ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

フェアリープリンセスの拒否

 目の前の女は、自身の名をエキドナと言った。
 黒い長髪に黄色の目。
 口元は布で覆って隠している。

 雰囲気からして、襲ってきた敵の中で一番強い……
 私がここに残っていて良かったわ。
 襲ってきた竜人達のボスだと言うけれど、なぜこのタイミングで出てきたのかしら?
 もう戦闘は終わりかけていて、相手が不利な状況だというのに……
 それだけ、私をどうにかできる自信があるというの?

「ボス自ら何の用かしら?」

 私は、エキドナに氷のレイピアを突きつけた。
 少しでもおかしな真似をしたら、すぐに仕留める。
 私がジッと睨んでいると、エキドナは両手を上にあげた。

「伝説のフェアリープリンセスと戦う気はないわ。……実際に見てわかったけど、伝説として語られているだけの強さはあるわね。この私でもあなたの力を見抜けないもの」

 私の力を見抜く?
 いつの間にか、鑑定系のスキルを使われていた?

 鑑定系のスキルは、対象とのレベル差が10以上ある場合、無効化される。
 つまり、私とのレベル差にエキドナは気付いているということ。
 それでも、こうして顔を出せるということは、何か企んでいる可能性がある。

「ふーん。戦うつもりがないということは、交渉でもしに来たのかしら?」

 そう言うと、エキドナが頷く。

 自分達から襲ってきておいて、虫のいい話ね。
 竜人達のボスだというなら、ここで私が仕留めて、全てを終わらせる。

「そんなの受ける訳ないでしょう? あなたはここで仕留めるわ」

 私はエキドナに向かって、氷のレイピアを投擲する。
 投げたレイピアの切っ先が、エキドナの喉に突き刺さった。
 しかし、エキドナの首からは血が流れない。

「……生き物ではない?」

「不思議そうな顔をしているわね? そう。この身体は生き物ではなく、ただの人形よ。だから、私がこうして敵の前に出ることができるの」

 攻撃される前提で、人形を送り込んできたのね。
 人形はいくらでもあるという感じなのかしら?
 めんどうくさそうな敵……

 私が黙っていると、エキドナが取り繕った表情で口を開く。

「まあ、交渉の内容を聞くだけでもどうかしら? 私達の目的は何かとか、何故あなた達の情報が流出しているかとか……教えてあげるから聞いてくれない?」

 そう言われた私は悩む……
 今後のためにも、目的だけでも聞いておきたいところね。

「お母様、聞くだけ聞いてみてもいいかもしれません」

 私がそう聞くと、お義母様は少しだけ頷いた。

「リーチェちゃんに任せるわ。お母さんじゃこの人をどうすることもできないし……」

 私はエキドナに刺さっている氷のレイピアを消し、再度手元にレイピアを生成する
 その後、目線でエキドナに話すように促す。

「では、交渉の内容から話すわ。こちらからの要求は、あなたが持つその卵よ。その見返りとしては、私達の全ての力を使って、あなた達が欲しいものをなんでも用意するわ。お金でも、国宝の武器でも、誰かの首でも……好きなものを用意してあげる」

 なぜそんなにもこの卵が欲しいのかしら?
 好きなものを用意すると言われても、渡すつもりはないけれど。

「なぜこの卵なのかしら?」

「その卵が膨大な魔力を秘めているからよ。……その卵の魔力量は、四竜公が放つ極大魔法100回分は確実にあるわ。それは、ダンジョン街程度なら軽く吹き飛ばす爆弾と言っても過言ではないわよ?」

 爆弾とまで言われると、少しやり過ぎた感じがするわね……
 でも、エキドナはこの爆弾を使って、なにかよからぬことをしようと企んでいる。
 なおさら渡すわけにはいかない。

「そんな爆弾をあなた達は何に使うつもり?」

 私がそう言うと、エキドナが苦い顔をする。

「それは……言えないわ。でも、そんなことには使わないわ。ちゃんと孵化させて育てるつもりよ? あと、別にその卵じゃなくてもいいの。必要な魔石と卵は私達が用意するから、それに魔力を限界まで注いでさえくれれば……」

 エキドナが何か隠しているのはわかる。
 でも、その隠していることが良いことでも悪いことでもどちらでもいい。
 エキドナ達は私達に害を加えてきた。
 それは許せるものではない。

「フェアリープリンセス、どうかしら?」

 そんなの既に決まっている。

「お断りよ。あなた達は私達を襲った。私はそれを絶対に許さない。交渉以前の問題よ」

 私の答えを聞いたエキドナは、取り繕ったような表情から無表情に変わる。

「私達を敵に回すというの? その選択、後悔するわよ?」

「構わないわ。どうせ卵を渡しても、私達を殺すつもりでしょ?」

 卵が手に入ったら、私達の要求なんて聞く必要なんてないでしょうし。
 そもそも、本当に交渉する気があるなら、襲う前に来るはず。

「……はは! その通りよ!」

 エキドナの周りの空間が裂ける。

「出なさい! マジックイーター!」

 空間の裂け目からは、人の手のひら程の大きさのワームが出現した。
 そのワームは、宙をもぞもぞと移動して近付いてくる。
 数は、ゆうに50を超え、まだまだ出てきている。

 マジックイーターが出てきたことによって、私の持っていた氷のレイピアが徐々に消えていく。
 どうやら、マジックイーターは、魔法を使えなくする空間を作ることができるみたいね……
 魔法が使えないなら、久々にあれを出そうかしら……?

「マジックイーターは、魔素や魔法を喰らい尽くす! 魔法を封じられた今! 魔法特化のフェアリープリンセスでは、何もできないは……ず?!」

 そこで、エキドナは目を剥いた。
 なぜなら、唐突に光輝く聖剣が、宙に現れたのだから……

 『花聖剣ロゼ・フルール』

 この聖剣を振るう度に雫を飛ばして花を咲かせる。
 この花には様々な種類があり、花の種類に応じた強化効果を得ることができる。
 同じ花の効果は重複しないが、この花を除去しない限り、強化効果は消えることはない。

「その剣は一体……?」

 淡い青の輝きを放つ片刃の細剣。
 水が滴る白銀の刀身は、鏡のように研ぎ澄まされている。
 ナックルガードには花の装飾が施され、花の中央には青い魔宝石が埋め込まれていた。
 その青い魔宝石は、光を浴びて煌めく水面のように眩しく、美しかった。

「ふっ!」

 私はロゼ・フルールで、周りのマジックイーターを切りつける。
 ロゼ・フルールが振るわれる度に刀身から雫が舞い、花が咲く。
 花が咲けば咲くほど、私の能力が向上する。

「お母様には近付けさせない!」

 強化された私は、止まることなく、マジックイーターを切り続ける。
 ほんの数秒、それだけで50を超えるマジックイーターは全滅した。

「そ、そんな……速過ぎる。フェアリーは魔法以外を苦手とするはず……?」

「知らなかった? 私は魔法と同じぐらい剣が得意なの」

 私は、花聖剣ロゼ・フルールをエキドナの心臓に突き刺す。

「が、はっ! フェアリープリンセス、次は必ず……ッ!」

 エキドナの人形は、その言葉を残して、砂のように崩れ去った。

 ふぅ……
 これでひと段落ついたかしら?

「リーチェちゃん凄いわッ!」

「ぶふっ!」

 エキドナを倒してほっとしていると、お母様が抱きしめられた。

「お母様、苦しいです……」

「うふふ。ごめんなさいね。……でも、お母さんを守ってくれてありがとう」

 そう言ってお母様は、私を抱きしめたまま微笑む。

 暖かい……
 こうしていると、暖かい気持ちになる。
 私はお母様を見上げたまま、ちょっとだけ抱き返す。

 少しの間が空いて、私は残りの竜人のことを思い出す。

「って、こうしている場合じゃないです。お母様! スクリーンを見ましょう!」

「あっ、そうね。安心したらつい……」

 それから、私とお母様はスクリーンを見た。
 そこには、苦戦している3人の家族の姿と1の姿が映っていた。

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