支配してもいいですか?
慢心
タンッ、タンッ
ーー俺は今空を飛んでいる。いや、空を駆けていると行ったほうが適切か。
そう、街に向かうために空中歩を行使しているのだ。
文句言ってた癖にチート装備の能力使ってるじゃんだって? そんなの知らん。もうどうにもならないんだ、なら有効活用すべきだろ?
誰とも分からない人に言い訳をしながら空中を走っていると横から何かが近づいて来るのを感じた。ヒュン、と風を切り裂いて俺に迫ってくるものを鑑定する。
《名前》   無し
《名称》   ウインドホーク
《種族》   マジックホーク
《レベル》   7
《状態》   良好
《魔法》   風
《スキル》   鷹の目lv3・飛翔lv4・加速lv1・翼刃lv2
《ランク》   C
鑑定していたせいかウインドホークに接近を許してしまい鋭利な爪で引っかかれる。それも、コートでは庇いきれない胸の辺りにだ。
ギリギリで回避したが、今のは俺の判断ミスである。確かに今の装備は極めて強力だが、全てを守れる訳ではない。この胸の切り傷は俺の油断からきた傷だ。この世界はそんな甘い世界ではない。1つの慢心から命を失う可能性があるような世界だと再度認識するべきだ。
心の中で己の行動を戒めると、気を引き締めて剣を構える。初めての空中戦ではあるが、この靴のお陰で空中も地上も大して変わらない。というより立体的に動ける分、空中戦の方が有利だ。
俺に仕留める為に加速した体をUターンしているウインドホーク。その爪には俺の血が付いている。ウインドホークの目には喜色が浮かんでいる事から自分が捕食者であると思っているのだろう。
「……悪いがその考えは一方通行だ」
ウインドホークは俺の態度からその言葉を察したのか少し怒っているようだ。一気に加速して俺に突っ込んでくるので、すかさず構えた剣をウインドホークに向けて振り下ろす。
キンっ
「クェェェ……クエッ!」
ウインドホークの悲鳴が耳に届く。しかし、直ぐに体制を立て直して俺から距離を置く。
ん? 切り裂いたと思っていたのだが、翼を傷つけるだけに終わってしまった。斬る際に少し抵抗を感じたし妙な金属音も聞こえた事から、何かしらのスキルを使用したのだろう。恐らくは翼刃だとは思うが。しかしながら、本当に金属の刃のように硬くなるとは驚いた。
ウインドホークは今の攻撃でこちらを警戒し、俺の様子を窺っているみたいだ。俺も剣を構えて対峙するが、どうにも決め手がない。剣じゃ仕留めきれないのは今ので分かった。ウインドホークの様子を窺いながら頭をフル回転させる。
考えた末に魔法はどうだろうか? という結論に至った。詳細としては、俺はまだ魔法を使った事はないが、魔法を見た事はあるのだ。そう、女神リエルの転移魔法や創造魔法の事である。あれ程、至近距離で視認したため出来るのではないか? というものだ。
ぶっつけ本番! やってみる価値はある。このまま戦闘を続けても時間の無駄だからな。
俺は自分の内なる魔力を魔法構築の為に大量に汲んでいく。余りに大量の魔力を集めているため俺から魔力が噴出し始める。空間を歪めるほどに。
急に変化した俺の雰囲気に危険を察知したのか俺の心臓目掛けて爪を突き立てにくるウインドホーク。
「……もう遅い。焼き鳥と化せ! 完全燃焼」
イメージは全てを焼き尽くす業火。
俺から放たれた魔法は鳥が加速をする前に焼き尽くしその勢いのまま辺り一帯を焼く。魔法が終わると森に燃え移らずに鎮火はしたものの、その光景を見た人がいればこう言っただろう。
「……災害だ」
と。
打った本人ですら何事かと思ってしまう程の威力だったのだから。
ピロリン
《レベルアップしました》
《回避を取得しました》
《並列思考を覚えました》
頭の中に鳴り響くが俺は呆然としていて聞いてはいなかった。
余談なのだがこの後、近くの村では『太陽神様の天罰だ』という噂が広まり新興宗教が出来たという。その名は『焼き鳥教』、何でも天罰が放たれた時に聞こえた言葉がそれだったとか。
♢
「おっ! やっとか……」
眼下に巨大な壁が見えた。空中をトンットンッと踏みながら駆けること1時間、やっと確認する事が出来た街に俺は喜びを露わにする。因みに何度も魔物に襲われたが瞬殺したため俺が通ったところの下には飛行系魔物の死骸が多くいるだろう。
壁の入り口をよく見ると街の門番らしき人の姿がある。
今、気が付いたのだが空を駆けてるってヤバくないか? だって考えてみろ、急に空を走ってきた人が来たらビビるよな? これ門の中入れるのか?
今更な不安を抱きながら門番の真ん前に着地する。しかし、門番に驚いたような表情はない。俺がその事に対し不思議に思っていると目の前の門番が口を開く。
「ようこそ! レグルスへ。冒険者カードか身分証を見せて下さい。あるなら銅貨2枚、無いなら銀貨1枚です」
何と! 空を走って来ても普通に対応するのか。異世界凄いな。
俺が異世界の門番に感銘を受けた後、アイテムボックスから女神に貰った宝石を1つ取り出して門番に渡す。
「銀貨1枚がどのくらいか知らないが、これじゃダメだろうか?」
流石の門番もこれには驚いたらしく口をパクパクさせて俺と宝石を交互に見ている。それを見て何かに勝ったような誇らしい気分になったのは秘密だ。
「君はさぞかし名のある冒険者か貴族だと思っていたが冒険者カードも身分証も無いしこれはどこで手に入れたんだい?」
門番の問いに俺はどうしようか? と思考を巡らす。
まず転生者だと名乗るのは当然却下。そんな事言ってもただ頭の痛い奴と思われるだけで余計に怪しまれるだろう。
貴族の隠し子とか? それも微妙だな。そもそも貴族の制度や作法が分からないためどうしたらいいか分からない。何を起点に疑いをかけられるか分かったもんじゃないってのもあるが、本音としてはそんな神経すり減らすような真似はしたくないのだ。
取り敢えず、浮かんで来ないから修行してたとか言えばいいか。突然師匠に転移させられたとか言って切り抜けよう。
極度の面倒臭がりな俺は取り敢えず、3番目の案にしようと決める。
「俺はどこかも分からないところで師匠と修行していたんだ。この宝石や装備は師匠に貰った」
「何故どこにいたかも分からなかったんだい?」
まぁそうなるよな。
「師匠は事あるごとに転移して修行場所を変更するし修行が終わった瞬間、いきなりこの街の近くに転移させられたんだ。師匠曰くヴァルハラには強い力を持った人が少な過ぎる。だからあなたをてんせ……転移させます。とか言ってた」
危ねぇ! 思わず転生とか言いそうになったよ。あ、そうそう一応言っとくが、師匠とは女神の事を指しているからな。女神の言葉を少し変えて話しているが、まぁ大丈夫だろう。
またしても、何者かに説明している俺。何故か分からないが言わなければいけないのでは? という衝動に駆られるのだ。
門番が顎に手を当てた後、道を開けた。
「そうか、分かった。通って良いよ」
良いのかよ! 自分で言うのもなんだが、俺って結構怪しいと思うんだが。こんなのは異世界では当たり前なのか? 
そんな事を思っているとまた門番に声を掛けられる。やはりダメだったか? と思い門番の方を振り向く。だが、別にそういう訳でも無いようだ。門番は重そうな革袋を手にしている。
「あっ、そうそう。これお釣りだよ」
ジャラジャラ、ドサリッ
何だろう? と思いってると、門番はキラキラした硬貨が入った革袋を俺の足下に置いた。その事に俺が首を傾げていると門番は微笑んで、宝石は高過ぎるよっと言ってきた。
それを聞いた俺は袋を受け取りアイテムボックスにしまう。
「……すまんな」
そう言って俺はレグルスへと入って行く。
どうも作者のtaxiです。
門番相手に1話使うつもりなかったのですが……気付いたらもう遅かった。つ、次は街ですから大丈夫ですよ。ええ、大丈夫ですとも! 
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コメント
taxi
あっ、「とある」で調べれば出て来ると思いますので。
taxi
とあるとこから来ました〜w
いや、皆まで言わないよ?
分からない人はググってください。すみません。
黒猫
何処のアクセラさんかな?w