愛と等価

こむぎ子

再開(2)

衝動を口内で噛み殺し、私は周りを確認してから急いで彼を家の中にあげた。どうしよう。これからのことは何も考えていないが、彼を玄関先にそのままにしておくのもどうかと思った。
彼は何も語らずただ呆然と立っていたので、とりあえず風呂に入ることを勧めた。彼は無言で従った。日はもう落ちているし着替えは明日にしよう。何があったのかは今聞くべきではないのだろう。知りたいのは山々だが、あの様子では語るに語れないだろう。
…我ながらよく殺人鬼を招き入れられたものだと思う。過去に好きな人であったとしても、彼の背中に憧れてきたとしても
…いや、だからかな、彼に再開した途端、私は恐怖より真っ先に期待を裏切られた絶望感に押し潰された。
ならば、警察に通報してしまえばいいものを

それでも私は愛してやまないらしい。
たとえ道を踏み間違えても、私の知っている彼と全くの別人になっていても、それでも、私の家に訪れてくれたことに、その喜びに、優越感に、負けたのだろう。

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