ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

魔導船での宴会

「じゃあ第1階層踏破を祝して!」

「「「「かんぱーい!」」」」

 僕の乾杯の音頭にみんなの声が続く。
 第1階層を踏破して帰ってきた僕達は、魔導船の食堂で宴会をしていた。
 母様に今日の出来事を伝えたら、急遽お祝いをしようとなったのだ。

 メンバーは、僕達のパーティ、母様、バロン、マリーシアさんとアレシア……
 アレスおじさん以外の全員だ。

「みんな、おめでとう!」

 母様がそう言った後、バロンとマリーシアさんが料理を運んでくる。

「坊ちゃん、リーチェお嬢様、おめでとうございます。リュークとリューネもよく頑張りましたね」

「みなさん、おめでとうございます。探索を初めてまだ数日と聞きましたが……すごいですね」

 アレシアもコクコクと頷いている。

「みんな、ありがとう!」

 僕に続いて、他のみんなもお礼を言う。

「さあ、いっぱい食べましょう!」

 母様に促されて、僕達は料理へと目を向ける。

 食堂のテーブルには、バロンとマリーシアさんが作った料理が並んでいた。
 パンやサラダにシチュー、ソーセージや肉の香草焼きなどがある。
 これらは、バロンとマリーシアさんとアレシアが作ったものだ。
 今日の夕飯は、パンとシチューだけのようだったが、急遽ありあわせで色々と用意してくれた。
 本当にありがたい。

 僕は持ち手がハサミっぽいトングを手に取り、ソーセージを自分の取り皿へと移す。

 ソーセージは、肉がギュッっと詰まっているようだ。
 テカテカとしていてかなり美味しそうに見える。
 ……数もあまり多くないので、数本だけ確保しておこう。

 僕はフォークをソーセージへと突き刺す。

 パリュッ!

 ソーセージからは肉汁が溢れ出した。
 僕はそのままソーセージを口へと運ぶ。

 パキッ!

 その爽快な音とともにソーセージの肉汁がはじけた。
 ワンテンポ遅れて、肉と香草の良い香りが広がる。

「おいしい!」

 何の肉かはわからないけど、すごく美味しい!
 肉の旨味とスパイスのピリッとした感じが絶妙にマッチしている。
 くどくもないし、これって結構お高いものなんじゃ……

「クー!」

 隣のリーチェの席からアステルの鳴き声が聞こえてきた。
 ふと目を向けると、机の上をよじ登ったアステルが高速移動して迫ってくる。
 リーチェは、急に動き出したアステルを止めようとしたが、向き先が僕だと知ってスルーした。

「えっ? そこ止めるとこだよね?!」

 僕の取り皿の前で止まったアステルは、さっとソーセージに噛みつく。
 そして、一本まるまるを食べ終わったかと思えば、残りのソーセージに片手を乗せてこっちをガン見する。

「こ、こいつ……」

 僕を威圧しているのか?
 このソーセージはやらんという意思を感じる。
 ……なんてふてぶてしい奴なんだ。

「あと1本ぐらいは……」

 僕はフォークをソーセージへと近付ける。
 すると、アステルはソーセージを守るように尻尾を前へと出した。
 フォークの角度や位置を変えると、アステルの尻尾も追従する。
 じわじわ近付けていくと、尻尾でぺちぺちとフォークを叩いてくる。

 なんか、猫じゃらしで猫を遊んでいるみたいだな……
 そうやって何回か遊んでいると、リーチェに怒られる。

「こら。食事中に遊ばない」

「うっ、ごめん」

「ク!」

 その隙にアステルがソーセージにかぶりつく。

「「あっ……」」

 僕とリーチェから間の抜けた声が漏れる。
 その声に反応したアステルは、こちらを気にしつつもソーセージを咀嚼する。

「アステルは本当に食いしん坊だなぁ……」

 はぁ……
 仕方ない。
 新しいのを取ろう。

 そうして、僕はソーセージの皿を探す。
 ……だが、テ-ブルのどこにも見当たらない。

「あれ?」

 ソーセージの皿がない……
 どこだ?

 辺りをきょろきょろと見ていると、マリーシアさんが僕に気付く。

「あら、ルシエル君。何を探しているのですか?」

「あっはい。ソーセージを探してます」

 僕がそう言うと、マリーシアさんが申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんなさい。ソーセージはもう無くなってしまったんです……」

「そ、そうなんですか……」

 うう……
 もっとソーセージ食べたかった……

 リーチェが少し気まずそうに僕を見る。

「げ、元気出して……ね?」

「だ、大丈夫だよ。香草焼きも美味しそうだし」

 僕は震え声でそう答える。
 そんなやり取りを見ていたリュークは、僕の方へ自身の皿を差し出す。

「リ、リーダー、もしよかったら自分のやつ食べますか……?」

 リュークは名残惜しそうにソーセージを見つめている。

「い、いや、気持ちだけもらっておくよ……」

 そんなに食べたそうな顔をされたら、もらうことなんてできないよ。
 僕の分まで美味しく食べてくれ……

「ふふっ。ルシエルちゃん、またマリーシアさんに作ってもらいましょうね」

「ルシエル君、また作っておきますね」

 母様とマリーシアさんが励ましてくれた。

「楽しみにしてます!」

 そんな感じで、僕達はワイワイと料理を食べていった。
 宴会はまだまだく。

▽▽▽

 宴会も盛り上がってきた中、席移動を挟んで3つのグループができていた。
 母様とマリーシアさんとリーチェのグループ。
 リューネとアレシアとアステルのグループ。
 リュークとバロンのグループ。

 ……ってあれ?
 僕、ぼっちになってる?
 ちょっと寂しいのでどこかに混ぜてもらおう。

 少し聞き耳を立ててみる。

 母様のグループは、ダンジョン街のお菓子屋さんについてを話していた。
 リューネのグループは、アステルと一緒に遊んでいる感じだ。
 リュークのグループは、ダンジョンでのことについてを話している。

 さて、僕はどのグループに行こう……
 全部のグループを回るっていうのもありだけど。

▽▽▽

 まずは、男グループだ。
 いきなり女グループへと突っ込む度胸はなかった……
 仕方ないね。

「あっ、リーダー!」

「坊ちゃん、こちらへどうぞ」

 バロンの誘導された席に座る。
 僕の正面にはリューク、隣にはバロンが座っていた。

「バロンさんにダンジョンでのことを相談していたところなんです」

「そうなんだ……」

 そういえば、リュークはよくバロンに相談しているな。
 剣の特訓や執事見習いのこともあって、弟子みたいな感じになっているからか?

 うーん。
 いつも相談に乗ってくれていたアレスおじさんもいないし、僕もバロンに相談しようかな?
 パーティメンバーや探索ペースについても、ちょっと悩んでいる部分もあるし……
 あと、ゴブリンの群れのこととかも。

「バロン、僕も相談に乗ってもらいたいことがあるんだけど……いいかな?」

「私でよければ」

 そう言ってバロンは微笑む。

「ありがとう。実は……」

 僕が一通り話した後、バロンは顎に手を当てて考える。

「ふむ……パーティメンバーの追加に関してですが、今の坊ちゃんのパーティは、前衛に偏っているので後衛の戦力も必要かと思います」

 バロンの言うことはもっともだ。
 リーチェを除くと、僕は槍と鞭、リュークは大剣、リューネは槍と盾といった前衛3人になる。
 これはどうにかしたいと思っている部分だ。

「うん。僕達のパーティには後衛が足りていない。次は後衛メンバーを追加したいところだね」

「できれば斥候役と回復役を確保したいところですね。斥候が1人いるだけでも、探索のペースは今以上に良くなるはずです」

「……確かに、斥候役と回復役がいたら安全に探索ができるだろうね」

 僕がそう言うと、苦々しい顔をしたリュークが頷く。

「ゴブリンの不意打ちには、苦しめられましたからね……」

「そうだよね……無駄に警戒していた部分もあったし、やっぱり斥候は必要そうだ。僕の中での優先度を上げておくよ」

 そこで、バロンが小声で僕に話しかけてくる。
 リュークには聞こえないぐらいの絶妙な感じだ。

「それと、ゴブリンの群れですが、ウロボロスが関わっているとなるとやっかいですね。冒険者ギルドへの報告はもちろんですが、四竜公であるエウロス様にも伝えておいた方がよさそうですね」

 僕も小声で返す。

「まだ確証はないんだけどね。念のため、明日の午前中にエウロスさんのところに行って伝えておくよ」

「ええ。こちらも警戒だけはしておきます」

 僕はバロンに小さく頷く。
 リュークには聞こえていないようで、不思議そうに僕とバロンを見ている。

 ウロボロスの件については、リューク達とマリーシアさん達には話していない。
 エウロスさんからは秘密にするように言われているし、余計な不安を抱かせるわけにもいかない。
 リューク達には話してもいいと思うんだけどね……
 これについても明日聞いてみよう。

「坊ちゃん。そういえば、オークションに行くと聞きましたが、そこで奴隷を買うのですか?」

 バロンはふと思い出したかのように僕にそう問いかける。

「えっ? リーダー、オークションに参加するんですか?! あれって偉い人しか参加できないやつなのに……」

 あー、そうだった。
 バロンと母様にはアレスおじさんから話がいってるけど、リューク達には言ってなかったな。

「うん。なりゆきでね。オークションで奴隷を買うつもりだよ」

「……もしかして、自分達ってすごい人達に拾われたのかな?」

 リュークがぼそっと呟く。

 いや、運が良かっただけなんだけどね……
 エウロスさんと知り合いだったアレスおじさんがすごいだけだし。

「なるほど。……アレス様が不在ですが問題ないのでしょうか?」

「うん。紹介状は僕が持っているから参加できるよ。名前も僕のものだし問題ないはずだ。……あっ、当日はバロンに一緒に来てもらいたいんだけどいいかな?」

 いくら紹介状があるっていっても、子供の僕だけだと相手にしてもらえないかもしれないしね。
 バロンに一緒に来てもらえれば大丈夫だろう。

 僕がそう聞くと、バロンは少し考えた後に頷いた。

「ええ、構いませんよ。ただ、ラスティナ様も行きたいとおっしゃるはずなので、坊ちゃんからお誘いしてみてください。……きっと喜ばれますよ」

「バロン、ありがとう! じゃあ、さっそく母様に聞いてくるよ」

 そう言って僕は席を立つ。

「ええ、いってらっしゃいませ」

「リーダー、いってらっしゃいです」

 こうして、バロンとリュークに送り出された僕は、次のグループへと向かうのであった。
 次は母様とマリーシアさんとリーチェのグループだ。

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