プロローグ

三歳の誕生日の朝、目覚めると転生前の記憶が蘇った。
前世で経験した出来事がフラッシュバックしていく。
走馬灯とは、こういうことを言うのだろうか。
死ぬとは、またちょっと違うけども。
ベッドの上で体を起こしていた俺は、二度寝をするかのように布団にくるまる。
布団の心地良さに包まれながら、転生するときに神と話したことを思い出す。



「おめでとうございます。あなたは、この世界で再び人生を送ることができます」
「....は？」

どこかしらクールな印象を受ける黒髮ロングの美少女は、俺に向かって淡々と喋った。
正直、いきなり現れた光景に少しパニクっている。
現実世界に存在するとは思えない光景だ。
床、天井、壁。どれも驚くべきほどに真っ白だ。
だが、目に不快感を感じさせない。不思議な部屋だ。


それにしても、人生を再び送ることができる？この女何言ってやがる。この言い回しから俺は死んだのかと思った。そうだとするとこの女は、神とでもいうところだろうか。

「残念ながら、あなたはもう死んだのです」

やはり死んでいた。
人って簡単に死ぬんだな。俺まだ20年しか生きてねえよ。どうせ死ぬなら死ぬ前に豪遊しておくべきだったな。節約して色々頑張ってたのが水の泡だ。

「...あまり驚かれないんですね」

「いや、すげえ驚いてるよ。すげえ動揺してる。死ぬ前に痴漢でもしておけばよかったなと頭に過ぎるぐらいには動揺してる」

「最低ですね」

「そんなことより、なんで死んだの？俺。全然覚えてないんだけど。」

「風呂で気絶して、溺死です」

「うわぁ...死因くそだせえ...」

風呂で居眠りをよくする俺は、それが原因で死んでしまったらしい。なんとも悔やまれる死に方だろうか。自業自得である。
次の人生では、風呂場で居眠りは禁止だ。
でも、気持ちいいのでやっぱりしちゃうかも。
考え方によっては、この死に方は本望だな。
気持ちいいことをして死ぬ。テクノブレイクと一緒だ。


「ですが、先程言った通りあなたは、異世界で再び人生を送ることができるのです」

「おおー、宝くじに当たったような気分だぜ」

「そうですね。確率はそれぐらいのものだと思ってもらっても問題ありません」

不幸中の幸いとはこのことか。なんともラッキーな話である。転生というのであれば人生をまた始めからやり直せるということだ。次の人生は、薔薇色の人生を送ることとしよう。

「転生先の世界は、魔物や異種族が存在しており、魔法を扱うことが当たり前の世界です。日本人が妄想に耽っているファンタジーな世界です」

「それは興奮するな。俺も中二のころは、魔法とかそういう類のものに憧れたもんだぜ。ワクワクするなぁ」

「そこで、あなたに贈りものがございます。」

贈り物？異世界転生における特典みたいなものか。ライトノベルとかでは、チートみたいな能力をもらって主人公が無双する話とかがたくさんあったな。個人的にあまり好きではないが、そんなことを経験できるならこの上ない幸せだろう。

「まずは、転生してもあなたの経験した記憶は引き継げます。ただし、あなたや他の人の名前などは忘れてしまいます。都合のいいことだけ覚えていると解釈してくださっても構いません」

「なるほど、自分の名前が思い出せなかったのはそのせいか。まぁ、記憶が引き継げるだけでも非常にありがたい」

「そして、もう一つスキルを差し上げます。言語理解EXというスキルです。文字通りどんな言語も理解できます」

便利なスキルをもらってしまった。チートみたいな能力は、もらえなかったが十分すぎる贈り物だ。なにせ外国語を勉強しなくても使えるのだからな。世界を旅することにでもなったら便利すぎるスキルだろう。

「色々ありがとうな。今更だが、あんたって神様なのか？」

「そうですね。私は、あなたが転生することになる世界で人々から全能神として信仰されている神になります」

「やっぱ神様なのか。名前はなんて言うんだ？」

「セシルです」

「セシルか。転生したらあんたの熱狂的な信者になって毎日あんたの銅像にキスしてやるぜ」

「結構です」

俺の渾身のジョークを華麗にスルーされた。神様なだけあってノリはあまり良くないのかもしれない。

「では、お時間です。今度は、長生きしてくださいね。」

「ああ、世界を統一して俺の帝国を築き上げてやるよ。本当に色々ありがとうな。」

まあ、もちろん冗談だが。
こうして俺は、転生することとなった。
転生した後でも、またセシルに会えたらいいなと思いながら。