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#5 Hot milk


また、放課後。
俺は昨日の事もあって、いつもの場所へは行きづらかったから、久しぶりに知り合いが働いているカフェへ行くことにした。




飾り付けされた木製のカフェのドアを開くと、軽やかなベルの音が店内に鳴り、優しいコーヒーの香りがふんわりと俺を出迎えた。

「いらっしゃいま...翼じゃないか。珍しいね、久しぶり。」
カフェの制服を着たじんさんは俺を見るなり、パッと顔を輝かせた。

「2週間ぶり、仁さん。またホットミルクが飲みたいと思って。」

「わかってるさ、嬉しいよ。俺が奢るから、奥のカウンターに座って。」
仁さんは俺の住むアパートの一階に住んでいる大学生で、今年でご近所さん3年目になる。人柄が良いから、俺にとっては頼れる兄貴的な存在でもある。

「運がいいね、翼。今日は客もまちまちだし、ゆっくりできそうだよ。はい、ホットミルク。」

「ありがとう。」

「ところでその首の傷はどうしたんだ?」
俺は一瞬ドキッとしたが、キスの事は隠しながら昨日の事と櫻宮の事を簡単に話した。

「...って感じの人でさ。初めはビックリしたよ、金髪のクォーターだなんて。」

「ん?もしかするとその人、うちの常連かもな。今年の春からよく金髪のモデルみたいなお客さんが来てくれてるんだ。女性従業員が騒いでた。」
今年の春から...というあたり、俺はなんとなく櫻宮だと確信した。それから仁さんがカウンターを離れている間、店内を見回した。櫻宮はいつもどの席で飲むのだろう...もしかして彼女と来ていたり...といった事を自然に考えてしまい、自分が少し恥ずかしくなった。

それから俺が仁さんと他愛もない話題に花を咲かせたりしているうちに、すっかり外は暗くなっていた。

「なあ翼、今日もどうせ歩きだろ。そしたら俺も今から帰りだし乗ってきなよ。ついでに大したものもないけどさ、夕飯一緒に食べないか?」

「いや、でも...」

「遠慮すんなって、ともえも喜ぶ。」
ともえというのは、仁さんの妹で一応俺のクラスメイトだ。今まで学校でもプライベートでもあまり話したことがないから、俺は仁さんが言った〝喜ぶ〟に僅かな違和感を覚えた。




結局仁さんにアパートまで乗せてもらい、夕飯までご馳走されることになった。彼は料理が得意で、年下の面倒見も良いから、まさに頼れる兄貴...といった感じがする。

「ただいまー」
仁さんが声をかけると、中から金井かないさんが出てきて嬉しそうにおかえりなさい...と言いかけた途中で俺と目が合いぎょっとしている。

「お、お邪魔します。」

「谷川君、どうして?」
少し気まずい空気が流れたのを仁さんも感じたのか、慌てて間に入ってくれる。

「俺が夕飯食べて行かないかって誘ったんだよ。」

「お兄ちゃん、そういう事なら早く連絡してよ。...谷川君、部屋ちょっと汚いけど良かったらゆっくりしていってね。」

「気にしてない...ありがと、金井さん。」
それから出されたお茶を飲みながらしばらく待っていると、テーブルにツヤツヤの素麺と、揚げたての天ぷらがいい匂いをさせて運ばれてきた。

「ほとんどまかないなんだけど...悪いね。」
仁さんが紺色のエプロンを外しながら、申し訳なさそうに笑っている。しかし俺はお構い無しに料理に目を輝かせていた。天ぷらの香ばしい香りが食欲をそそる。

しばらく食べてから、俺達は将来の話や、過去の話、学校生活の話などで盛り上がった。聞けば仁さんは大学であまり勉強が上手くいかず、悩んでいるようだった。金井さんは、最近学校で話題の有馬ありまさんと友達になったらしい。
そのうち時刻は日付の変わる頃になった。
仁さんは若干頬を赤らめ酔っているようだが起きていて、金井さんはそのまま床で寝てしまったようだ。

「翼、外まで送る。」
俺は仁さんに言われて外へ出た。

外はまだ、じんわりと夏らしい熱気を帯びていた。

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コメント

  • 砂糖漬け

    続きがとても気になります、楽しみにしています…!

    4
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