チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
三章 14話 『破滅竜ベンガドラム』
粉々になった岩の上に存在し、遥か高みからオレたちを睥睨するその化け物は、紛れも無い、最も有名な空想上の生き物、ドラゴンだった。
夜の闇より尚暗い漆黒の鱗だが、身体の中心を離れていくにつれて、尻尾や爪の辺りは鮮やかな紅に縁取られている。
鋭い牙の覗く口を開き、赤く長い舌を躍らせながら、星空の様に煌めいた瞳を細める。
「・・・・・・・・・ッッ!!」
途端、ドラゴンは有り得ない事をした。
ーーーオレは元来、爬虫類が苦手だった。何故なら、彼らには喜怒哀楽が無い様に見えるからだ。同様の理由で虫も苦手だ。
感情が分からない。だから空恐ろしい。オレは今までそんな理由で彼らを嫌ってきた。
しかしオレのそんな考えは、今、根底から覆された。
超硬質の、爬虫類然とした鱗を歪ませて、グニャリと、陰惨に嗤ったのだ。
この世の不気味をかき集めてきて、余りある恐ろしさだった。
爬虫類にあるまじき感情表現の豊かさだ。怖気がたつ。
「爬虫類が笑わない理由が分かったわ・・・。無表情の方がずっと愛くるしいもんな・・・!!」
その嗤い顔は、嗜虐的というにはあまりに残虐の要素が強い。
眼下のオレを、獲物とすら見ていない。不敵さ、ともすれば油断と慢心。
しかし、そのソレもむべなるかな。
黒紅竜がそう足り得るほどの邪悪さが、強大さが、ゾウの身体ほどもある肉体に凝縮されている。
「あ、あのドラゴンは・・・ッ!?まさかそんな、有りえねぇ!!」
先の大嵐によって吹き飛ばされたゴロードの子分たちが開口一番、声を震わせた。
「アレはッ!あの竜はッ!!300年前に世界を滅ぼした厄災!!!」
「伝説の4大魔獣『夜哭』の中でも最強!」
「破滅竜ベンガドラムだッッ!!!」
声高に喧伝された黒紅竜、ベンガドラムの正体。心なし、ドラゴンが満足げに舌をチロチロと出している。
と、ベンガドラムの機嫌も束の間、勢い、口をグパッと牛一頭丸呑みできるほど大きく開けた。
露出されるベンガドラムの口腔。漆黒の鱗と血色の良い口内のコントラストはどこか倒錯的で、頭がおかしくなりそうだった。
「何を・・・・・・ッッ!?」
ベンガドラムの口腔が、暗赤色に煌き出した。『ドラゴン』、『口から』、その2つの要素で、オレの頭は数瞬後の有り得る未来を弾き出した。
咄嗟にマドリをオレの後ろへ持ってくると、指を引っ張る。ジャラジャラと音を立てて鎖に変貌するオレの指。
最初、暗赤色だった炎は口腔に留まるうち、目も眩む黄色へと様を変えていく。
火は温度に比例して、段階的に色を変えていく性質がある。赤から、黄色。黄色から白。空を見上げた時、太陽の色が丁度白色だと思う。
魔法や魔力に疎いオレですら既に可視化できるほどベンガドラムの口内に魔力が集まっているのが分かる。
十数メートル離れているオレの眼球の水分を吹き飛ばし、肌の表面を炙る。第2の太陽が、生まれたのだ。
「ズオォォオオオォォ・・・・・・ッッ!!!」
一箇所に集められ、凝縮された魔力がその限界を主張して、飽和する。
途端、白色の極光が一転して漆黒の業火へと昇華される。魔力の結晶、総決算、その粋の全てが、オレに向けられていた。
破滅竜、ベンガドラム。決して名前負けで無いと身を持って悟る。世界を焦土に変える息吹。
行き場を無くした魔力の膨大な奔流が、一方向に定められる。
遺伝子が震撼し、脳が割れんばかりの警鐘を打ち鳴らしている。
おどろおどろしく吐き散らかされる業火を前にオレはーーー
「『鎖盾ーーーライオットシールドッッ!!!』」
超常が捩れた。作り出されたのは三層から成る武骨な鎖の盾。
破滅竜の息吹と相対した直後、一層が弾け飛んだ。続く二層も闇に侵食される。
「グウゥ・・・・・・ッッ!!!アアァァアアアァァァァァッッッ!!!!!」
魂が絶叫している。平時ではあり得ない量のアドレナリンが滝の如く分泌されて視界が発色されていく。
正味、ライオットシールドで僅かながら業火を止められているのは奇跡だ。とは言え、その奇跡も数秒後にはオレの死という形で打ち消える。
考えろ、考えろ考えろ考えろ!オレはいい!オレの後ろにいるマドリだけでも助かる方法!!あと1秒以内に、弾き出してみせろ!!
「ミツキィッッ!!!」
「ーーー研ぎ澄ましたる槍の速さで、遠くかなたへ飛ぶように、風よ、飛び行け速やかに、地の拡がりに従ってッッ!!」
「『第三位階ーーー極風大嵐ッ!!』」
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