記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第4話 魔女の住処



「まったく……チャンスはお人好しだね」
「……どうしても我慢できなかったんだ。何故かあの親子の涙を拭いたいって……笑顔にしたいって思ったんだ」


音楽堂のステージでアロの幽霊にシェイルの生死を確認することを約束したチャンスは宿に戻ると魔女シャリラが住処にしていたという遺跡に向かう準備をする。
マトイはそんなチャンスを見て呆れたようにお人よしと呟く。


「それじゃあ、行こうか」
「えっ? なんでマトイも?」


準備を終えてチャンスが部屋から出ていこうとすると何故かマトイも旅装束に着替えていた。


「一人で向かうより二人で行った方がましでしょ? それに僕、こう見えて罠の感知や解除得意なんだよ」
「マトイは君が心配なんですよ。音楽祭終わるまでは滞在する予定ですし、街中なら危険もないでしょうから……どうかそのシェイルという人の生死を確かめて、町長の娘さんをヘレネの元へ送ってあげてください」
「ダーヴィスさん……」


マトイはふふーんと胸を張ってトラップ探知能力を自慢する。ダーヴィスがマトイはチャンスのことが心配と知らせると、マトイは顔を真っ赤にしてダーヴィスを睨む。


「お二方はこのキャラバンの護衛として雇われてるんですけどねえ……お願いですから怪我して出発に同行できないとかやめてくださいよ」


御者のリマスは消極的賛成という態度で二人を見送る。


「娘の為にありがとうございます」


宿の一階の酒場に降りてくると町長が出迎えてくれる。その表情は感謝と、そしてどこか申し訳なさそうな顔だった。


「娘の為にありがとうございます。シェイルが生きてるならどうか連れて帰ってきてください。死んでいるなら死を証明する証拠を持ち帰ってきてください。それからこれを……」
「これは?」


町長が懐から取り出したのは古い羊皮紙だった。止め紐を解いて広げると地図になっている。


「この町に古くから伝わる遺跡への道順と見取り図です。何分古いものでして誰が書いたのかも定かではなく、見取り図が正しいのかも不明ですが……」
「何も無いよりはマシ程度? 僕は地図が読めるから預かるね」


マトイが見取り図の書かれた羊皮紙を受け取る。


「そして、誠に身勝手ながら……音楽祭の前夜の夕方までに戻ってきていただけないでしょうか。もし音楽祭前夜の夕方までに戻ってこない場合……娘の霊を強制的に成仏させます」
「そんなっ!? 強制的に成仏させたくないって言ってたじゃないですか!」


苦渋の決断といった表情と声で町長はシェイルの生死確認の期限を付ける。その一言にチャンスは驚く。


「……私はこの街の町長です。音楽祭は町の住民や観光客が首を長くして待ちわびていたものです。私個人の感情でこれ以上延期させるわけにはいきません」


町長はぐっと涙をこらえながら町長としての役職を全うする事を決断したようだ。
実の娘の霊を強制的に成仏させてでも公共の利を優先すると決めた。


「わかりました……必ず間に合わせます」
「よろしくお願いします」


チャンスは町長の覚悟を感じたのか真剣な表情で間に合わせると約束する。
町長は深々とお辞儀をしてチャンス達を見送った。


チャンスとマトイはマレルの街を出て約6時間程の徒歩での移動でシャリラが根城にしていた遺跡と思われる洞窟にたどり着いた。
洞窟は山腹にポッカリと口を開いており、自然の土で出来た一直線の道があった。


「僕が先頭を歩くから、チャンスは僕の歩いた跡を歩いてね」
「わかった」


マトイはマスケット銃を錬成すると中腰で洞窟内を先行する。
洞窟は最初はむき出しの土だったが、洞窟の入口から覗き込んだぐらいでは見えない距離から石畳と石壁に変わっていく。


「扉だね……チャンスは離れていて」


先行して石畳の通路を歩いていたマトイが三角コーンを錬成し、鉄製の扉にコーンをつけて扉の向こうの音を調べている。
錬成術でピッキング道具のような物を錬成すると、鉄製の扉の鍵穴に差し込み、開錠を試みる。


「んっ、開いたよ……中には誰もいないけど……床が変だね」
「床が?」


数秒でカチンと鍵が空いた音が洞窟内に響く。マトイは扉を少し開けて手鏡を差し込み部屋の様子を伺う。
チャンスも扉の隙間から覗き込めば、白と黒のタイルが市松模様のように部屋いっぱいに敷き詰められていた。


「多分どちらかを踏むとトラップが発動するタイプだと思う」


マトイが部屋の入り口でタイルを軽く叩いたりして、罠を調べている。黒いタイルを叩くとガコンとタイルが割れて落とし穴になる。


「白いタイルが正解の道だね」


チャンス達は白いタイルを踏んでタイルの部屋を抜けると、左右前と三方向に通路が伸びている。正面の道にはまた鉄製の扉が閉じていた。


「どっちに行く?」
「まずはまっすぐ行こう」


チャンスの意見にマトイが頷き、正面の扉を調べる。鍵も罠もないのかマトイは扉を開けて手鏡を差し込んで部屋の様子を伺う。


「シャリラの部屋かな? 衣装棚や書庫がある」
「入ってみよう」


マトイの言うとおり、その部屋はシャリラと思われる女性の部屋だった。衣装棚を開けるとドレスがぎっしりと詰まっている。


「全然手入れされてないね。虫食いの状況から1年近くは触られていないかも?」


マトイは何着かドレスを手に取ってその生地の状態を確認する。マトイが指摘するようにドレスは皆埃かぶっており、虫食いもチャンスの目から見ても酷い状態だとわかる。


「チャンス、これを見て」
「これは手記?」


更に部屋を捜索するとマトイが革製の表紙で装飾された本をチャンスに見せる。
本はシャリラの手記になっていた。シャリラは魔術師たちの国コレリアの魔術師だったが永遠の美しさを求めて死霊魔術に手を出し追放、古代文明の死霊魔術師の遺跡で死霊魔術を研究していた内容が書かれていた。


「もしかして……あの巨大スケルトンも……」
「うん、可能性は高いと思う」


二人が思い浮かべるのは街道で野宿した時に襲ってきた農民とその農民がスケルトンになりさらに融合して巨大化した事件。その事件の首謀者はここで死霊魔術を研究していたシャリラかもしれないと思った。


「まずはシェイルさんを探そう。シャリラも気になるけど、今優先すべきはシェイルさんの生死の確認だ」
「うん」


二人はシャリラの部屋を出ると左側の通路へと向かう。通路は緩やかなカーブとなっている。
先頭を進んでいたマトイが足を止める。音を拾おうと耳の裏に手を当てて聞き耳を立ている。


「マトイ?」
「しっ! リュートの演奏と男性の……歌声が聞こえてくる……こっちよ」


マトイが歌声が聞こえる場所へと進む。チャンスは念のためにとファルシオンを抜いて警戒する。


「ここよ」
「確かに耳をすませば演奏が聴こえてくるね」


マトイとチャンスがたどり着いたのは扉のない小部屋。小部屋の奥にはカーテンで仕切られている。音楽はカーテンの奥から聞こえてきて、男性特有の低音で、美しく、そして悲しい歌声が聴こえてくる。


ああ、愛しきアロよ。この歌声が聞こえているか? 君は今何をしている? 私は悪しき魔女に殺されて魂をここに縛り付けられてる。ああ、愛しきアロよ、君の声が聞きたい。君と約束したステージで二人で歌いたい。それが叶うなら私はこの魂すら死の女神エレナに捧げよう。


「シェイルさん?」
「チャンス、ストップ!!」


チャンスがカーテンを取り除こうと小部屋に入ろうとすると、マトイがチャンスの襟首を後ろに引っ張って止める。
チャンスのつま先が小部屋の床に触れた瞬間、パカンとカーテンを境に床が割れて落とし穴になる。


「あ……ありがとう、マトイ」
「僕の指示はちゃんと聞いてよ」


マトイがチャンスと入れ替わるように小部屋の入口に立つと壁を調べ始め、石壁の一部に偽装されたスイッチを見つける。


「これで落とし穴は作動しないよ」


ふふんと胸を張ってトラップを解除したことを知らせるマトイ、チャンスは頷くとカーテンへと近づき、カーテンを開ける。


「シェイルさんですか?」
「ああ、私がシェイルだ。君たちは……?」


カーテンの向こうにいたのは色白の肌を持った金髪の全裸の美青年がいた。
椅子に座り、その足には枷が嵌められ椅子から動けないようになっていた。


「僕の名前はチャンス、彼女はマトイ、アロさんからあなたの無事を確認するために来ました」


アロの名前を聞いたシェイルは嬉しそうな顔をした後に後悔と悲しみの混じった表情を浮かべた。

          

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