ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件
まずいですよおじさん
辺りは夕暮れ時、北区の奴隷商館を出た僕達は魔導船へと走る。
ここから南区の門の外にある魔導船までは結構距離がある。
魔導船に着くころには、もう夕食が終わる頃だろう。
そんな時間まで無断でぶらついていたんだ。
きっと、母様に怒られて、バロンに小言を言われて、リーチェの地獄の特訓が始まることになると思う。
しかも、まだ小さいアステルを連れたまま遅くまでぶらついているので、いつも以上に厳しくなる気がする……
「クー!」
僕の首に巻きついていたアステルは、急に大きい声を出す。
どうやら、走った揺れで目が覚めたみたいだ。
「ご、ごめんよ。アステル、起きちゃったか」
「クー」
アステルが起きてしまったので、僕は立ち止まってアステルを抱きしめる。
僕が止まったことに気付いたアレスおじさんは、僕のもとへと戻ってくる。
「ルシエルどうしたんだ? ……あー、アステルが起きたのか。だったらしょうがないな。歩いて帰ろう」
「そうだね。もう地獄の特訓を受け入れるしかないね……」
そんなときにアステルが、僕の腕の中でじたばたとする。
「クー!」
「ど、どうしたの?」
アステルの向いている方向を見てみると、そこにはこぢんまりとしたお店があった。
そのお店からはパンのいい匂いがしている。
おそらくだが、パン屋なのかもしれない。
アステルはお腹が空いてるから鳴いているのかもしれない。
そういえば、昼から何も食べてないしね……
「アレスおじさん。たぶんだけど、アステルはお腹が空いてるのかもしれない。あのお店で何か食べ物を買ってもいいかな?」
僕がそう言うと、アレスおじさんは困った顔をする。
「うーん。あんまり食べると、晩御飯が食べられなくなるかもしれないしな……少しだけならいいと思うぞ」
「わかった。じゃあ、あのお店に入るね」
「ああ。盾の件もあるんだ。パンなら俺がいくらでも買ってやるぞ!」
それはありがたいな……
結局、まだ小切手をお金に変えていないから、僕の財布にはお金が入ってないし。
そうして、僕達はアステルが見つめているお店へと入る。
カランカラン……
僕は入り口から店内を見渡す。
店内は狭くて少し古びた感じだったけど、清掃は行き届いているようだった。
入り口から真っすぐ行くとカウンターがある。
左側の壁と右側の壁には、籠を置く棚があり、籠の中にはいくつかのパンが入っていた。
少しだけど、丸いドーナツのようなお菓子が入った籠もある。
この丸いドーナツみたいなのってなんだっけな……?
サーターアンダギーだっけ?
「このお菓子は……」
アレスおじさんは、サーターアンダギーっぽいお菓子を見てそうつぶやいた。
そこで、僕はアレスおじさんの思惑に気付く。
……なるほどね。
お菓子をお土産にして、被害を少しでも抑えるといったところか……
アレスおじさんも意外と策士だな。
僕がそう考えていると、カウンターの影からこっちを見ている女の子が見えた。
その女の子は、僕と目が合うとビクッとして姿を現す。
茶髪をポニーテールにした黄色いまん丸の目をした女の子。
僕よりも身長が少し高いので、年上な感じがする。
そんな女の子が、おどおどとした様子で僕に声をかけてきた。
「あ、あの? お客さんですか……?」
人見知りの店員さんなのかな?
見た感じかなり緊張しているようだ。
アステルを話題にして、緊張をほぐして笑顔にできないかな……?
「うん。晩御飯前に少しお腹が空いちゃってね。あっ、僕じゃなくてこの子だよ」
「クー」
僕はアステルを女の子の前に差し出してみる。
アステルは、手足と尻尾をぶらーんとさせた状態で女の子を見つめている。
「か、可愛いです……」
どうやら、この女の子はアステルに興味を示してくれたようだ。
「アレシア? お客さんが来たの?」
そこで、カウンターの奥から、トレイにお菓子を乗せたお姉さんが出てきた。
お姉さんは、オレンジ色の長髪で、女の子とよく似た黄色いまん丸の目をしている。
そのお姉さんと女の子は、どちらも小さな角を生やした竜人族で、姉妹のようにも見えた。
お姉さんは僕を見てにっこりと笑う。
「あら、小さなお客さんですね。1人で来たの……ッ!?」
カラン、カラン……
お姉さんが落としたトレイの音が店内に響く。
トレイに乗っていたサーターアンダギーっぽいお菓子が、アレスおじさんの足元へと転がる。
「あっ……」
お姉さんの視線はアレスおじさんへと注がれている。
「お母さん、どうしたの!」
突然のことに女の子が大きな声を出す。
どうやら、お姉さんだと思っていた女性は、この女の子のお母さんだったらしい。
アレスおじさんは、転がってきたお菓子を拾い上げる。
その後、お姉さんのほうを見て驚愕した。
「もしかして、マリーシアか……?」
「も、もしかして、アレス様……ですか……?」
2人の声が重なり、しばらく沈黙した時間が流れた。
そして、その沈黙を破る爆弾が投下される。
「えっ? ……私のお父さんなんですか?」
えっ?
女の子のつぶやきによって、一気に重い空気へと様変わりした。
どういうこと?
この女の子は、アレスおじさんの娘?
このお姉さんは、女の子にお母さんと言われていた。
つまり、アレスおじさんとこのお姉さんは……
これは……
まずいですよアレスおじさん。
「アレスおじさん。僕、ちょっと先に帰ってるね? 大丈夫、今日のことは誰にも言わないから……」
僕は逃げようとしたが、アレスおじさんに肩をがっしりと掴まれる。
「ちょっと待て。少しでいいから弁明させてくれ」
とりあえず、アステルにはお菓子を与えておき、アレスおじさんの話を聞いてみた。
まず、このお姉さんはマリーシアさんというらしい。
マリーシアさんは、20年前にアレスおじさんが奴隷として雇っていた使用人だ。
クリステーレ家の試練が終わった後に奴隷から解放して、数年は暮らしていけるほどの謝礼金を渡していた。
その後は、他に解放した奴隷仲間や知り合いの冒険者達と細々と暮らしていくと聞いていた。
ここまでは、アレスおじさんの話だ。
その話をマリーシアさんが引き継ぐ。
まず、受け取ったお金で空き家だったこのお店を購入して、パン屋を経営することにした。
しかし、その後に子供を身籠っていることが発覚する。
その後、一緒に解放された奴隷仲間達に支えられて子供を出産する。
その子供というのが、目の前にいるアレシアという女の子だ。
マリーシアさんの話を聞いて、アレスおじさんは呆然とする。
そこまで聞いて、僕は疑問に思ったことを聞く。
「そうだったんですか……でも、アレスおじさんの子供って言っても、どのタイミングでその……致したんですか?」
致したと言われて、マリーシアさんとアレシアは首をかしげる。
少ししてから、マリーシアさんが理解したという表情で頷く。
「実は、アレス様の奴隷から解放される際、無理を言って一度だけお情けを頂けたのです。それ以外には、その……致すこともありませんでしたので、アレシアはアレス様の子供で間違いありません。アレシアの髪の色は、アレス様から受け継いでいますよ」
僕はアレスおじさんとアレシアの髪の色を見比べる。
「……確かに全く同じ色ですね」
アレスおじさん、これは言い逃れできないぞ……
「アレスおじさん。僕の記憶が正しければ、アレスおじさんはドラグヘイムにいた頃に婚約してたって聞いたんだけど……?」
僕がそう言うと、アレスおじさんはビクッと肩を震わせた。
「……はい。リーディアと婚約してました。というか、その頃はリーディアもカイルを身籠っていました。まさか一度きりで身籠るとは……」
リーディアおばさんも身籠っていたのか……
リーディアおばさんは、僕達が住んでいたアリステラ王国のガルディア伯爵家という武家の名門の次女だ。
クリステーレ家は男爵だから貴族階級的には、男爵、子爵、伯爵と2つ上となる。
リーディアおばさんは、社交界でアレスおじさんに一目ぼれして婚約を結んだと聞いている。
その後、アレスおじさんと一緒にいられないことに悲しみ、こっそりとドラグヘイムについて来たんだっけか?
一緒にパーティを組んで、ダンジョンに挑戦したとも聞いている。
「てことは、リーディアおばさんとマリーシアさんは顔見知りなのかな? だったら、最悪は受け入れてもらえそうだけど……」
そう言うと、アレスおじさんは高速で首を横に振る。
「リーディアとマリーシアはあまり仲が良くないんだ……! もしも、この件がバレたら俺の命が危ない……!」
「確かに、リーディア様とはあまりいい思い出がありませんね。うふふ、うふふふふ……」
マリーシアさんは笑っているが、目は笑っていない。
リーディアおばさんの話になると怖くなるんだな……
このマリーシアさんを初めて見たのか、アレシアの手が震えてるよ。
「でも、どうしよう? このままにしておくのもマズいよね……」
「いえ。アレス様に迷惑をかけるわけにはいきません。私達はここで細々と暮らしていきます。……私はアレシアを授かれただけでも幸せですから」
マリーシアさんはそういって微笑む。
だが、アレシアは暗い顔をしてうつむき、チラチラとアレスおじさんを見ている。
アレスおじさんは混乱していて今は使い物にならない。
僕は、アレシアの震えている手を握りしめる。
アレシアは驚いて僕を見る。
「ダメです!」
急に大きな声を出した僕にみんなの視線が集まる。
「マリーシアさんはそれで幸せかもしれません。でも、アレシアはどうなんでしょうか?」
「「えっ?」」
「アレシアは今日初めて父親と出会いました。色々と言いたいことややりたいこともあると思います」
僕はアレシアを見て問う。
「アレシアはどうしたい?」
「わ、私は……」
アレシアは、マリーシアさんとアレスおじさんを見る。
その後、僕を見て口を開く。
「わ、私はお父さんのことがもっと知りたい! お母さんとお父さんと一緒に暮らしたい!」
「アレシア……」
マリーシアさんは、苦い表情をしてアレシアを見つめる。
「アレスおじさん……もう覚悟決めようよ。男なら責任を取ろう。僕の知ってるアレスおじさんは、家族を守るために体を張るかっこいい人だよ?」
僕がそう言うと、アレスおじさんが少し目を閉じた後に真剣な顔となる。
「……ああ。俺がしっかりしないとな。よし! マリーシア、アレシア! 俺と一緒に暮らそう! 父上もリーディアもその他もろもろも、俺が何とかしてみせる!」
「アレス様……」
「お父さん……」
アレシアは僕の手をギュッと握り返してくる。
「ありがとう」
アレシアはそう言って、涙を流しながら笑う。
僕はここで始めてアレシアの笑顔を見ることができたのであった。
ここから南区の門の外にある魔導船までは結構距離がある。
魔導船に着くころには、もう夕食が終わる頃だろう。
そんな時間まで無断でぶらついていたんだ。
きっと、母様に怒られて、バロンに小言を言われて、リーチェの地獄の特訓が始まることになると思う。
しかも、まだ小さいアステルを連れたまま遅くまでぶらついているので、いつも以上に厳しくなる気がする……
「クー!」
僕の首に巻きついていたアステルは、急に大きい声を出す。
どうやら、走った揺れで目が覚めたみたいだ。
「ご、ごめんよ。アステル、起きちゃったか」
「クー」
アステルが起きてしまったので、僕は立ち止まってアステルを抱きしめる。
僕が止まったことに気付いたアレスおじさんは、僕のもとへと戻ってくる。
「ルシエルどうしたんだ? ……あー、アステルが起きたのか。だったらしょうがないな。歩いて帰ろう」
「そうだね。もう地獄の特訓を受け入れるしかないね……」
そんなときにアステルが、僕の腕の中でじたばたとする。
「クー!」
「ど、どうしたの?」
アステルの向いている方向を見てみると、そこにはこぢんまりとしたお店があった。
そのお店からはパンのいい匂いがしている。
おそらくだが、パン屋なのかもしれない。
アステルはお腹が空いてるから鳴いているのかもしれない。
そういえば、昼から何も食べてないしね……
「アレスおじさん。たぶんだけど、アステルはお腹が空いてるのかもしれない。あのお店で何か食べ物を買ってもいいかな?」
僕がそう言うと、アレスおじさんは困った顔をする。
「うーん。あんまり食べると、晩御飯が食べられなくなるかもしれないしな……少しだけならいいと思うぞ」
「わかった。じゃあ、あのお店に入るね」
「ああ。盾の件もあるんだ。パンなら俺がいくらでも買ってやるぞ!」
それはありがたいな……
結局、まだ小切手をお金に変えていないから、僕の財布にはお金が入ってないし。
そうして、僕達はアステルが見つめているお店へと入る。
カランカラン……
僕は入り口から店内を見渡す。
店内は狭くて少し古びた感じだったけど、清掃は行き届いているようだった。
入り口から真っすぐ行くとカウンターがある。
左側の壁と右側の壁には、籠を置く棚があり、籠の中にはいくつかのパンが入っていた。
少しだけど、丸いドーナツのようなお菓子が入った籠もある。
この丸いドーナツみたいなのってなんだっけな……?
サーターアンダギーだっけ?
「このお菓子は……」
アレスおじさんは、サーターアンダギーっぽいお菓子を見てそうつぶやいた。
そこで、僕はアレスおじさんの思惑に気付く。
……なるほどね。
お菓子をお土産にして、被害を少しでも抑えるといったところか……
アレスおじさんも意外と策士だな。
僕がそう考えていると、カウンターの影からこっちを見ている女の子が見えた。
その女の子は、僕と目が合うとビクッとして姿を現す。
茶髪をポニーテールにした黄色いまん丸の目をした女の子。
僕よりも身長が少し高いので、年上な感じがする。
そんな女の子が、おどおどとした様子で僕に声をかけてきた。
「あ、あの? お客さんですか……?」
人見知りの店員さんなのかな?
見た感じかなり緊張しているようだ。
アステルを話題にして、緊張をほぐして笑顔にできないかな……?
「うん。晩御飯前に少しお腹が空いちゃってね。あっ、僕じゃなくてこの子だよ」
「クー」
僕はアステルを女の子の前に差し出してみる。
アステルは、手足と尻尾をぶらーんとさせた状態で女の子を見つめている。
「か、可愛いです……」
どうやら、この女の子はアステルに興味を示してくれたようだ。
「アレシア? お客さんが来たの?」
そこで、カウンターの奥から、トレイにお菓子を乗せたお姉さんが出てきた。
お姉さんは、オレンジ色の長髪で、女の子とよく似た黄色いまん丸の目をしている。
そのお姉さんと女の子は、どちらも小さな角を生やした竜人族で、姉妹のようにも見えた。
お姉さんは僕を見てにっこりと笑う。
「あら、小さなお客さんですね。1人で来たの……ッ!?」
カラン、カラン……
お姉さんが落としたトレイの音が店内に響く。
トレイに乗っていたサーターアンダギーっぽいお菓子が、アレスおじさんの足元へと転がる。
「あっ……」
お姉さんの視線はアレスおじさんへと注がれている。
「お母さん、どうしたの!」
突然のことに女の子が大きな声を出す。
どうやら、お姉さんだと思っていた女性は、この女の子のお母さんだったらしい。
アレスおじさんは、転がってきたお菓子を拾い上げる。
その後、お姉さんのほうを見て驚愕した。
「もしかして、マリーシアか……?」
「も、もしかして、アレス様……ですか……?」
2人の声が重なり、しばらく沈黙した時間が流れた。
そして、その沈黙を破る爆弾が投下される。
「えっ? ……私のお父さんなんですか?」
えっ?
女の子のつぶやきによって、一気に重い空気へと様変わりした。
どういうこと?
この女の子は、アレスおじさんの娘?
このお姉さんは、女の子にお母さんと言われていた。
つまり、アレスおじさんとこのお姉さんは……
これは……
まずいですよアレスおじさん。
「アレスおじさん。僕、ちょっと先に帰ってるね? 大丈夫、今日のことは誰にも言わないから……」
僕は逃げようとしたが、アレスおじさんに肩をがっしりと掴まれる。
「ちょっと待て。少しでいいから弁明させてくれ」
とりあえず、アステルにはお菓子を与えておき、アレスおじさんの話を聞いてみた。
まず、このお姉さんはマリーシアさんというらしい。
マリーシアさんは、20年前にアレスおじさんが奴隷として雇っていた使用人だ。
クリステーレ家の試練が終わった後に奴隷から解放して、数年は暮らしていけるほどの謝礼金を渡していた。
その後は、他に解放した奴隷仲間や知り合いの冒険者達と細々と暮らしていくと聞いていた。
ここまでは、アレスおじさんの話だ。
その話をマリーシアさんが引き継ぐ。
まず、受け取ったお金で空き家だったこのお店を購入して、パン屋を経営することにした。
しかし、その後に子供を身籠っていることが発覚する。
その後、一緒に解放された奴隷仲間達に支えられて子供を出産する。
その子供というのが、目の前にいるアレシアという女の子だ。
マリーシアさんの話を聞いて、アレスおじさんは呆然とする。
そこまで聞いて、僕は疑問に思ったことを聞く。
「そうだったんですか……でも、アレスおじさんの子供って言っても、どのタイミングでその……致したんですか?」
致したと言われて、マリーシアさんとアレシアは首をかしげる。
少ししてから、マリーシアさんが理解したという表情で頷く。
「実は、アレス様の奴隷から解放される際、無理を言って一度だけお情けを頂けたのです。それ以外には、その……致すこともありませんでしたので、アレシアはアレス様の子供で間違いありません。アレシアの髪の色は、アレス様から受け継いでいますよ」
僕はアレスおじさんとアレシアの髪の色を見比べる。
「……確かに全く同じ色ですね」
アレスおじさん、これは言い逃れできないぞ……
「アレスおじさん。僕の記憶が正しければ、アレスおじさんはドラグヘイムにいた頃に婚約してたって聞いたんだけど……?」
僕がそう言うと、アレスおじさんはビクッと肩を震わせた。
「……はい。リーディアと婚約してました。というか、その頃はリーディアもカイルを身籠っていました。まさか一度きりで身籠るとは……」
リーディアおばさんも身籠っていたのか……
リーディアおばさんは、僕達が住んでいたアリステラ王国のガルディア伯爵家という武家の名門の次女だ。
クリステーレ家は男爵だから貴族階級的には、男爵、子爵、伯爵と2つ上となる。
リーディアおばさんは、社交界でアレスおじさんに一目ぼれして婚約を結んだと聞いている。
その後、アレスおじさんと一緒にいられないことに悲しみ、こっそりとドラグヘイムについて来たんだっけか?
一緒にパーティを組んで、ダンジョンに挑戦したとも聞いている。
「てことは、リーディアおばさんとマリーシアさんは顔見知りなのかな? だったら、最悪は受け入れてもらえそうだけど……」
そう言うと、アレスおじさんは高速で首を横に振る。
「リーディアとマリーシアはあまり仲が良くないんだ……! もしも、この件がバレたら俺の命が危ない……!」
「確かに、リーディア様とはあまりいい思い出がありませんね。うふふ、うふふふふ……」
マリーシアさんは笑っているが、目は笑っていない。
リーディアおばさんの話になると怖くなるんだな……
このマリーシアさんを初めて見たのか、アレシアの手が震えてるよ。
「でも、どうしよう? このままにしておくのもマズいよね……」
「いえ。アレス様に迷惑をかけるわけにはいきません。私達はここで細々と暮らしていきます。……私はアレシアを授かれただけでも幸せですから」
マリーシアさんはそういって微笑む。
だが、アレシアは暗い顔をしてうつむき、チラチラとアレスおじさんを見ている。
アレスおじさんは混乱していて今は使い物にならない。
僕は、アレシアの震えている手を握りしめる。
アレシアは驚いて僕を見る。
「ダメです!」
急に大きな声を出した僕にみんなの視線が集まる。
「マリーシアさんはそれで幸せかもしれません。でも、アレシアはどうなんでしょうか?」
「「えっ?」」
「アレシアは今日初めて父親と出会いました。色々と言いたいことややりたいこともあると思います」
僕はアレシアを見て問う。
「アレシアはどうしたい?」
「わ、私は……」
アレシアは、マリーシアさんとアレスおじさんを見る。
その後、僕を見て口を開く。
「わ、私はお父さんのことがもっと知りたい! お母さんとお父さんと一緒に暮らしたい!」
「アレシア……」
マリーシアさんは、苦い表情をしてアレシアを見つめる。
「アレスおじさん……もう覚悟決めようよ。男なら責任を取ろう。僕の知ってるアレスおじさんは、家族を守るために体を張るかっこいい人だよ?」
僕がそう言うと、アレスおじさんが少し目を閉じた後に真剣な顔となる。
「……ああ。俺がしっかりしないとな。よし! マリーシア、アレシア! 俺と一緒に暮らそう! 父上もリーディアもその他もろもろも、俺が何とかしてみせる!」
「アレス様……」
「お父さん……」
アレシアは僕の手をギュッと握り返してくる。
「ありがとう」
アレシアはそう言って、涙を流しながら笑う。
僕はここで始めてアレシアの笑顔を見ることができたのであった。
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