支配してもいいですか?
新たな転生者
「ーーということよ」
俺は宿でカレンから冒険者ギルドについて説明を受けている。しかし、カレンの説明は要領を得ないためとてもでは無いが理解出来なかった。何度も聞き返してやっと分かったが、理解するために消費した無駄なエネルギーの事を考えると思わずため息をこぼす。
カレンの説明を要約すると、冒険者ギルドには7つのランクに分けられていて、下からF、E、D、C、B、A、Sの順になっているらしい。また、DからC、AからSになる時は特別な試験を受けて合格する必要があるのだとか。
仕事内容としては、魔物の素材を売却したり、依頼を受けてそれをこなしたりするのだという。Bランク冒険者以上になると指名依頼という個人からの依頼をされる事があるとの事だった。
また、依頼には通常依頼、指名依頼の他に緊急依頼というものがありそれは、魔物の氾濫が起きた時や隣国との戦争状態になった時に冒険者ギルドから出される依頼なのだと言う。前者はCランク以上強制参加だが、後者は任意参加らしい。
これで以上である。ここまで理解するまでに1時間半を浪費した俺は一気にまくし立てながら訳の分からない事を言っているカレンへと目を向ける。
「……もう大丈夫だ。理解した」
そう言うとカレンは私のおかげね! と言い誇らしげに胸を張った。そのせいでカレンの大きく実った果実がプルンと揺れて思わず視線を惹きつけられてしまう。ハッとなりすぐに視線を逸らしたためカレンには気付かれずに済んだものの何となくだが罪悪感を感じた。しかも昨晩、あの果実に触れた事でその感触が脳裏に刻み込まれてしまっている状態であり、余計に意識してしまうのだ。
「……あっ」
すささささー
俺と目が合うと後方へ移動するカレン。
カレンは朝になると普通に戻りはしたが俺との距離を測りきれずにいるみたいであり、俺が近づくと今みたいに頰を赤らめて徐々に離れていくのだ。
先程のように何かの説明や他の事をしている時は平気なのだが、何もしてない状態に接近してしまうとパニックを起こしてしまうため注意して行動しなければいけない。
シーンとした空気が辺りを漂う。気まずい雰囲気に耐えきれなくなった俺はカレンにある提案をする。
「冒険者ギルドで依頼を受けないか? いつまでもここにいたって仕方がないからさ」
「そ、そうよね!」
ぎこちない会話を終えると朝食を済ませ宿を出る。しっかりと今日泊まるための一部屋を予約した後にだが。なぜ一部屋かって? それは一部屋しか空いてなかったからである。
今日も一緒の部屋と聞いてカレンは茹でダコのようになっていたが敢えて指摘しないでおいた。指摘すると色々と面倒臭くなりそうだったためだ。
♢
「うわぁぁ」
レグルス周辺の森に大きな悲鳴が響き渡る。1人の少年が三匹のコボルトから逃げているのだ。その少年は死への恐怖から涙を流し鼻水を垂れ流していて本来の美少年とはかけ離れてしまっている。
そんな少年を追いかけるコボルト達は逃げ惑う少年を見て遊んでいるのだ。すぐに捕まえれる所をわざと逃し、悲鳴をあげる少年を見ては愉悦に浸っているのである。
Eランクのコボルトはいつも捕食される側だったため自身より弱い獲物をいたぶる習性があるのだ。だが、今回ばかりはすぐに捕らえるべきだっただろう。
そう、俺達が少年の悲鳴を聞きつけてやってきたためだ。 カレンが作った50センチ程の火球が一匹のコボルトに命中した。すぐさま火球は、2つ3つと数を増やし三匹のコボルトを消滅させる。
追いかけられていた少年はハァハァと息が上がっていて恐怖に震えている。カレンが少年に近づき、もう大丈夫よ! と声をかけているが、俺は人との接し方があまり得意ではないのでカレンに任せることにした。
「あれ? あいつらは?」
やっと少年が平常運転になったようだ。周囲を見渡しコボルトの所在を確認している。そして、助かったと分かるとあからさまにため息をつき立ち上がった。
「もう平気?」
少年にカレンが声をかける。その言葉でカレンの存在に気づいたのかうわぁ、と言いながら思い切り仰け反った。それどころか尻餅をついてしまう少年。
「いてて〜」
「もう! 鈍臭いわね〜! ほら」
文句を言いながらもカレンは少年に手を差し伸べて立ち上がらせようとする。しかし、少年は固まったまま動かない。
先程の件で疲れてしまって頭が回らないのだろうか?
手を差し伸べているカレンもこれには少し戸惑っているようで、チラチラと俺に視線を送ってくる。俺の解釈だが、助けて! とかこれどうするの? とかを聞いているのだろう。俺は首を横に振り知らんとばかりにお手上げ状態のポーズをした。
俺達がどうしようかと悩んでいると少年が小さな声で何かを呟く。
「……女神だ」
はい? カレンが? 嘘だろおい! 確かに容姿は優れているだろう。だが、頭がパッパラパーな奴だぞ?
そんな事を考えていると何かを感じたのかキッと俺を睨みつけてくるカレン。すぐさま手と手を合わせて幸せ……じゃなくて、手と手を合わせてペコリとお辞儀をする。それとも女神(笑)だから崇めた方が良かっただろうか?
俺達が下らないやり取りをしていると、少年がカレンの手を握り始めた。カレンはビクつきまたも俺に視線を向けて来たので、俺は仕方なく分かったよとばかりに頷きカレンの手から少年の手をはらう。ついでに鑑定もしとく。
《名前》   サトウ   リンタ
《年齢》   14
《種族》   ヒューマン
《職業》   僧侶・付与士
《レベル》   1
《状態》   良好(恋)
《魔法》   回復・付与
《スキル》   棍術lv1・棒術lv1・自然治癒lv1・逃走lv1・恐怖耐性lv1
《固有スキル》   適応・超治癒力
《称号》   異世界人・癒す者
恋も状態に載るのか。というよりまた転生者である事に驚きを隠せずにいた。異世界に来て2日目でもう2人目である。
俺が口をあんぐりと開け目を見開いていると下から気配を感じすっとそれを避けた。その何かとは少年の右腕であり、俺の顔面目掛けて突き出して来たのである。
「……なんのつもりだ?」
「すみません、手が滑ってしまいました」
そう言って反省のかけらも感じない謝罪を述べて来た少年。しかも、かかってこい、と言わんばかりにファイティングポーズをとった。剣ダメっとポーズをとりながらだが。
流石の俺も舐められてるのが分かり腹が立ったが、呆れたようにため息をつき鼻で笑ってやる。
「カレンこんな奴ほっといて帰るぞ」
「う、うーん? 大丈夫なの? この子を置いてったら死んじゃうんじゃない?」
「大丈夫だ。コイツもある程度の力は持ってる。ほっといても死にはしないだろう」
そう言って立ち去ろうとするとギュッと何か柔らかな物が俺の背中に当たった。その感触は昨日の件で良く覚えているからすぐに分かってしまう。すると耳元で「助けちゃ……ダメ?」と囁いて来たカレンに反射的に頷いてしまう俺。
いつもは勝気で男勝りなカレンが俺にだけ甘えてくるのだ、このギャップに萌……負けてしまうのは仕方ない事だと思う。
もしかしたらカレンの本質は甘えたがりなのかも知れない。いつか来る別れのためにもカレンの無意識な精神攻撃を耐えなければいけない。謎の気合いを入れている俺はまだ抱きついているカレンに離れるように伝える。すると渋々ではあるが離れていく。しかし、朝との反応の違いに戸惑ってしまう。
待て待て待て、どういう事だ? 宿にいた時は肌が触れた瞬間にきゃあ、と言っていたんだぞ? 
もしかしたら、俺との距離の置き方をもう定めたのかもしれない。
もしかしたら、この世界に来て不安でいる時に信頼できる人と会って家族のように接しているだけのかもしれない。
それでもだ、少なくとも、俺との心理的な距離は抱き着いても平気くらいには近づいてしまったという事は確かである。
人間にはパーソナルスペースと呼ばれる己のテリトリーが存在し、好意的に思っている人には近づきたいと思い、不快に思っている人とは近づくだけで紛争地帯にいる並みのストレスを感じてしまう。
つまり、先程の行為からカレンは最低限俺のことを好意的に捉えているという事だ。行為だけに。
ゴホンッ! まあ、冗談はさておきこれはかなりの大問題である。直ぐに別れようと思って行動していたのに当分は離れる事が難しくなってしまった。
どうしよう、このままここから立ち去るか? いやしかしそれは後味が悪いし。
これからの事に頭を悩ませている俺は気付いていなかった。いや、気付かないふりをしていたのだろう。
カレンに抱きつかれても俺は一切嫌がらなかったという実情を。
その事が何を意味しているのかという明白な事実を。
スキル・称号等の解説
自然治癒:自己回復するスキル。
適応:環境の変化や状態の変化に適応する能力。状態異常や病気にはかかり辛くなる。
超治癒力:回復魔法系統の能力が著しく上昇する。
カムイの現ステータス
《名前》   ヒイラギ   カムイ
《年齢》   16
《種族》   ヒューマン
《職業》   支配者
《レベル》   25
《状態》   良好
《魔法》   火・闇
《固有魔法》   時空
《スキル》   剣術lv5・鑑定lv10・看破lv10・首切りlv3・回避lv2・並列思考lv2
《固有スキル》   最適化・絶対鑑定
《異能》   支配(封印中)
《加護》   女神リエルの封印・女神リエルの加護(鑑定lv10・看破lv10・絶対鑑定・マップ)
《称号》   封印されし者・絶望を知る者・天才という名の化け物・王の器
スキルポイント・1250
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