記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第1話 記憶のない冒険者、その名はラストチャンス



実りの秋の季節から冬の季節へと移り変わる頃、かつては王の街道と呼ばれ、たくさんの馬車が行き交っていた街道も、今では寂れている。
そんな寂れた街道を1台の屋根付き二頭馬車コーチが走っている。


馬車の御者台には不安そうにキョロキョロと周囲を見回すやせ細った男性。街道脇の木々や草むらが風でガサガサと音が鳴るたびにひっと小さな悲鳴を上げてビクビクしている。


そんな御者が操る馬車の中には積み上げられた荷箱や樽が所狭しと積まれている。
そんな荷物が詰め込まれた馬車の僅かなスペースには、年の頃は15歳前後のまだ幼さの残る銀髪の少年、恰幅のいい体格の立派な髭を生やした白人の中年男性、そしてその中年男性の近くで寝ている黒髪ツインテールの少女がいた。


「乗せて貰って助かりました。ダーヴィスさん」
「ははは、旅は道連れ、世は情けって言うしね! 駄賃を貰えて護衛にもなってもらえるなら、お安い御用さ」


事の発端は銀髪の少年……ラスト・チャンスという少年が一人で街道を歩いていた所、後方から馬車を走らせていたダーヴィスが見つけ、駄賃程度の運賃と護衛と引き換えに馬車に搭乗させたのが始まりだ。


「え? ここって、そんな危険でしたか? ずっと歩いていましたけど、モンスターも盗賊も見なかったですよ?」
「何事も、例外はある」
「おや、もうひとりの護衛様のお目覚めかい?」


チャンスとダーヴィスが話していると寝ていたツインテールの少女がむくりと起きて欠伸をしながら会話に混ざってくる。


「今は、私は休憩中だし……それより、説明しないの?」
「あ、はいはい、マトイの言うとおりだね。今年の秋は不作だったろう?」
「えーっと……よくわかりません」


ダーヴィスの話によると今年の収穫は不作で飢饉という程ではないが、全体的に食糧不足らしい。


「でだ、そういう時ってね? 【ないなら、あるところから奪っちゃえ】って思う集団が生まれるのさ」
「周りからしたらいい迷惑だけどね」


あっけらかんとした態度でダーヴィスは不作が原因で農民などが盗賊化して他の村を襲ったりしているらしい。
マトイと呼ばれた護衛の少女は面倒くさそうにため息ついて愚痴を漏らす。


「といっても連中も兵士が守ってる場所は襲わない。狙うのは、旅人とかウチみたいな商人の集団だよ。なあ、リマス?」
「私は反対したんですけどね、旦那様が【供給不足の時こそ、商人の踏ん張りどころ】なんて言って強引に出発して」


御者をやっているリマスと呼ばれたやせ細った男性が会話に入り込み愚痴を述べる。ダーヴィスは苦笑しながらも御者のリマスを注意することはなかった。


「まぁ、連中も慣れてるからね。場合によると、職業盗賊よりもやばい」
「普通の山賊と違って、切羽詰ってるからね。気合の入り方だけは厄介」
「いざという時はマトイさん頼みますよぉ」


ダーヴィスとマトイが盗賊化した農民の厄介さを語り合っているとリマスと呼ばれた御者が念を押すようにマトイに声をかける。


「ま、君はその二本の剣をぶら下げて余裕の顔しててよ。それだけで、連中は警戒するからさ」


ダーヴィスが指摘するようにラスト・チャンスという少年の背中には柄に鎖が焼き付けられた二本のファルシオンが背負われていた。


そこで一旦会話が終了する。しばしの間馬車の荷台の中は無言に包まれ、馬車の車輪の回る音と馬車を引く二頭の馬のヒヅメの音だけが響く。


チャンスは手持ち無沙汰に荷台の中を見回し、マトイと呼ばれたツインテールの黒髪の女性を見つめる。


「? 何?」
「いや、ほら、暇だから話でもどうかなって?」


チャンスの視線に気付いたのか、小首をかしげながら問いかけてくるマトイ。
無言の空間が耐えられなかったチャンスはマトイと話をしようと提案する。


「暇潰しか、確かに必要。で? どんなお話?」
「若いみたいだけど護衛なんだよね? 専属?」
「ううん、普段は冒険者だよ? ちなみに歳は17。君は?」


なぜかマトイは自分の年齢を言う時にふふんと胸を張る。
チャンスは胸を張るマトイを見てなぜか平たい胸の一族という単語が思い浮かんだ。


「僕の年齢? 多分15のはず……」
「はず?」


年齢を聞かれたチャンスは自信なさげな曖昧な回答をする。チャンスの回答を聞いてマトイは怪訝な表情をする。


「記憶がないんだ。年齢って聞かれてその数字が思い浮かんだから15かなって」
「記憶がない? ほかに覚えてることは?」
「自分の名前がラスト・チャンス、この二刀の使い手、年齢は多分15、あとは……【地球】【日本】という単語とどうしても旅をしないといけないってことぐらい?」


マトイにほかに覚えていることを聞かれてチャンスは覚えていることを全部喋る。


「地球? 日本? ダーヴィス聞いたことは?」
「私もありませんねえ……」


チャンスは淡い期待を持つが、マトイもダーヴィスも聞き覚えがないと言われてチャンスは落胆する。


「あ、そうだ! 戦闘時の連携とかで必要になるし戦闘方法はどんなスタイル? 僕はこの二刀流で攻撃主体だけど、敵の襲撃の時に指示なしで即座に敵叩けるように攻撃パターン決めとかない?」
「……へぇ」


話題を変えようとチャンスがマトイに戦闘スタイルについて聞くと、マトイは感心した声を上げる。


「な、何? おかしなこと言ったかな?」
「拾われついでの護衛仕事で、真面目に考えてる。僕は、そういうの真面目なのって嫌いじゃないよ? えらい」
「……ども」


マトイはえらいえらいと褒めながらチャンスの頭を撫でる。チャンスは子供扱いされることに不満を抱くが何故か抵抗できず、マトイに撫でられ続ける。



「よし、特別に僕のスタイル見せてあげる。よっと!」


マトイがパンッ!と手を叩くと手のひらからマスケット銃が生み出される。


「基本は遠距離が得意かな。一応近距離もできなくないけど……」
「ええっと、【練成術】、だっけ? それ……確か、錬金術の技術の一つ」
「そ、でも内緒ね?」


マトイが生み出したマスケット銃を見てチャンスは驚く。そしてマトイは自分の能力を当てたチャンスに微笑みながら内緒ねと言ってチャンスの唇に人差し指を当てて口を閉ざさせる。


「人によっては手の内を見せたくない相手だっているしね。そういう意味では、君は合格ってことさ」
「旦那様、そろそろ野営の準備をしないと日が暮れますよ」
「おや、もうそんな時間かい? 馬車を止めれる場所があればそこで野営しよう」


御者のリマスの声で3人が馬車の窓から空を見上げれば、季節が冬に移り変わっていくせいか、遠くの空が茜色に染まり始めている。


王の街道と呼ばれていたこの街道には一定の距離ごとに水場や野営が出来る開けた場所が有り、その一つに馬車を止めて野営の準備を始める。


チャンス達が野営準備をしているのを森の奥から監視している集団がいた。


「護衛が二人か……どうする?」
「早々に荷を盗んで逃げるぞ、無駄に戦う必要はない」
「ああ、これで明日は子供に食わせてやれる」
「ああ、生きるために仕方がないんだ」


野営準備を監視していたのはこの王の街道近隣に点在する村の農民たち。
不作で農作物が育たず、種籾すら税として取り上げられ飢えて盗賊化した農民の集団だった。


「……信じていいんだな」


盗賊化した農民の一人が集団の後ろにいたローブを纏い、フードで顔を隠した人物に声をかける。


「もちろんだ、哀れな村人たちよ。君らには、生きる資格がある。君らは、少ない実りを領主に奪われた。それも、領主が君らよりも力を持つからだ。秩序とは、力を背景にして成り立つもの――」


ローブ姿の人物は囁くようなか細い声で、それでいて農民たち全員の耳に届く声で喋る。


「奪われて死にたくなくば、弱者から奪い生き残れ。弱肉強食が世の摂理ならば、君らが強者となればよいのだ。案ずるな、我が魔術で手助けしてやる。あのような護衛、恐るるに足らず」
「……あてにしているよ」


ローブ姿の男の声を聞いた農民達は鋤や鎌、果ては太い木の枝を棍棒替わりに手に持ってチャンスたちがいる馬車へと走っていった。


「無論、我もあてにはしているよ。ククククク……」


ローブ姿の人物は愉快そうに嗤っていた。


          

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