記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第3話 失われた二人のデュエット



マレル、ナブー王国にある王の街道の宿場町の一つで、高原地帯にある街。
ナブー王国の首都シードから徒歩で七日間ほどの距離にあり、人口は約5000人。牧畜と農業で栄えている。


「なんか……活気がないですね」
「おかしいですねえ? この時期は四年に一度の音楽祭で各地から音楽家や吟遊詩人達が集まって賑わうのですが……」


チャンスが馬車から街の様子を伺うと人がいる割にはどこか活気がない。ダーヴィスも腕を組んで首をかしげて街の様子に怪訝な表情を浮かべた。


「音楽祭自体はやってるんじゃない? 吟遊詩人っぽい人いっぱいいるし……」


マトイが指摘するように街のあちこちには楽器を持った旅人が見かけられ、辻辻で音楽を演奏したり、同じバンド同士話し合っていたりする。


「旦那様、とにかく宿を確保しましょう。音楽祭期間は観光客や音楽家で宿がすぐ埋まるんですから」
「ああ、そうだね。じゃああそこの宿にしようか。まだ空いているし、厩舎もある証の看板も下げているしね」


ダーヴィスが指さしたのは白石作りの3階建ての大きな宿屋だった。宿屋の軒先にぶら下げている看板には宿泊を知らせるベッド、食事ができる交差したナイフとフォーク、厩舎があることを知らせる馬の焼絵が看板に焼き付けられていた。


宿の名前は黄金の小麦亭。1階が酒場となっており、石畳の床、酒場の中央には巨大な鍋が置かれて湯が焚かれて、湯気が暖房替わりになっている。


酒場には音楽祭目当てと思われる商人や観光客、楽器を背負った学士がいて、酒場の隅では吟遊詩人が詠っている。


「それじゃあ手続きしてきます」


御者のリマスが宿泊の手続きをしている間、チャンス達は近くのテーブル席に座る。


「いらっしゃいませ」
「エールを4つ。適当に摘めるものを」


すぐに給仕と思われる10代ぐらいの女性がやって来る。ダーヴィスが注文し、一息つく。


「どうやら、音楽祭がなにかトラブルで中止になるみたいだな」
「そんな……わざわざタイラントから来たというのに、それは困る」
「いや、俺が聞いた話だといつもの会場が何らかの理由で使えなくて、場所を移すと聞いたぞ」


注文の品を待っていると近くのテーブルで談笑していた楽士のグループがそんな会話をする。
チャンスたちが耳を傾けるとどうやら今年度の音楽祭は何らかのトラブルでいつも使っている会場が使えず、場所を移すか中止するかそんな噂が出回っているようだ。


「困りましたね……音楽祭を目当てに商品を積んできたのですが……」
「明日町長なり責任者に聞いて見ればわかるんじゃないの? 僕はもうベッドで寝たいよ」


噂話に耳を傾けていたダーヴィスが困った顔で呟く。マトイは運ばれてきたエールを飲みながら蒸したジャガイモと腸詰ソーセージを摘みながら意見を述べる。
宿泊の手続きをしたリマスがテーブルに合流し、久々に干し肉や黒パンといった保存食以外の暖かくて柔らかい料理を口にする。


翌日、チャンスとマトイはマレルの街にある野外音楽堂を訪れる。
石を積み組み上げて造られた立派な建築物で、形はアリーナのようなすり鉢状になっていた。


その音楽堂の舞台の中心では小太りの中年男性が他の三人の男性と額を寄せ合い困った様子で何か話し合っていた。


「あの……」
「おや、どなたですかな? 音楽祭は三日後の夜からですよ」


チャンスが集団に声をかけると、小太りの中年男性が振り向き、愛想笑いを浮かべながら開催日を知らせる。
その顔は疲れており、ろくに眠れていないのか目の下にはクマが出来ていた。


「街の噂で音楽祭が中止になるって聞いたけど?」
「いっ……いえいえ、ちゃんと開催します。安心してください」


マトイが音楽祭について聞くと男たちは取り繕うように開催することを主張する。


「本当に?」
「……そう……ですね……いつまでも秘密にしておくわけにはいきませんね……」
「町長!?」


だがマトイは男たちの言葉を信じず、見つめる。小太りの中年男性は観念したようにため息をつくと口を開く。
残りの男たちが小太りの中年を町長と呼んで、驚いた表情を向けた。


「この音楽堂のステージには幽霊が出るのです。幽霊の正体は半年前に衰弱死した私の一人娘、アロです」


町長はステージの一角を見つめて涙を浮かべる。


「アロには婚約者のシェイルという吟遊詩人の青年がいました。二人共歌が大好きで、音楽祭の日にこのステージでデュエットを歌うのを楽しみにしていました」


町長は流れる涙もそのままに声を震わせて話を続ける。


「1年前、魔女シャリラを討伐するためにシェイルはシャリラが住む洞窟へと向かい、いつまでたっても帰ってきません……アロはそれを悲しみ、食事も喉を通らなくなり、衰弱して死んでしまいました」


町長はステージの上を歩き、ステージのとある場所で立ち止まると見えない誰かを抱きしめるような仕草をする。


「音楽祭の日が近づくにつれて、ステージにはしばしばアロの幽霊が出るようになりました。シェイルの名を呼び、しくしくすすり泣いて、悲しい歌を歌うのです。その歌を聴いた者は皆陰気になり、とてもじゃないですが音楽祭を開けません」
「ですから町長、別の場所に会場を設置して……」
「期間的に間に合いません。最悪野外でという手も……」
「それじゃあ音響効果がありません。プリーストを派遣してターンアンデットをかけてもらうべきかと! 娘さんの魂を安らぎの貴婦人ヘレネの抱擁を迎えさせてやるのが親の務めです!」


町長の近くにいた三人の男たちがそれぞれ音楽祭開催の案を述べる。だが町長はどの案にも今ひとつ乗り気じゃないようだった。


「ところで、魔女シャリラって?」
「シャリラは今から三年前にマレルへやってきた魔女です。何かと自分の美しさを鼻にかけていた高慢な女性でした」


マトイがシャリラについて聞くと町長は忌々しげにシャリラについて語る。ほかの三人も苦虫を噛んだような顔を見せていることから、あまり良い印象はないようだ。


「それでも魔法の力はすごかったですよ。手に触れた相手を動物に変えることもできましたし……彼女はこの街から半日ほどの山中で見つかった洞窟内にある遺跡に住み着いて何かを研究していました」


町長がおそらくその件の遺跡があると思われる山を指さす。


「その研究は忌々しいものでしたよ。自分の美貌を保つために若い男女を攫っては拷問して殺してその血で若返りの薬を作っていたとか……偶然遺跡から逃げた被害者の証言でシャリラが犯人と分かり、腕利きの冒険者たちを雇い、シャリラ退治に向かわせました。その中にシェイルもいました……しかし、冒険者たちは帰ってこず、シャリラも現れなくなったことから刺し違えたのでしょう」


「娘は……いつまでも帰ってこない恋人を慕うあまり、次第にやせ衰えて最後は、死を迎えたのが半年前です。せめて……せめてシェイルの生死を確認できれば娘の霊も浮かばれるかもしれないのに……許してくれ……父は……父は恐ろしくてシャリラの住処に近づくこともできないんだ」


町長はその場に蹲ってむせび泣く。音楽祭について話し合っていた男たちも町長に同情の目を向けるも、魔女の住処へ向かう気にはなれないようだ。


「ねえ、あれって……」


マトイが指差す方向にはステージの中央に白いドレスを着た18歳ぐらいのやせ衰えた女性がいた。
その女性は向こう側が透けて見える半透明の存在で悲しげな歌を歌い出す。


シェイルはいつになったら帰ってくるの? 生きてるの? それとも死んでるの? それすら私はわからない。私はここで歌います。死んでも歌い続けます。約束したこのステージの上で二人で一緒に歌える日まで。


「うっ……うわあああああっ!!」


歌を聞いていた町長や男達が号泣する。マトイも泣き始めチャンスも悲しさで心が張り裂けそうになる。


「シェイルが生きているなら、もう一度会いたい。そして、このステージの上で一緒に歌いたい。もしシェイルが死んでいるなら、私もヘレネの元へ旅立ちます。ああ、シェイル、あなたは生きてるの? それとも死んでいるの? 誰か……誰か答えて……お願いです。どうか誰かシェイルの生死を確かめてください。シェイルの生死がわかれば私は迷わずに逝けます」


アロの幽霊は両手で顔を覆い、ぽろぽろと涙をこぼし、泣き叫ぶように歌う。


「僕が……僕が行くよ! 僕がそのシェイルさんの生死確かめてくる! 死んでいるなら形見を、生きているなら張り倒してでも君の前に連れてくる!」


そんなアロの幽霊の前に立ったのはチャンスだった。


「あなた……は? 本当にシェイルを探してくれるのですか?」
「僕の名前はラスト・チャンス! 君が助けを求めるなら……僕が君の最後の希望ラスト・チャンスになってみせる!!」

          

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