ヤク中異世界で役に立つ(かも?)

みんみん

私は幽霊よ


 リリーが人知れずODを繰り返した次の日。リリーのベッドサイドには昨日のハーレイオス家の面々と医師だけでなく、屋敷の中でも偉い立場にいる使用人達や私付きの侍女全員が呼び出されていた。
 リリーのODはバレていない。元々大量に処方されている薬だから、棚の中にしまって必要な分だけ出してあれば怪しまれることは無かった。そもそも、彼らの中のリリーは勝気で負けず嫌いな12歳だ。まさかヤク中だなんて発想がない。

「皆に集まってもらったのはほかでもない。リリーの今後についてだが…」

 皆が集まったところで、父親であるハーレイオス家当主アレイストが低く良く通る声で話し始めた。

「リリーは見ての通り、精霊に近い存在になった。これによって、様々な脅威から狙われることとなると思う。しかし、もう以前のように娘に辛い思いはさせたくない。これは私のワガママだが、親として、リリーを匿いたいと思う。」

 アレイストお父様は今回のことがよほどこたえたのか、目の下はひどいクマができ、頬はコケていた。発言にも熱がこもっている。リリーはまた愛されていることに心臓が締め付けられるような暖かくなるような不思議な気持ちを抱いていた。

「そのため、ここにいる皆には緘口令を敷きたいと思う。これは当主命令だ。」

 そう言うとアレイストお父様は私を見つめた。

「リリー、済まないが君は今回の魔力アレルギーによって…死亡したこととする。」

 周囲が息を飲んだのが分かった。国命によって、聖女は教会に縛られている。それを退けることは、侯爵家にはできない事だ。だから、私が死んだことにする。それは、バレてしまえば国を追われるようなひどく重い秘密であった。

「リリーは今後、王都から離れ、我が領地であるハーレイオス領のナルハレ街の別邸にて養生するのが最善であると私は考えている…これは、リリーの意志にもよるが…」

 そう言うとアレイストお父様は私の手を優しく握り、弱々しい声で「よいか?」と言った。私としてはせっかく愛情を貰えるようになった家族と離れるのは心苦しかったし、大切な人達に重大な秘密を背負わせてしまうことも申し訳なかったが、このまま王都にいるよりも最善であることは理解していたため、了承した。

 ハーレイオス領のナルハレ街はハーレイオス領で最も栄えている街であり、兄であるグレイセスお兄様が住む街でもあった。国の重役であるアレイストお父様は王都で働き詰めであるため、長男のグレイセスお兄様がハーレイオスの領地を治めている。ハーレイオス領は1年を通して日本でいうところの春のような過ごしやすい温暖な気候で、ポーキーというリンゴくらいの大きさのイチゴみたいな果物や、パルムというスイカのような大きさのミカンのような果物が特産品である。リリーも大好きな領地であり、王都からはそれなりに遠く、土地に根付いた精霊の数も多い豊かな大地だった。そこでなら、ある程度精霊として誤魔化しがきくというのが狙いだろう。リリーを匿うにはうってつけの場所である。

「リリーはなるべく早く…2日後の早朝に此処を出立しなさい。グレイセス、お前も一緒に領地に戻れ。侍女は少ないが、3人だけついて行ってほしい。気付かれるとまずいのでな。それからリリーについて行きたいものは志願者を募る。多くても10人まで、徐々にナルハレ街へ向かってもらうことになるだろう。なにか異論はあるか?」

アレイストお父様の声に、誰も異論は唱えず、翌日から屋敷は表立っては静かに、裏ではひどく慌ただしく動き始めた。


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