年が水晶をもって出ていった。


「ほかに何かご用件はありますか?」
「地球、もしくは日本という単語に心当たりありませんか?」
「チキュウ、ニホンですか……心当たりありませんね。手数料はかかりますが頭ギルドが保管している文献から調べることもできますがどうしますか?」


鑑定を終えた魔術師がほかに要件がないか聞くとチャンスは自身が覚えている地球と日本という二つの単語を問い合わせる。
だが魔術師はその単語に聞き覚えはなく、有料ではあるが調べてくれるといった。



「水晶も預かってもらえたし、私はこれで失礼するよ……チャンス、君の記憶が戻ることを祈っている」


魔術師ギルドでの用事を終えた一行は東街へと戻り、シャノンがチャンス達に別れを告げる。


「これからどうしようか……」
「じゃあチャンス、冒険者ギルドに行かない? もしかしたら冒険者として登録しているかもしれないし」


チャンスがどこに行こうか迷っているとマトイが冒険者ギルドへ行くことを提案する。
もしかすれば、記憶を失う前に冒険者として登録しているかもしれないという望みがあることをかけて。

          

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