ヤク中異世界で役に立つ(かも?)

みんみん

いざナルハレ街へ


 記憶を取り戻してから数日、ナルハレ街に行けばかかりつけ医だった王都の医師の診察はなかなか受けられなくなるという理由で薬を大量に処方してもらった。それでもこっそり1ヶ月に1度診察に来るそうだが、どうなるかわからない。今まで勝気だった娘が気弱になり心配気に薬を強請ると、医師はあっさり大量に処方してくれた。チョロい。
 私の連日のODは軽いものではあるものの続いており、それはこのナルハレ街に来ても続いていた。まだ、誰にもバレていないが着々と魔力が強くなっていっているのを感じる。そもそも、魔力アレルギーによって身体から大量の魔力が抜けてしまった時にそれを補うために飲む薬なのだから強くなるのは当たり前なのだが、本来人間がこんな飲み方をしたら体が耐え切れず死ぬ。リリーがこれを出来ているのはひとえに霊体化したことによるものだった。

「リリー、これはここ、こっちはここだよ。」

 ナルハレ街の別邸の離れに引っ越してきた私は現在荷解きの真っ最中だった。カナタはせっせと重たい箱を運んで、片付けていく。

「貴女はほうっておくと無理するからね、私が全部やるから、ちゃんと休んでてね。」

 カナタは元々私に対して過保護であったが、今回の件でより過保護になっていた。背が低く身体の弱い私と、背が高く細いながらガッチリしたカナタ。私の見た目が精霊に近くなってしまった今、傍から見れば完全に精霊と契約者の立場が逆転している。そもそも、本来ならば精霊と契約者であれば圧倒的に精霊のほうが権限を持っているはずなのだが、カナタははぐれ精霊、死にかけていたところを助けられて契約しているため普通とは違う。

 そもそもはぐれ精霊とは何か。カナタの正体はなんなのか。それは、前世のゲームの中で明かされている。

 ゲーム内で明かされたカナタの正体は、全ての属性を司る精霊王だ。
 ゲーム『WORLDend』の初代では、カナタは司る属性がわからず精霊の世界を追い出されたはぐれ精霊として登場、その後リリーが死に魔王という脅威が去ったあとの世界をえがいた後日談として発売された『WORLDend-キミノコエ-』にて、新たに生まれた脅威からヒロインを守るために覚醒したカナタは、自らが何も司っていないのではなく、全てを司っていたのだと知り、その力を受け入れ精霊王となる。
 つまりはぐれ精霊とは何も司っていない精霊のことであり、カナタの正体は自らをはぐれ精霊と勘違いした精霊王だ。精霊の世界を追い出されたカナタは行くあてもなく魔物に襲われ弱っていたところをリリーの心臓を代償に助けられているため、カナタが死ねばリリーも死ぬ。だからこそ命をかけ心臓を自分に捧げてまで助けてくれたリリーに、カナタは仕えている。本来の精霊契約では精霊に捧げ物をし、精霊からの施しとして契約を得るので、立場が逆転しているのだ。

 リリーは考えあぐねいていた。カナタに早く精霊王であることを伝えるべきという考えはあるものの、伝え方に思案する。こちらから言ってしまっては何でそんなことを知っているのかということになるし、かと言ってゲームのようにカナタに窮地にたってもらうのも難しい。どうにかカナタに戦う場面をつくらせ、その中で気がついてほしい、が、この平和なナルハレ街ではそれも厳しい。領地内の森などでは魔物に出会うこともあるが、リリーは匿われている身であり、そうそうには出歩けない身分である。

 なにか打開策はないか、リリーはストレス胃痛を抱えため息をついた。



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