私はもう忘れない
やりたい事
「だぁーー!!クソ!あの女どこ行きやがった!!!」
  男が叫びながら探しているのは、突如として姿を消した葵。
  なぜいきなり姿を消したのか。カズは先程から探しているがその事が頭の中でぐるぐると回っており集中は出来ていなかったと思う。
「おい!お前も真剣に探せ!」
「怒鳴るなよ。真剣に探しているだろう」
  口ではそういうがやはり、先程の会話が頭に残る。
ーーーこいつはもう戻れない
  分かっていたことだ。理解していた。だが、やはり直接そう言われるときついものがある。
  もう、あっちの世界には行けない。戻れない。その考えでカズの頭の中は埋め尽くされていた。
「カズ!!」 
  いきなり後から腕を引かれた。
  目の前には大きな深い崖があった。
ーー?!
 少し驚いたがすぐに後ろの奴に礼を言い、また崖とは逆方向に歩こうとしたが、先程掴まれた腕は解放されなかった。それどころか、先程より強い力で握られた。
「ちょ...なんだよ...痛いだろ。離せよ」
  よく分からないまま、カズは眉間に皺を寄せながら言った。
  奴はというと、先程から俯いており顔を確認出来ない。というか、捕まえて話さないのだ。用がないなら離せよとイライラしながらカズは口を開いた。
「何も用がないなら離せよ。急いでるんだろ。日が暮れる。また、悪霊が活発に行動する」
  そう、カズが言っても奴は動かず、ずっと下を向いていた。
  さすがのカズでも、急いでる心でこんなに待たされるとイライラも積もる一方だ。
「何無いなら...」
「お前はどうしたいわけ」
  カズの言葉を遮り言った言葉。今までずっと黙りを決め込んでいたのにいきなり意味わからん事を言い出した。
「あいつを探す。今はそれしか考えてねぇーよ」
  嘘だ。これ以外にも頭の中には色々なモヤモヤが埋め尽くす。だが、それを言ったところで何も解決しないのが分かっているため口にしない。
  すると、掴まれていた手が緩められた。
「行くぞ」
  そう言い進んだ。だが、ある一言でその歩みは止まった。正確には止められた。
「戻りたいか?」
  その言葉はカズを試しているような感じだ。
  頭ではその質問は無意味なことと分かっている。が、即答出来ない。
  自分は元の世界に戻りたいのか。それとも...
「......。」
  カズが答えあぐねていると男がため息を吐き体の向きを変えるとそのまま歩き出してしまった。
「な!おい!」
 いきなり歩き出してしまった男の後ろを追うようにカズも歩き出した。
 何を思ってあのような質問をしたのか。また、からかってのことだろうか。カズにはあの男が何を考えているのかわからない。
  だが、その事について質問することも今のカズには出来ない。
  先程の問に対し答えを出すことが出来ていないからだ。
(俺は一体どうしたい...)
 「あいつが行きそうな所に心当たりはないのか?」
  考え事をしていた俺は突然の質問にすぐに答えられなかった。
「......いきなり話しかけてんじゃねぇーよ」
「何怒ってんのお前」
「黙れ」
  本当にわかっていないのか。それともとぼけているのか分からないがこの男は何食わぬ顔でカズにもう一度同じ質問を問いかけた。
「んで、あいつが行きそうなところはないわけ?」
  さっきのがなかったかのように話を進める男。悩んでる自分が馬鹿らしくなってくる。
  小さく溜息をつき考えてみる。
  あいつが行きそうな場所はそんなに多くはないだろう。あまり周りには興味を持とうとしない。そんなやつがあっちこっちに行っていたらそっちの方が不思議だ。だとすれば、行きそうなところは二箇所しかない。
「多分だが、病院か神社だろう」
「なんでその二択なんだ?」
「神社はいつも俺達が帰る場所として使っていた。病院はあいつの体がある。意外に頭より先に体が動くタイプだからな。自分の体を確かめに行ったって可能性も十分ある。」
  他にもありそうだが、今はこの二箇所しか思いつかない。
  そして、男が少し考えた素振りを見せたあとに歩みを進めた。
  向かっている方向は病院とは逆。つまり、先に神社の方へと行こうという考えらしい。
  黙って行くのは如何なものかと思うがその男にとってはそれが普通なのだ。そもそも、常識という言葉すら知っているかどうか。
「何している、置いていくぞ。」
  ......少しは常識はあるのだろうか。
  そう考え直そうと思ったつかの間自分の考えは間違えだったと実感した。
「早くしないと置いてくぞ〜。てか、置いていくわ〜。んじゃなぁ〜」
  そう言うといきなり全速力で走り出した男。
  
「...ハァー?!」
  いきなりのことで体と頭が追いつかず一歩遅れた。
  男は普通の人より足が早く。追いつくのも難しい。
「待ちやがれ!」
  そう叫ぶが、聞こえてないのか無視しているのか反応を見せないで淡々と走り続ける男。
(なんなんだよ!!)
  怒りながらも全力で走っている男を見失わないよう後を追う。
  体力は自信があるとは言えないが、ないとも言えない。いわゆる普通だが、男は普通より足が早いらしく距離が少しづつ開いてしまう。
  必死に追いつこうとするが縮まらない。
「待てって...言ってんだろうがぁー!!」
  怒りと追いつけない悔しさの混じった怒鳴り声は空高く響き消えていった。
〜神社〜
「ここだな」
  そう言い神社の前で立ち止まる男。
  先程まで全力疾走していたと思えないほど平静を保っている。
  その後ろでは肩で息をするカズ。立っているのも正直辛いほど疲れていた。
「て...てめ...なんの...つもりだ...」
  その言葉に男は何も答えず中に入っていく。
「ま...待てって...言ってんだよ!」
  疲れた体を無理やり動かし男の肩に手を置く。正直、行動の意図は分かる。が、何を考えてこの行動を取っているのかが分からない。
「さっきから黙りやがって...俺の質問に...答え...やがれ...」
  
  息が整っていないせいで言葉が途切れてしまう。
  男にはカズの言葉は届いているのか分からないほど微動だにしない。
  カズも我慢の限界というものがある。これ以上黙られると怒りが吹き出しそうだ。
「なんか言えよ!!」
  否、出しそうではなく吹き出した。
  怒りにまかし男を無理やりこちらへと向かせ、男の顔を見たら先程の怒りが失せられた。
「......。」
  男の表情は『無』そのものだった。
  先程まで表情豊かだったのが嘘のようにその顔からはその男の感情や思考が読み取れない。
  今までも表情はコロコロ変わるが本心は読めない男ではあった。が、こんな表情は今まで見たことがない。
「一体...なんだって...いうんだ...よ...」
  緩められた手を男は払い神社の中へと進む。
「おい...なんでさっきから俺の質問には答えねぇーんだよ!」
  この男は一体何を考えてやがる。
「早くあの女を見つけねぇーと夜になる。急がねぇーとって言ったのはお前だぞ。」
  やっと口を開いたかと思えばカズが聞いた質問の答えではなかった。
  もう一度同じ質問を問いかけようとしたが周りはもう暗い。急がないといけないのは頭でもわかった。
「...チッ」
  小さく舌打ちをしたあと男の隣を通り過ぎ神社へと足を踏み入れる。
(ぜってぇー後でぶん殴ってやる)
  そう思いながら扉へと手をかけ中に入っていった。
「......。もっとわがまま言えよな...」
  男の弱弱しい声は誰にも届かないまま宙へと消えていった。
  
  男が叫びながら探しているのは、突如として姿を消した葵。
  なぜいきなり姿を消したのか。カズは先程から探しているがその事が頭の中でぐるぐると回っており集中は出来ていなかったと思う。
「おい!お前も真剣に探せ!」
「怒鳴るなよ。真剣に探しているだろう」
  口ではそういうがやはり、先程の会話が頭に残る。
ーーーこいつはもう戻れない
  分かっていたことだ。理解していた。だが、やはり直接そう言われるときついものがある。
  もう、あっちの世界には行けない。戻れない。その考えでカズの頭の中は埋め尽くされていた。
「カズ!!」 
  いきなり後から腕を引かれた。
  目の前には大きな深い崖があった。
ーー?!
 少し驚いたがすぐに後ろの奴に礼を言い、また崖とは逆方向に歩こうとしたが、先程掴まれた腕は解放されなかった。それどころか、先程より強い力で握られた。
「ちょ...なんだよ...痛いだろ。離せよ」
  よく分からないまま、カズは眉間に皺を寄せながら言った。
  奴はというと、先程から俯いており顔を確認出来ない。というか、捕まえて話さないのだ。用がないなら離せよとイライラしながらカズは口を開いた。
「何も用がないなら離せよ。急いでるんだろ。日が暮れる。また、悪霊が活発に行動する」
  そう、カズが言っても奴は動かず、ずっと下を向いていた。
  さすがのカズでも、急いでる心でこんなに待たされるとイライラも積もる一方だ。
「何無いなら...」
「お前はどうしたいわけ」
  カズの言葉を遮り言った言葉。今までずっと黙りを決め込んでいたのにいきなり意味わからん事を言い出した。
「あいつを探す。今はそれしか考えてねぇーよ」
  嘘だ。これ以外にも頭の中には色々なモヤモヤが埋め尽くす。だが、それを言ったところで何も解決しないのが分かっているため口にしない。
  すると、掴まれていた手が緩められた。
「行くぞ」
  そう言い進んだ。だが、ある一言でその歩みは止まった。正確には止められた。
「戻りたいか?」
  その言葉はカズを試しているような感じだ。
  頭ではその質問は無意味なことと分かっている。が、即答出来ない。
  自分は元の世界に戻りたいのか。それとも...
「......。」
  カズが答えあぐねていると男がため息を吐き体の向きを変えるとそのまま歩き出してしまった。
「な!おい!」
 いきなり歩き出してしまった男の後ろを追うようにカズも歩き出した。
 何を思ってあのような質問をしたのか。また、からかってのことだろうか。カズにはあの男が何を考えているのかわからない。
  だが、その事について質問することも今のカズには出来ない。
  先程の問に対し答えを出すことが出来ていないからだ。
(俺は一体どうしたい...)
 「あいつが行きそうな所に心当たりはないのか?」
  考え事をしていた俺は突然の質問にすぐに答えられなかった。
「......いきなり話しかけてんじゃねぇーよ」
「何怒ってんのお前」
「黙れ」
  本当にわかっていないのか。それともとぼけているのか分からないがこの男は何食わぬ顔でカズにもう一度同じ質問を問いかけた。
「んで、あいつが行きそうなところはないわけ?」
  さっきのがなかったかのように話を進める男。悩んでる自分が馬鹿らしくなってくる。
  小さく溜息をつき考えてみる。
  あいつが行きそうな場所はそんなに多くはないだろう。あまり周りには興味を持とうとしない。そんなやつがあっちこっちに行っていたらそっちの方が不思議だ。だとすれば、行きそうなところは二箇所しかない。
「多分だが、病院か神社だろう」
「なんでその二択なんだ?」
「神社はいつも俺達が帰る場所として使っていた。病院はあいつの体がある。意外に頭より先に体が動くタイプだからな。自分の体を確かめに行ったって可能性も十分ある。」
  他にもありそうだが、今はこの二箇所しか思いつかない。
  そして、男が少し考えた素振りを見せたあとに歩みを進めた。
  向かっている方向は病院とは逆。つまり、先に神社の方へと行こうという考えらしい。
  黙って行くのは如何なものかと思うがその男にとってはそれが普通なのだ。そもそも、常識という言葉すら知っているかどうか。
「何している、置いていくぞ。」
  ......少しは常識はあるのだろうか。
  そう考え直そうと思ったつかの間自分の考えは間違えだったと実感した。
「早くしないと置いてくぞ〜。てか、置いていくわ〜。んじゃなぁ〜」
  そう言うといきなり全速力で走り出した男。
  
「...ハァー?!」
  いきなりのことで体と頭が追いつかず一歩遅れた。
  男は普通の人より足が早く。追いつくのも難しい。
「待ちやがれ!」
  そう叫ぶが、聞こえてないのか無視しているのか反応を見せないで淡々と走り続ける男。
(なんなんだよ!!)
  怒りながらも全力で走っている男を見失わないよう後を追う。
  体力は自信があるとは言えないが、ないとも言えない。いわゆる普通だが、男は普通より足が早いらしく距離が少しづつ開いてしまう。
  必死に追いつこうとするが縮まらない。
「待てって...言ってんだろうがぁー!!」
  怒りと追いつけない悔しさの混じった怒鳴り声は空高く響き消えていった。
〜神社〜
「ここだな」
  そう言い神社の前で立ち止まる男。
  先程まで全力疾走していたと思えないほど平静を保っている。
  その後ろでは肩で息をするカズ。立っているのも正直辛いほど疲れていた。
「て...てめ...なんの...つもりだ...」
  その言葉に男は何も答えず中に入っていく。
「ま...待てって...言ってんだよ!」
  疲れた体を無理やり動かし男の肩に手を置く。正直、行動の意図は分かる。が、何を考えてこの行動を取っているのかが分からない。
「さっきから黙りやがって...俺の質問に...答え...やがれ...」
  
  息が整っていないせいで言葉が途切れてしまう。
  男にはカズの言葉は届いているのか分からないほど微動だにしない。
  カズも我慢の限界というものがある。これ以上黙られると怒りが吹き出しそうだ。
「なんか言えよ!!」
  否、出しそうではなく吹き出した。
  怒りにまかし男を無理やりこちらへと向かせ、男の顔を見たら先程の怒りが失せられた。
「......。」
  男の表情は『無』そのものだった。
  先程まで表情豊かだったのが嘘のようにその顔からはその男の感情や思考が読み取れない。
  今までも表情はコロコロ変わるが本心は読めない男ではあった。が、こんな表情は今まで見たことがない。
「一体...なんだって...いうんだ...よ...」
  緩められた手を男は払い神社の中へと進む。
「おい...なんでさっきから俺の質問には答えねぇーんだよ!」
  この男は一体何を考えてやがる。
「早くあの女を見つけねぇーと夜になる。急がねぇーとって言ったのはお前だぞ。」
  やっと口を開いたかと思えばカズが聞いた質問の答えではなかった。
  もう一度同じ質問を問いかけようとしたが周りはもう暗い。急がないといけないのは頭でもわかった。
「...チッ」
  小さく舌打ちをしたあと男の隣を通り過ぎ神社へと足を踏み入れる。
(ぜってぇー後でぶん殴ってやる)
  そう思いながら扉へと手をかけ中に入っていった。
「......。もっとわがまま言えよな...」
  男の弱弱しい声は誰にも届かないまま宙へと消えていった。
  
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