ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

ドラゴンテイマーの力

 僕は、辺りを警戒しながら甲板後方部へと向かう。
 まだ魔導船の障壁は破られていないようだ。
 今のうちに魔導船にいる敵を全滅させておきたい。

 それにしても、いつもよりも体が軽い。
 さっきの戦闘でレベルアップしたのかな……?
 メニュー! ステータス!

ルシエル・クリステーレ
レベル:26
ジョブ:ドラゴンテイマー
メインスキル:
「テイムLv1」「肉体強化Lv2」
サブスキル:
「鞭術Lv10」「異次元牧場Lv10」「言語翻訳Lv10」「成長補正Lv2」

 レベルが一気に10以上も上がっている……!
 レベル20で得たスキルは肉体強化。
 あと、地味に成長補正のレベルが上がっているな……

 何にせよ、パッシブの強化系スキルは助かる。
 今の子供の身体能力だと厳しいからね……

 甲板後方は、帆の影で覆われていた。
 影にかかった僕の体が消える。
 これはシャドウコートの効果だ。

 僕は姿を消した状態で、バロンとアレスおじさんの状況を確認する。

 アレスおじさんは、相手の攻撃を受け流して、槍で切るように攻撃していた。
 敵の方は、槍の間合いよりも内側に入り込もうとしているように見える。
 武器は持っておらず、素早く力任せに殴っている。

 バロンは、2人の竜人を相手に魔法で牽制けんせいしながら、切りかかっていた。
 2人の竜人は、どちらも腕を失っていたが、傷が既にふさがっている。
 1人はサーベルで、もう1人は短剣でバロンへと切りかかる。
 バロンは魔法と剣技で防ぎ切っているが、既に見切られ始めているようだ。
 バロンの表情も苦しそうに見える。

 なんだこの竜人達は……
 さっきの奴らとは全然違う……!

 この竜人達は、攻撃、防御、回避の全てにおいて、さっきの奴らを圧倒していた。
 僕が倒した奴らが下っ端クラスで、目の前の竜人達は幹部クラスだと言われても納得できる。

 アレスおじさんは余裕があるが、バロンが少し危ないように見えた。
 僕はバロンの援護をするために身を潜めてチャンスをうかがう。

 ……1回だけでいい。
 この鞭が相手に1回だけでも触れられたら戦況は変わるはずだ。

 僕は、確実に当てられるタイミングを待つ。
 バロンと2人の竜人の切り合いは続く。
 しばらくして、バロンが光の壁を出して敵2人を分断した。

 今だッ!

 ヒュンッ!

 僕の振るった鞭が、サーベルを持つ竜人へと向かっていく。

「スランド! 後ろだッ!」

 もう1人の竜人が、僕の攻撃に気付いて叫ぶ。
 その声を聞いたスランドと呼ばれた竜人は、サーベルで鞭を弾いた。

 くそ! 外してしまった!
 でも、まだだッ!

 僕はそのまま鞭を振るって、再度攻撃を仕掛ける。

 ヒュンッ! バチン! バチン!

 しかし、その攻撃も躱されてしまう。

「そこに隠れてるやつ! コソコソしないで出て来いよッ!」

 スランドはそう叫ぶが、そんなのに応じるつもりはない。
 僕は無言で攻撃を繰り返す。

「チッ! クソが! 姿は見えねえが何かいるのはわかってるんだぜ!」

 スランドは鞭の攻撃を躱しながら、僕へと近付いてくる。

「坊ちゃん!」

「行かせんぞ!」

 バロンが僕に気付いて、こちらに来ようとするが、もう片方の竜人に阻止される。
 そして、スランドは僕の前まで到達する。

「もらった!」

 スランドは僕に向かってサーベルを振り切った。

 スカッ。

「は?」

 今の僕はシャドウコートの効果で姿が消えた状態だ。
 この状態での僕は攻撃を受けることはない。

 呆然ぼうぜんとしているスランドに向かって、僕は鞭を振るう。
 驚いていたスランドは、鞭を躱しきれずに触れてしまう。

「ぐッ! ……な、なんだ? か、体が動かねぇ!」

 スランドが受けた状態異常は束縛のようだ。

「スランド!」

「形勢逆転ですね。行かせませんよ?」

 先ほどとはうって変わって、バロンが阻止する側となる。

「な、なにがどうなってやがる?! なんで切れてねぇ!」

 僕はスランドへと更なる攻撃を加える。

 バチン!

「それぐらいの攻撃じゃ俺は……」

 スランドは意識を失ったようだ。
 これはおそらく気絶か睡眠のどちらかだろう。

 パリィィィン……!

 そのとき、魔導船の障壁が破れる音が響いた。

「まさか……!」

 僕は結界を攻撃していたワイバーン達の方を向く。
 ワイバーンが4体、魔導船に向かって飛んでくるのが見える。

「はっはっは! これでお前らも終わりだ!」

 アレスおじさんが相手をしている竜人がそう叫んだ。

「くそ! さっさとお前を倒して、奴らも止めてみせる!」

「やってみろ!」

 そう言って、アレスおじさん達は戦闘を再開する。
 バロン達も戦闘を続けている。
 この中で動けるのは僕だけだ。

 ワイバーン達は、魔導船のすぐ近くまで来ている。
 やはりドラゴン種だけに飛行が早い。

 ……ん? まてよ? もしかすると?
 ここで、僕はこの状況を覆せるかもしれない手をひらめいた。

 僕は、頭上高くの帆に鞭を絡ませて、真上に飛ぶ。
 そのまま、帆の上に着地してワイバーン達の方を向く。
 大きく息を吸い込み、ワイバーン達に向かって叫ぶ。

「ワイバーン! 君達は、その竜人達に従わされて満足かい?!」

 急に僕が大声を出したことによって竜人達は戸惑う。

「何言ってんだあのガキ?」

「こいつは傑作だ! 俺達をどうにかするためにワイバーンを説得しようとしてるぞ!」

「ハッハッハッ! ワイバーンどもが言葉を理解するわけないのにな! 馬鹿だぜあのガキ!」

 竜人達の僕を嘲笑う声が聞こえる。
 だが、それ以外にも声は聞こえてきた。

『満足なわけないだろう! 我々は生まれた時からこいつらに隷属されられている!』

『そうだ! こいつらを食い殺してやりたいが、それすらもできない!』

『群れの仲間も全てこいつらの操り人形になってしまった!』

『我々はこの隷属から逃れることはできんのだ!』

 ワイバーン達の声が僕にはしっかりと届いた。
 そのワイバーンの声は、言語翻訳のスキルを持っている僕にしか聞こえていない。

「ワイバーン達が吠えてるぜ?」

「こいつらもあのガキを笑ってるんだろうぜ! ハッハッハッ!」

 僕は竜人達を無視して、ワイバーン達に再度叫ぶ。

「僕が! 君達を解放しよう! 僕は君達の味方だ! その隷属から逃れたいなら、僕を信じて受け入れてほしい!」

『お前みたいな小僧がどうにかできるものか!』

 一体のワイバーンが大きく吠えた。

「こんな状況で嘘なんてつかない! 僕はそういう隷属を無効化するスキルを持っているんだ! だから隷属が解けたら、こいつらを遠ざけてほしい! これから死んでいく小僧への手向けだと思って1度だけお願いします!」

『……いいだろう。そこまで言うならやってみるがいい!』

「ありがとう! いくよみんな!」

 大きく息を吸い込み、スキルを発動する。

「テイム!」

 その瞬間、ワイバーン達が光に包まれた。

「なんだ?!」

「何が起こった? 攻撃魔法か?」

「何にせよ、もうあのガキは殺そうぜ」

「おい、ワイバーン! さっさと魔導船まで飛べ!」

 竜人達がそう言うも、ワイバーン達は進まない。

「おい!」

 しびれを切らした騎手がワイバーンを足蹴りする。
 その瞬間、ワイバーンが大きな咆哮をあげた。

『黙れ! 我々の隷属が解けた今! 貴様らに従うものか!』

 ワイバーン達は竜人の指示を無視して、空高くへと舞い上がる。
 背中の竜人を振り落とすように回転しながら進む。
 ワイバーンが大きく旋回する度に竜人は地面へと落下していく。
 ワイバーンの背中にしがみついている竜人も、他のワイバーンが噛みついて喰らい尽くす。

 ……そうして、ワイバーン達に乗っていた竜人達は、全員いなくなったのであった。

▽▽▽

 私とお義母様は操縦室で、外の様子を見守っていた。

「リーチェちゃん、やったわ! 援軍も倒せたし、残りはあと2人よ!」

「そうですね。でも、まだ油断はできません。おじさまの相手は何か変です……」

 私は、真剣な顔をしてスクリーンを見つめる。

「確かに変よね。ただ戦闘を楽しんでいるだけに見えるもの」

「ええ。明らかにおじさまを圧倒できる力を持つはずなのに、おじさまを倒そうともしません。……何か別の思惑で動いているような気がします」

「いい観察眼ね。フェアリープリンセス」

 その声とともに1人の女が現れる。

「ッ!」

「誰?!」

 私は、左手だけで卵を抱え、母様をかばうようにして前に出る。
 右手には、氷のレイピアを生成する。

 目の前の女は、気が付いたらそこにいた。
 いつ出てきたのかもわからなかった……

「あなたは何者?」

「プリンセスにしては、ややおてんばなのかしら?」

「質問に答えなさい」

 私はレイピアの切っ先を目の前の女に向ける。
 さっきのは、空間移動系のスキルかしら……?
 ただものではないわね……

「私はエキドナ。あなた達を襲っている竜人達のボスよ」

 目の前の女は、目を細めて笑った……

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