記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第7話 取り戻した二人のデュエット



「もうすぐ夕刻ですな」


マレルの街、音楽祭を運営する幹部委員が赤く染まり始める空を見上げて呟く。


「彼らは……まだ帰ってきませんか……」


町長は黄昏にが広がっていく空を見上げ、そしてシェイルを求めて悲しげな歌を歌う娘の幽霊を見つめ、最後に街の入り口を見る。


「町長……ご決断を」


別の役員が町長に迫る。その役員の傍には幽霊となったアロを強制的に成仏させるために派遣された安らぎの貴婦人ヘレネを信仰する神官がいた。


「アロ……すまない……私は父親である前に……マレルの町長なんだ……」


断腸、苦渋、様々な感情で表情を浮かばせながら町長は死んだ娘に謝罪する。町長が握りしめる拳は爪が食い込み血が流れていた。


「娘を……成仏—――」
「アローーーーーーーーーッ!!!」


成仏させてくれと町長が神官に向かって言おうとするが、娘の名前を呼ぶ誰かの声でかき消される。


「その声は……シェイル? シェイルなの!? 私はここよ、シェイルーーーーッ!!」


自分を呼ぶ愛する人の声を聞いて、アロは悲しい歌を歌うのやめて自分はここにいると叫ぶ。


「約束通り、シェイルさんを連れてきましたっ! 成仏させるのは待ってください!!」


黄昏に染まる夕日の中から三人の人影が野外音楽堂に向かって駆けてくるのが見えた。
チャンスの叫び声を聞いて音楽堂に集まっていた幹部委員、町長、そしてアロの顔に笑みが浮かぶ。


「アロッ!」
「シェイル!!」


シェイルはアロがいるステージへと一目散に駆け寄る。


「ああ、シェイル……夢じゃないのね……会いたかった……」
「アロ、私の愛しいアロ。ずっと待たせてすまなかった」


アロとシェイルは見つめあい、口づけを交わす。


「さあ、アロ……約束を果たそう。共に誓ったデュエットを歌おう。死してなお、離れぬ私たちの愛の歌を」
「ええ……シェイル……約束を果たしましょう。私たちの歌を歌い、安らぎの貴婦人ヘレネ様の元へ向かいましょう」


シェイルはリュートを取り出し演奏を始め、そして二人は歌い始める。
二人の出会いの物語を、魔女シャリラによって引き裂かれても互いに想い続けた愛を、そして冒険者ラストチャンスによって取り戻した二人のデュエットを歌う。


「ありがとう、ラスト・チャンス。貴方は私に最後の希望を与えてくれました」
「ありがとう、ラスト・チャンス。君の励ましが私を絶望の淵から救い上げてくれた」


歌い終わると二人はラスト・チャンスにお礼を述べる。そしてシェイルの肉体はステージの上に倒れ、そこから抜け出したシェイルの霊とアロの霊が手を取り合って天に昇っていく。


「おおっ! 安らぎの貴婦人ヘレネ様!!」


二人の魂が天に昇っていくのを見守っていた神官が天を指さし叫ぶ。
夜の帳が広がっていく空の一角、神官が指さす方向に黒い喪服を身にまとい帽子で顔を隠した貴婦人が二人の魂を抱き迎えるように両手を広げて待っていた。
魂の安寧と不死者の魔の手から死者の魂を守る神、安らぎの貴婦人ヘレネの姿がそこにあった。


「ラスト・チャンス、私たちは貴方から受けた恩を決して忘れない。私達はヘレネ様の安らぎの腕の中に抱かれながら貴方を称える歌を永久に歌い続けよう。ありがとう、私たちの最後の希望ラスト・チャンス……」


その言葉を最後にアロとシェイルは安らぎの貴婦人ヘレネの腕に抱かれ、天へと旅立った。
野外音楽堂にいた人々は安らぎの貴婦人ヘレネが消え去った後も呆然と月明かりが輝く夜空を見上げていた。



「ふう……ちょっと飲みすぎたな……」


人々が寝静まる真夜中の黄金の小麦亭の中庭で夜風に当たるチャンスは呟く。
シェイルとアロを見送った後、町長の計らいで宴会が行われた。
娘の魂の鎮魂と魔女シャリラの討伐、チャンスとマトイ二人の労いもかねて。


「うん? 歌声?」


中庭で酒で火照った体を冷ましていると、どこからともなく歌声が聞こえてくる。
歌声の主を探してチャンスが中庭を探索すると、中庭に植えられた木の枝に腰かけたマトイが歌っていた。


「マトイ? こんなところで何やっているの?」
「ん~……月光浴?」


チャンスが声をかけるとマトイは歌を歌うのやめて、顎に人差し指を当てて、足をプラプラさせながら考える仕草をした後、月光浴と疑問形で答える。


「いや、疑問形で答えられてもなあ……」
「理由なんて、ないよ? ただ、なんとなく、だから」


マトイは上機嫌に微笑みながらまた歌を再開する。


「女の子の言い回しは複雑だなぁ……」
「――ッ」


チャンスがぼそりと呟くとマトイの歌が不意に止まる。


「マトイ?」
「ん、ああ、そうだったなーって?」


不意にマトイの歌が止まって、怪訝な表情でチャンスはマトイを見上げる。
月を背景にチャンスを見下ろすマトイは一人納得した表情でほほ笑んでいた。


「えっと……はい?」
「そうそう、僕は女の子。その通り!」


マトイは自分が女の子であることを宣言すると、胸を張ってドヤ顔をチャンスに見せる。


「いや、そこでドヤ顔されても……」
「だって僕、ここ数年だもん、女の子始めたの」
「えうっ!?」


女の子を始めたというマトイの発言にチャンスは間抜けな声を漏らして驚愕する。


「いやといっても、僕、元男とかじゃないよ? 安心して?」


木の枝から飛び降りると、マトイは月を見上げながら男ではないと宣言する。


「まぁ、僕も生まれてからこっち、『色々』あったの。で、その『色々』から、『色々』あった訳。で、私は考えたの――『私』って何なんだろうって」


マトイは自分の過去を喋っているようだがほとんどの部分が色々という単語で纏められている。
だが、チャンスはその『色々』な部分については何も指摘もしなければ質問もしない。ただチャンスはマトイの独白を聞き手となって静かに聞いている。


「僕は人間だ――じゃあ、名前がいる。人間は生きていかないといけない――だから冒険者でもやろうかなって思って冒険者をやってるの。でもって、僕は女の子らしい――女の子って、何だっけ?」


チャンスに質問しているというよりは自問自答しているようにマトイは独白を続ける。


「で、僕は女の子のことをいっぱい勉強して、『女の子の冒険者ならこうなのかな?』ってそういうのを、繰り返していって、今に至る」
「マトイ……」


マトイはチャンスに近づくとチャンスの瞳を覗き込むように見つめる。
ブラウン色の大きなマトイの瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥るチャンスはマトイの名前を呟いた。


「でね! チャンス、僕、新発見!」


マトイはパンっと手を叩いて自分が見つけたという新発見をチャンスに説明しようとする。


「あのね、女の子ってね! 女の子扱いされると嬉しいみたい! よし、チャンスはもっと僕の事、女の子扱いしていいよ?」
「その一言で台無しだよ……」


またマトイはドヤ顔&胸を張ってもっと女の子扱いしろとチャンスに要求する。
チャンスは苦笑しながら台無しだと伝えた。


「えー……女の子って、難しい……」
「はいはい……ちゃんと、部屋で休まないと、風邪ひくよ?」


マトイはごろんと中庭の芝生になっている所に寝転ぶ。チャンスは苦笑しながらマトイに手を差し伸べて起こそうとする。


「んー、そうする……」
「じゃあお休み、マトイ」


チャンスの手を握って起き上がるマトイ。部屋に戻る気になったマトイを見て、チャンスも酔いが覚めたのを思い出して自室に戻ることにした。


「ん、お休み……チャンス」


マトイはチャンスの後姿を見送って、自分の胸に手を当ててにやける。


(うん、本当、びっくり。女の子扱いくらい、いままで何度でも受けた事あったのに――なんで、チャンスに女の子扱いされたくらいで僕はこんなにも嬉しかったんだろ……?)


マトイはドキドキと高鳴る胸の鼓動を自分の手で感じながら、チャンスとの会話を思い出している。


(なんでだろうな、チャンスと話してると胸がドキドキする。もっともっとも~っと話していたいって思う)


マトイは月を見上げながら自問自答するが……結局胸の高鳴りの意味は分からないままだった。

          

「記憶のない冒険者が最後の希望になるようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く