ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

執事と竜人と

「あ……が……」

 私は奇襲を成功させ、サーベルを持っていた竜人を仕留めることができました。

 これで2対3……
 まだこちらが不利の状況です。
 私はその不利な状態を覆すためにも、そのまま弓を持つ竜人に向かって攻撃を仕掛けます。

 ギィィィン!

 私の細剣と相手の短剣が交差する。

「クッ! その剣! もしや魔法剣かッ?!」

「ええ。これは……いえ、敵であるあなたに教える必要はありませんね」

 そう、これはリーチェお嬢様との地獄の特訓で得た新たなスキル、光剣術。
 私がホワイトナイトからクラスアップした際に得た力です。

バロン・レイナード
レベル:60
ジョブ:ホーリーナイト
メインスキル:
「細剣術Lv5」「光魔法Lv4」「光剣術Lv2」
「肉体強化Lv5」「家事Lv4」「察知眼Lv3」

 強くなったのは坊ちゃんとアレス様とだけではありませんよ?
 私も師として、まだ坊ちゃんとアレス様に負ける訳にはいかないのです。

「不愛想な執事だ!」

「不愛想で結構です!」

 そこから、私は光剣術で相手を攻め続けます。
 相手が弓使いであることを考慮して、距離を取られないように……

 察知眼のおかげで、相手の攻撃してくるところを察知できます。
 私は相手の反応を見た後、最小限の動きで攻撃を回避、そのまま相手の左腕を切り落とします。
 左腕と共に持っていた弓も落ちました。
 これで相手の弓は封じることができましたね。

「ぐぅッ! ただの執事かと思えば……!」

 相手は距離を取ろうとしますが、その時間は与えません。
 私は一気に距離を詰めようと駆け寄ります。

「俺を忘れるんじゃねえッ!」

 ですが、先ほど大剣を刺された竜人が割り込んできました。
 手には、サーベルを持っています。
 落ちていたサーベルを拾ったようですね……

「おいッ! チャリオ、無事かッ?!」

「スランド、お前こそ無事だったか! 俺は左腕をやられた! この執事はヤバいぞ……」

 ふむ。
 どうやら、私が今さっき左腕を切断した竜人がチャリオ、大剣で腹部を刺された竜人がスランドというらしいですね。
 お互いに心配して、名前で呼び合うということは、そこそこ連携も取れるのかもしれません。

「クソがッ! 2人で行くぞッ!」

「ああ!」

 チャリオ、スランドの両名が切りかかってきます。
 ……ですが、それは全て見えています。

 私はチャリオの短剣を剣で弾き、スランドのサーベルは半身になって回避。
 そのまま、スランドの右腕を切りつけます。

 スランドは、竜人の鱗があるからなのか、そのままガードしようとしています。
 ですが、魔法耐性のない普通の竜人の鱗では、光剣術がかかっている細剣を防ぐことはできないでしょう。

「ッ! 避けろスランドッ!」

 チャリオが叫びましたが、私の剣は止まりません。
 魔法剣の魔法部分が竜の鱗を削り、剣の部分が肉と骨を断ちます。

「ぐあぁぁぁッ!」

 スランドの右腕が宙に舞う。

「愚策でしたね。物理に強い鱗でしょうが、魔法剣は防げませんよ?」

 私は、このまま追撃しようとしましたが、察知眼が攻撃の反応を捉えたので、止まって攻撃に備えます。
 それを見たチャリオは、短剣を投げようとするのを止めました。

「なるほどな。攻撃を察知するスキルを持っているのか……」

 この少しの間でスキルを見破るとは……
 大したものですね。

「ふふ。まさかバレるとは思いませんでしたよ……どこでわかったのかを聞いても?」

「敵であるあんたに教える必要はないだろ?」

「おっしゃる通りです。ですが、それがわかったところで何も変わらないのでは?」

 私はそう言って、チャリオに切りかかります。

「……それはどうかな?」

 チャリオがそう言った瞬間、私の視界全体に攻撃の察知反応が出現しました。

「?!」

 私は攻撃に備えますが、何も攻撃はありません。
 ですが、まだ視界全体には攻撃の察知反応があります。

「これは……?」

 私が驚愕している間にも、チャリオとスランドは切りかかってきました。

「くっ!」

「スランド! 察知スキルが機能しなくなった今がチャンスだ!」

「オラオラッ! さっきまでの威勢はどうしたッ!」

 私は攻撃を受け止めますが、察知眼が機能しない今、先ほどの動きは期待できません。
 ギリギリで防ぐことはできていますが、このままだとまずいですね……
 攻撃を受け損ねるのも時間の問題でしょう。
 何とか察知眼がおかしくなった原因を解消しなくては……

「おい、チャリオ! この執事、本当に察知スキルが狂ってるのかよ? 全然当たらねえぞッ!」

「それは、この執事が察知スキル抜きでも強いということだろう……」

「いやはや、苦しい状況でございます」

「そんな感じには見えないけどなッ!」

 本当に苦戦していますとも……
 幸いにも、2人の片腕を無効化できたのが救いでした。

 それにしても、察知スキルが狂うと言いましたね……
 攻撃はありませんでしたが、攻撃察知の反応が出ていました。
 ……もしや、妨害系のスキルなのかもしれません。
 となると、私が取れる対処としては……

「ふむ。察知スキルが使えないならば、攻め方を変えましょう」

 初球魔法であるボール系の魔法。
 私の所持している光魔法ならば、ライトボールとなります。
 そのライトボールを2つ発動寸前で左手に保持しておきます。

「攻め方を変えるだぁ? そんな受け身で何言ってんだかッ!」

 スランドが左手のサーベル切りかかってきます。
 そこで、私はスランドの右肩と右胸へと、ライトボールを打ち出します。
 初球魔法のライトボールくらい、楽々回避できるでしょう。
 急に魔法が飛んできて驚いたようでしたが、予想通りスランドは回避しました。
 そして、スランドの回避した先は、私が剣を突き出す左側……

 ギィィン!

「俺を忘れるなよ」

 しかし、チャリオに防がれてしまいました。

「チャリオ、助かったぜ! つい避けてしまったが、さっきのは仕組まれていたのかよ……」

「ああ、お前は誘導されたんだ。……この執事、本当に厄介だぞ」

「察知の次は誘導かよッ! やりにくいぜ!」

 何とか流れを変えられたようですが、2人を相手にするのもなかなか骨が折れますね。
 早く倒して、アレス様の援護に行かなければ……

 私は焦る気持ちを抑えながら、目の前の強敵を相手にするのでした。

▽▽▽

 アレスおじさんとバロンが戦闘に向かった後、僕達は食堂から操縦室へと移動していた。

 操縦室内の壁、床、天井には、スクリーンのようなものが設置されている。
 このスクリーンは、外の様子を映すことができる魔道具だ。
 僕達は、この魔道具からアレスおじさんとバロンの戦闘を見ていた。

「す、すごい……あの土壇場で聖盾を使うなんて……」

「ええ。特訓した甲斐があったようね」

「お母さんは心臓が止まりかけたわ……」

 本当に危なかった。
 あのまま大剣の一撃を受けていたら、アレスおじさんの右腕が切断されていたはずだ……
 上手く反撃して、相手をぶっ飛ばすことができて良かった。

「でも、バロンの方も苦戦しているわね……」

 バロンも1人で2人の竜人を相手にしている。

「ええ。でもバロンなら大丈夫でしょう。戦ってみたけど、おじさまより強かったわよ?」

 そうなのか……
 バロンってアレスおじさんよりも強いのか。
 言われてみれば、バロンがアレスおじさんの攻撃を受けたところ見たことないや……

「ねえ? 2人とも、あの遠くに見えるのって何かしら?」

 僕とリーチェが話していると、母様がスクリーンを指さして言った。

「何かが飛んでるように見えるわね……ワイバーンかしら?」

「数は5つ……かな?」

 ダンジョン街の方向から、ここに向かってワイバーンのような魔物が飛んでくる。
 僕達は目をこらして注目する。

 ワイバーンのような魔物に全身装備の騎士のような人が騎乗している。
 騎士の後ろには、5人ほどの竜人が見えた。
 それが5セットだ。

 もしや、エウロスさんの援軍か?
 そう思って喜びそうになるが、その竜人たちは、仮面を着けて顔を隠していた。
 そう、アレスおじさんとバロンが今戦っている竜人達と同じ仮面を着けていたのだ……

「まずいわ! この人達、敵の援軍よ! 障壁、起動!」

 母様が障壁の魔道具を起動する。
 この魔道具は、少し起動に時間がかかるが、魔導船を覆うように球体の障壁を張ることができる。

「……2人ともごめんなさい。ワイバーンを1体通してしまったわ」

 母様が絶望した顔でそう言った。
 僕は手を力いっぱい握りしめ、重い口を開く。

「……リーチェ、母様と卵をお願い」

「もしかして、1人で行くつもり? 私も行くわ」

 リーチェがそう言ってくれる。
 確かにリーチェが出れば、すぐに倒せるかもしれない。
 でも、外にはまだ4体のワイバーンと多くの竜人達がいて、障壁を破られる可能性もある。

「いや、リーチェは残りの4体のワイバーンと竜人を警戒して。それで母様と卵を守ってほしい……」

「でも、おじさまとバロンでも苦戦するような相手よ? それも数が多いわ。あなた1人だと……」

「大丈夫だよ。……それに僕も男なんだ。ここで少しはいい格好をさせてほしい」

 アレスおじさんとバロンが、僕達のために体を張って戦ってくれているんだ。
 僕も見ているだけじゃなくて、みんなのために何かしたい!

「それでも……」

 リーチェが心配そうな顔をする。

「リーチェちゃん……行かせてあげなさい」

 母様は辛そうな顔をしていたが、僕を後押ししてくれた。

「お義母様……でも……」

「ルシエルちゃん、ちゃんと帰ってくるのよ? もし、ルシエルちゃんが死んじゃったら、母様もすぐに後を追うからね?」

「……ちゃんと帰ってくるよ。約束したでしょ? 母様よりも長生きするって」

 僕はリーチェに振り返る。

「リーチェ、大丈夫だよ。ほら、出し惜しみ無しで本気の装備で行くから! 僕もやるときはやるってところを見てて!」

 僕は心配をかけないうように笑ってごまかす。

「……ええ。わかったわ。もし、あなたが死んだら、私も後を追うわね? この国を滅ぼしてから」

 リーチェは物騒なことを言いながら微笑む。
 本当にやりかねないのが怖い……
 2人のためにも、罪のないドラグヘイムのみんなのためにも、僕は生きて帰らないと……

「じゃあ、行ってくるね! 絶対戻ってくるから安心してね!」

 僕はそう言ってワイバーンの援軍のもとへと駆け出した。

「……声も手も震えてるくせに……バカ」

 リーチェが何か言った気がしたが、僕は振り返らずに走り続けた。

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