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妹はこの世界でただ一人の味方

さらだ

手巻き寿司

「・・・石はないか。」

ダンジョン16階、風通しがすっかり良くなってしまったその階に魔王はいた。

「連絡が途絶えたから来たものの・・・何をやっているんだ。」

魔王は愚痴を呟いていたが、この階の有様を見て生存を諦めていた。
倒した目処が立っているからだった。そうでもなければ、全魔族を率いてでも探していたことだろう。魔族は仲間意識が高いため、そのような統一が取れるのだ。

「向かうか・・・。」

魔王は体を浮かせて学たちの家の方へ向かうのだった。





その同時刻
「だからな・・・男としてあれは不可抗力だろ。たとえ神であっても目をそらす事は許されないと思うぞ。特に結衣のであったら。」

キリッとした顔で結衣に訴えている学だったが、左頬にはグーで殴られた跡が赤く残っていた。

「でもイタズラしたのはお兄ちゃんだし、私が殴っても問題はないはず。」

「それを言ってしまうのなら結衣が先に痛めつけてきただろ。」

「それはお兄ちゃんが私の手が小ちゃいって言ったから・・・。辿って仕舞えばお兄ちゃんが悪いことになる。」

それの何がいけないんだよ・・・。本当の事言っただけじゃねぇか。

学が心の中でそう思っていると結衣はギロリと学を睨んだ。

「今何を考えていたの?」

「別に何も考えていなかったが。」

怖。これが女の勘ってやつか。

「まあこの話は終了しよう。いつまでたっても平行線になるのは間違いない。」

「お兄ちゃんがしなければよかったのに...」

若干拗ねている結衣をどうしようかと迷っていた学だったが、それよりも早く結衣は立ち直った。

「仕方ないから・・・早く忘れて・・・。その、恥ずかしいし・・・。」

結衣は顔を羞恥に染めながらもそう言った。学は一息ついて断言した。

「ああ勿論だ! ・・・永遠に記憶を失わないスキルってあるのか?ボソッ」

その学が小さく呟いた言葉を結衣は聞き逃さなかった。学の襟元を掴んで揺さぶりながら涙目と赤くなった顔で訴え始めた。

「ねぇ!さっき言ったことと矛盾してるんだけど!早く記憶なくしてよぉぉぉぉ!」

「まあ努力はしてみるぞ。本当だからな。」

「もう信じられない!」

そのままそっぽを向いてしまった結衣を見て失言だったなと学はひっそりと思った。





「夕食できたぞ〜。」

学は二階にいる結衣に向かって声をかけた。数秒経つと不機嫌さ丸出しの結衣が降りてきた。

「今日は結衣が好きな手巻き寿司だぞ。」

結衣はその言葉すらもスルーして椅子へと座った。学も座り、対面するような形になると結衣は小さく言葉を発した。

「イクラお願い。」

「・・・はいよ。」

一瞬何を言っているのか理解できなかった学だが、なんて事はなかった。ただ学に巻いて欲しいという結衣の要望だった。謝罪の意も含めて学は結衣の要望に応えた。要望といっても、手巻き寿司を食べるときはいつも学に作ってもらっているのだが。

「はい。イクラな。」

「ありがとう。」

結衣がゆっくりと食べている間に学も自分の分を作って食べ始めた。結衣は食べ終わったが、なにかを頼むような行動は起こさなかった。学が食べ終わると要望は続いた。

「サーモン。」

「イエッサー・・・。」

結衣がゆっくりと食b(以下略)

何度か同じやり取りをすると、結衣が自分の服の袖をまくって言った。

「次は私の番ね。ついカッとなっちゃってコキ使うような行動になっちゃったけど、・・・理不尽な事で怒っちゃった私が悪かったから。だから、ごめんなさい。」

先に謝ったのは結衣だった。出鼻をくじいた学だったが、自分の椅子の下からハシバミという花の花束を出して言った。

「いや、俺こそ悪かった。何か嫌な事を言ったならそれは俺のせいだ。結衣のせいじゃない。」

ハシバミは赤い小さな花が特徴のものだ。ロシアや東アジアの全域に生息する植物であり、花言葉は「過ちと仲直り」である。

結衣はその花言葉を知っていたのか、花を受け取ったものの、半分を学に渡した。
学も素直の受け取ると、花瓶を収納から出し花を入れた。それに続いて結衣も花瓶の中の花を入れた。

「これで仲直りでいいの?」

結衣が不安そうに聞くと学は頷いた。

「結衣がそれでいいんだったらいいぞ。」

「じゃあこれで仲直りね。次は私が握るからなんでも言って。」

結衣が胸を張っている姿は小動物が笑っているような愛くるしさがあった。
学は一瞬だけ見惚れて、すぐにその気持ちを振り払った。

これでさっきは失敗したんだぞ。少し落ち着け。とりあえず何か頼むんだ・・・。

「えっ・・・と、じゃあタコで。」

「うん。ちょっと待っててね。」



十数秒後...

「・・・ごめんなさい。」

つい先ほどまでの結衣と同じように結衣は目に薄っすらと涙を溜めていた。
手には学が頼んだタコが入った手巻き寿司を両手で包むように持っていた。
それは先ほどまで学が作っていた手巻き寿司とは大きく違い、不恰好なものだった。

「いや、謝ることはないと思うんだが。」

「でも、でも・・・形変だし・・・。美味しそうに見えないし・・・グチャグチャだし・・・。」

ポロポロと涙が溢れ出してそれが手巻き寿司にかかった。学はその手巻き寿司を取って自分の口に放り込んだ。

「あっ・・・!」

結衣は呆気に取られていたが、感想を知りたいという気持ちが優先して黙った。

「うん。しょっぱいな。」

学は危うく美味しいと言いそうになった言葉を飲み込んでそう言った。
美味しいことには美味しかったのだが、本当にしょっぱいという味もあったのだ。それは涙のせいであって食材に問題があるわけではない。

学は立ち上がって自分の裾で結衣の涙を拭った。そして結衣の手を握り、

「涙さえなければ俺と同じ味は出せる。笑顔の方がいいぞ。食べてもらう側もそんな気分になって作るのも楽しくなる。」

結衣はその言葉を聞き、自分の裾でゴシゴシと目をこすると笑った。
学もフッと笑うと一緒に手巻き寿司を作り始めた。

その日の手巻き寿司は格別に美味しかった・・・らしい。




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以下作者のコメント
減るかもしれませんが、この瞬間はフォロー数が1000人を超えました! 有難う御座います!
そして次の更新は5月5日になると思うんですけど、5月5日はこの作品の最初の話を投稿して5ヶ月目です。
二重の意味でお祭りです。ワッショイ ワッショイ(=^▽^)σ

本編にも出しましたけどハシバミの花言葉は「過ちと仲直り」です。こういった花言葉は意外と面白いものですよ。

例えばスイセンという花ですが、花言葉は「偽りの愛」です。恐ろしい・・・。

結構ショックだったのはアジサイで「冷淡な人、浮気」です。結構好きだったんですけど意味が・・・。なんとも悲しい現実ですね。

補足ですが、四葉のクローバーは「幸運」という意味がありますが、三つ葉のクローバーには「約束、復讐」という意味があります。
三つ葉のクローバーは一言言っておかないと復讐と勘違いされるかもしれないので気をつけてくださいね。

まぁ・・・僕の本音で言えば花言葉を覚えてる人は少ないと思いますけどね。


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コメント

  • さらだ

    夢と現実の差を教えてくれて有難う御座います(笑)
    僕もアニメのような弟が欲しかったですが、現実はそうじゃないんですよね。
    一人っ子には僕もなりたいです。

    0
  • たーくん

    リアル妹だとそう上手くは行かないので「こんな妹が居たら良いな」で終わりにするしかありません。むしろリアル妹はほとんどが生意気や憎たらしいとしか思いません。私は正直ひとりっ子になりたいですね。

    1
  • さらだ

    だといいんですけどね。

    0
  • さらだ

    こんな妹がいたらなぁとか思いながら書いてますね。ほんとに妹が欲しいです。
    まあ喧嘩して、仲直りするっていうのは僕が好きなだけなんですけどね。

    0
  • ミラル ムカデ

    作者さんの作品はスッゴイおもろいのでフォロー減ること無いと思いますよ!

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