ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

翼をもがれた竜

 僕の目の前には、1匹の竜がいた。

 高さは4メートルほどで、全身が真っ黒の鱗に覆われている。
 2本の足で立っていて、足先にある3本の爪は、剣のように鋭く魔導船に食い込む。
 腕は翼と一体となっているようだが、その両翼は
 竜の頭の側面から生えた2本の角は、天に向かって伸びている。
 その竜は大きな口を開いて、凶器のような牙をのぞかせた。

「なかなか面白い奴らじゃないか……! この俺に竜化を使わせるとはな!」

 目の前の竜は、長い尻尾を揺らし、人の声でそう吠えた。

 こんなのありかよ……
 その時、僕と竜の目が合った。
 ここで死んでしまうかもしれないという恐怖が僕を襲う。

「チッ! 弱っちいガキはいらねぇ……さっさと消えろ! 邪魔だ」

 そう言って、竜は僕から目をそらした。
 恐怖から解放された僕は、自分の手足が震えていることに気が付く。

 と、止まれ! 止まれよ!

「竜化を使えるほどの高位の竜人だったのか……! ルシエル、下がっていろ!」

「坊ちゃん、アレス様の言う通りに下がってください!」

 アレスおじさんとバロンが僕に下がれと言う。

 僕は震える足を引きずりながら、2人の後方へと移動する。
 くそ! 足手まといじゃないか!
 早く震えが止まってくれ!
 状態異常無効の効果で、恐慌に陥ってはいないはずだ……
 僕の自身の心が弱いからか……?
 僕がそう考えているうちにも戦況は進む。

「チャリオ! そのカスを連れて離脱しろ!」

「了解!」

 チャリオを呼ばれた竜人は、残っている片腕で、肩に僕が気絶させた竜人を乗せる。

「空間門発動!」

 チャリオがそう叫ぶと、チャリオの目の前の空間が裂ける。
 空間の裂け目が、人が通れる大きさとなったとき、チャリオはその中へと入って消えた。
 アレスおじさんとバロンは、それを見逃す。

 それを見ていた竜は、怪訝そうな顔をした。

「おいおい。お前ら、見逃してもいいのか?」

「ああ。お前を相手にしながら、もう1人にも気を遣うのはきついからな……それに、邪魔してもお前が止めるだろ?」

 アレスおじさんがそう言い返すと、竜は目を細めて笑う。

「ああ。やっぱりお前はおもしれぇわ。今は機嫌が良い。特別に俺の名を教えてやろう。……俺の名はティーガー……今からお前らを喰らう男だッ!」

 ティ―ガーがアレスおじさんに向かって駆ける。
 竜になって身体も大きくなったのに速度は今までと変わらない。
 むしろ少し早くなっている気がする。

 アレスおじさんは、聖盾を発動して受け止める。
 聖盾の効果は、闇属性の攻撃の相殺、防御性能上昇、盾での攻撃時に大きくノックバックだったはずだ。

「ぐっ!」

 アレスおじさんは、ティーガーの攻撃を受け止めきることができずに弾き飛ばされる。

「おい。そんなもんか? ちゃんと受け止めねぇと死ぬぞ?」

 ティーガーは、尻尾を振るってアレスおじさんを追撃する。

「させませんよ!」

 バロンが光剣技を使って、ティーガーの尻尾に切りかかる。
 光剣技の効果は、攻撃に光属性付与、攻撃性能上昇、攻撃成功時に体力と魔力を少し回復だったはず。
 しかし……

 ガキィン!

「なっ?!」

 バロンは尻尾に切りかかって止めるどころか、そのまま尻尾に吹き飛ばれてしまった。

「ぐ、大丈夫かバロン……? 同時攻撃で行くぞ」

「……大丈夫です。かしこまりました」

 そう言って、2人でティーガーに向かって切りかかった。
 アレスおじさんは攻撃を受け止めて、バロンが攻撃を担当する。
 だが、アレスおじさんの防御で全てのダメージを逃がすことができず、バロンの攻撃は硬い鱗に守られて通らない。
 徐々に2人はボロボロになっていく……

 2人が戦っているというのに僕は震えているだけか?
 そんなときに良く知る声が聞こえてきた。

『いつまで震えてるのかしら?』

(リーチェ……)

『あなたはいつもウジウジしているわね。ほら、しゃんとしなさい』

(でも、震えが止まらないんだ……行かなきゃって思うのに……状態異常も効かないはずなのに)

『あなたにならできるはずよ。私が言うんだから信じなさい』

 かつ、かつ。
 背後から足音が聞こえた。
 僕は、その足音のする方向へと振り返る。

 チュ……

「え?」

 僕の頭は真っ白になった。
 頬には柔らかい感触、耳ではキスの音。
 そして、すぐ横にいるリーチェ。
 僕の顔が赤くなる。

「な、なんでいき……ぶふっ!」

 僕が驚いていると、リーチェの胸元に抱きしめられた。

「こうしたら暖かい気持ちになるのよ。……少しは落ち着いたかしら?」

 落ち着いた? 逆にドキドキしてるよ!
 これで震えが止まったら苦労はしないよ。
 僕は手足を確認する。

 ……震えが……止まっている!

「ふ、震えが止まったよ! リーチェ、ありがとう!」

「あと、お母様からの伝言よ。早く終わらせてみんなでまたお茶会をしましょう。……ですって」

「わかった! じゃあ早く終わらせないとね」

「じゃあ、いってらっしゃい」

「いってきます!」

 僕はそう言って、ティーガーのもとへと走る。
 リーチェに後押ししてもらったからか、ティーガーをどうにかする作戦を思いついた。

「ティーガー!」

「あぁん? ガキがなんのようだ!」

 僕がティーガーを呼ぶと、ティーガーは僕を睨む。

「僕の名はルシエル……今からお前を倒すガキだッ!」

 僕は、ティーガーの頭上にある帆へと、鞭を絡みつける。
 そのまま、ターザンのように空中を渡り、ティーガーの背中へと飛び乗る。

「ルシエル!」

「坊ちゃん!」

 アレスおじさんとバロンが僕を心配する声をあげる。
 2人にこれ以上心配させないようにしなきゃね。

「おい! クソガキ! 早く俺の背中から降りろ!」

 ティーガーが吠えるが知ったことか。
 僕は、鞭を軽く上下に振って、一度絡みついた鞭をほどく。
 そのまま、次はティーガーへと鞭を絡みつける。

「何しやがった?! 一瞬、何か変な感じになったぞ!」

 状態異常が効いていない。
 もしかして、ティーガーも状態異常無効系のスキルを持っているのか?
 ……だったら、やり方を変える!

「開け! 異次元牧場! 隊長コボルト! 弓と槍で牽制してくれ!」

 そう。
 僕は、アレスおじさんとバロンが、最初の4人の竜人と戦っている頃に、隊長コボルトに戦いの準備をするように頼んでおいたのだ。
 そのため、僕が隊長コボルトを呼ぶとすぐに出てきてくれた。
 精鋭コボルト達も一緒だ。

「了解したであります! 弓持ちは上半身を狙い、槍持ちは下半身を狙うのだ!」

「「「「了解!」」」」

 精鋭コボルト達が、下半身を槍でチクチクと突き、上半身を弓矢でチクチクと撃つ。
 ダメージはないが、かなりうっとおしいはずだ。
 僕はその間にも鞭を振るって、足へ腕へと今以上に絡ませていく。

「邪魔だコボルトども! クソッ! なんだこのロープ! ちぎれねぇぞ!」

 よし、これぐらい絡ませたら大丈夫だ!

「アレスおじさん、バロン! 今だよ! 2人の全力の攻撃で場外にふっ飛ばして!」

 僕が叫ぶと2人はすぐさま行動を開始した。

「聖盾!」

「光剣技!」

「グッ!」

 2人の攻撃が、ティーガー腹へと命中して、場外へとティーガーを吹き飛ばす。
 もちろん鞭を持っている僕も一緒に吹っ飛んでいく。

「って、ルシエル! お前も飛んで行ってるぞ!!」

「坊ちゃん!」

「あ、主殿ォ!!」

 僕が飛んでいくのが意外だったのか、2人もコボルト達も驚愕していた。
 僕とティーガーは魔導船から、落下していく。

「くそっ! おい! クソガキ! この鞭を早くほどけ! 落ちたら死ぬぞお前!」

「僕は大丈夫だよ! ワイバーン! 僕を救出してほしい!」

 僕は空を旋回していたワイバーンにお願いする。

『承知した!』

 僕は鞭をインベントリへと戻す。
 その瞬間、僕とティーガーを繋ぐものはなくなり、お互いに自由になる。
 だが、僕はワイバーンに救出され、ティーガーはそのまま落ちていく。

「おいクソガキ! ガキだから見逃してやってたが、次に会った時は喰らってやるからな! 覚えてろ!」

 ティーガーは、落ちながらそんな言葉を残していった。

「ふう……これで終わったのかな? ワイバーン、助かったよ……」

『なに、礼には及ばん。我々も助けられたからな』

 僕はワイバーンに甲板まで送ってもらう。
 その後、アレスおじさんを筆頭に危険なことをするなと怒られることになった。

 でも、これで謎の仮面軍団の襲撃を無事に乗り切ることができたのだ……

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